★第14話ー3
城の中に入ると、空気がほんのり暖かく感じる。廊下を歩きながら見渡しても、ストーブみたいな暖房器具は無さそうなのに不思議な気がする。
「どうしたアレティーシア? キョロキョロして何か気になるのか?」
「薪ストーブも無いのに廊下が暖かいから、どうなっているのかな? って思って」
「それはな。コレだ」
父さんが僕を抱き上げ、廊下の天井に近い位置に一定間隔に掘られた小さな穴から灯る光の魔法石を見せてくれる。
「この魔法石は光と炎の属性が混ざっている。だから寒い日はこの灯りを使うんだ」
「本当だ。暖かいね」
目の前の魔法石に、手を近づけるとかなり暖かい。確かに廊下にこれだけあれば寒くない筈だよね。
こんな便利なら、もしかして。
「暑い日の夜は光と氷の属性が混ざった魔法石を使うの?」
「そうだ。よく分かったな。しかも魔法石は、この受け皿に乗せて少し魔力を流すだけで発動するから誰でも扱える」
「凄いね!」
「ちなみに安価だから一般家庭でも使えるんだ」
父さんはドヤ顔だ。もしかしなくてもフィラシャーリの名産品なのかもしれない。
「魔法石、と言うか、魔法関係は魔法が得意な草食獣一族が多く住むフィラシャーリ王国が1番詳しい。確か研究機関もあったはずだ」
僕たちの後ろを歩いていたリュカが説明をしてくれた。やっぱりこれは間違いなく名産品だね。
「今度これ皆んなにお土産にしたいけどいいかな?」
「友に渡すのか?」
「うん! ダメかな?」
「友は大切にしなくてはな。では用意させておこう」
「ありがと! 父さん」
けっこう皆んな暑かったり、寒かったりする地域に住んでいるから絶対喜ぶと思うんだよね。
父さんは僕の頭をクシャリと撫でてから、横抱っこしたまま食堂に向かって再び歩きだす。
肩越しに後ろを見たらヴァレリーとバッチリ目が合った。その瞬間嬉しそうに微笑み、僕から目を離す事なく鼻歌まで歌ってついてきている。
リュカは天音を肩に乗せて、ヴァレリーの後ろを歩いているんだけど、夜で何も見えないはずの真っ暗な窓の方ばかり見ている。協力する時もあるけど基本的に、ヴァレリーとリュカは仲が悪そうだよね。間違いなく僕絡みだと思うんだけどさ。
リュカの後ろにいる、母さんはいつも通り綺麗な歩き方でアイリと楽しそうに話しながら歩いている。
久しぶりに再会した家族を、観察をしているうちに食堂に到着した。
父さんに椅子に座らせてもらって全員が揃うのを待つ。
全員が席に着くのを確認すると、アイリが美しいワイングラスに葡萄ジュースを注いでくれる。僕は未成年だからね。父さんたちのワイングラスには赤ワインがゆっくり注がれていく。
「皆、揃ったようだな。アレティーシアとリュカデリクの無事に乾杯」
「「「乾杯」」」
まずは葡萄ジュースをゴクリ。甘くて濃い感じなのに飲みやすくて喉越しがいい。フルーツは好きなので一気に飲んでしまう。
「プハァ」
思わず前世の癖をやらかしてしまった。冷や汗をかいて母さんを見るとニコニコ微笑んでいる。
「今日は気にしないでお食べなさい」
「えへへ。ありがと! 母さん」
実はテーブルマナーは、全く勉強してないんだよね。言い訳になるかもだけど、旅してると必要なかったからさ。
まぁ。そんな訳で次々に出てくる上品で見た目も美しい、料理の数々を遠慮なくガツガツと頬張っていく。
肉も野菜もスープも、とても美味しかった。
けれど不満が一つだけある。
それは最後に出されたデザートのケーキが、思ったより硬くて甘味も少なくパサパサだった事だ。
やっぱり試してみたいよね。カタカナでケーキ召喚と思って椅子から降りようとしたけど。
「リュカデリク。旅で分かった事の報告を頼む」
「分かりました。リデアーナ様、その前に人払いをお願いします」
母さんは席から立ち上がると、食堂の入り口で待機していたアイリに耳打ちをする。アイリはお辞儀をして、食堂から出てドアを閉めていった。それを見届けてから再び母さんは座った。
ケーキって雰囲気では無いので、今はやめておこうと思い椅子に座り直した。
リュカが、黄の大陸に渡ってから青の大陸で起きた事まで順序だてて最後まで話し終えると、父さんが考え込むように「ううむ」と唸る。
「先に起きたティルティポーの爆発事件の裏でそのような事が起こっていたのだな」
「はい。それで引っかかるのは白の動きです。こちらの動きを読んでいる節があるように思います」
「商人を装って動けば様々な場所、城にも入り込めるからな。分かった。門番に警戒を強めるよう伝えておこう」
「よろしくお願いします」
「あとは消滅したはずの白の大陸が生きているとなると、今どうなっているのかだな……」
「はい。各大陸に協力を仰ぐ事は出来ましたが、何の対策も無しに行くのは危険だと思われます」
「先見隊が必要だな」
先見隊か……。
白の大陸は敵の本拠地。赤い茶葉、お香、糸……。それ以外にも何かありそうだと僕も思う。いきなり全軍突入は、あまりにも危険すぎるからね。
でもそれってある意味、未知の場所だよね? 好奇心がうずいて見に行ってみたい気持ちになってしまう。
「僕が行きたい!」
手を挙げて椅子の上に立ち上がると全員に注目された。行儀が悪いと思いつつも、椅子を降りると僕の姿はテーブルで見えなくなるからね。
そして。
「アレティーシア分かっているのですか? 今までの旅とは違い今度は命懸けになるのですよ? 城で事が落ち着くまで私たちと大人しく待ちませんか?」
思った通り母さんから、やんわり行くのはやめてほしいと言われてしまう。
けどやっぱり僕は……。
「色々な事を見てきたし、危険があるのは分かってるよ。でもそれでも行きたい! そしてこの世界を色々見たい!」
美しいものを見て、美味しいものを食べて、新しく出来た家族や友達と楽しく過ごしたい。
これはこの世界に来てから変わらない思いだ。
前世で裏切られ、異世界に来てまで”あの2人”に翻弄されたけど、今はもう過去の事だと完全に吹っ切れている。だからこそ、その思いは強くなるばかりだ。
「決心は変わらないようですね」
「うん!」
「仕方のない子ですね。では必ず生きて戻ると約束してください。もう二度とあのような思いはしたくはありませんからね」
母さんの心配そうな顔を見て”アレティーシア”が毒殺された時の事を言っているのが分かった。
「絶対死んだりしないよ! 天音もいるし大丈夫!」
だから心配をかけないように、拳を握って宣言した。
「ならばオレも一緒に行こう」
「リュカいいの?」
「あぁ。オレはお前と最後の一瞬まで一緒にいると決めたからな」
「……ありがと」
家族が皆んな揃っている中でも、僕に対しての好意と愛情を隠す事がないリュカの言葉に、心臓の鼓動が全身に広がってドキドキが止まらないし身体中が熱くなってしまう。
父さんと母さんは微笑んで見てるだけだったけど、ヴァレリーだけは射殺さんばかりの眼力でリュカを睨んでいた。




