★第11話ー5
周囲に不審な者がいないのを確認するとユラハは襖を静かに閉めた。
全員が座ると、ルデラさんが懐から2つの紙袋を出して、部屋の中央に中身が見える様に袋の口を広げて置く。
「右が赤の大陸に持ち込まれた茶葉、左が青の大陸に出回っている香だ」
どちらも色は赤い、そしてあまり近づきすぎない様に匂いを嗅いでみた。
「同じ匂い?」
リュカとユラハも、僕と同じように匂いを嗅いで頷いている。
「そうなのだ。クルガの研究所で早急に調べさせたのだが、分かった事がある。フィン説明を頼む」
フィンが茶葉を右手に取る。
「研究所にいる獣人に、少しだけ匂いを嗅いで貰いました。茶葉の匂いを嗅ぐと、気分を悪くしたり頭がポゥとなる者が現れました。ここまでは分かっていた事ですが……」
今度は香を左手に持つ。
「同じ匂いにも関わらず、こちらの香の匂いを嗅いでも獣人には影響が無かったのです。なので念の為に研究所にいた数人のエルフに同じように試して貰いました……」
茶葉と香を再び紙袋に入れてから、フィンが神妙な顔で僕たちを見る。
「そうした所、エルフは茶葉の匂いには反応しませんでした。香の効果は直ぐに現れたので危険だと思い中断しました」
そこまで話してから、フゥーっと息を吐きフィンが紙袋を手に取る。
「間違いなく、この2つの出所は同じだと考えていいと思われます」
「そしてだ。あのあと商人を捕縛出来たのだが、信じ難い話しだった。まぁ……途中で口封じの魔法が発動して最後まで聞けなかったがな」
ルデラさんは頭をガリガリ掻いた。
「それでも良いから聞いても良い?」
「分かった。捉えた商人を尋問した所、白の大陸で奴隷たちに作らせてると言っていた。攫ってきた者たちに赤い草を食べさせ、正気を奪う代わりに、身体的能力が上がったり魔力が上がるらしいと、そこまでしか分からんかった」
「とりあえずの問題は”今は死んでいるとされる白の大陸”が、もしかしたら存在しているかもしれないと言う事です。しかもその地を悪用する者がいるようなのです」
「そういう事だ。それともう一つ、各地で行方不明になったとされる人々が白の大陸にいる可能性が出てきた訳だ」
あまりにも規模の大きな話しに、僕だけじゃなくリュカもユラハも驚きに固まってしまった。
「白の大陸へ行き真偽を確かめたい所だが、間違いなく敵の本拠地だ。迂闊に近寄れんだろうな。あと謎の赤い草の事もある」
「なるほどな。だがやはりティルティポーの、シャイナとラウルの2人だけで出来るとは思えないな」
リュカの言葉に、ルデラさんとフィンも頷いた。
「ねぇ! 少し気になった事があるんだけど……」
「なんでも良い話してみろ」
「うん。あのさ、シャイナは、王になりたいって言っていたけど、普通に白の大陸と契約すれば良い話だと思うんだ。ティルティポーって、元は白の大陸に住んでたんだよね?」」
「それはシャイナとやらの一族に王の資格が無かったか、もしくは、今も白の大陸に王がいる……と言う事だ」
「そっか」
少し前にリュカも同じような事を言ってたっけ。やっぱり大陸に認められないとダメなんだ。それよりも気になったのは、王が白の大陸にいるかもしれないって事。もしかしたら先見が出来る、ルルカやハルルも知らない事実なんてのもありそうだ。それか知ってても手が出せないとかさ。
「なぁ! あたしにも分かるように説明してくれねーか? 知らない事だらけでよくわかんねーよ」
それまで頭を抱え「うぅ……」と、唸りながら話を聞いていたユラハが遂にギブアップした。
確かにユラハには、詳しい事情を話して無かったからリュカが、事の始まりである僕の毒殺事件から、今までの全てをかいつまんで話して聞かせた。
「マジか……。この世界全体がヤバイって事かよ!」
リュカの説明を聞いた後に、ユラハは髪の毛をぐしゃぐしゃと掻きむしる。
「とりあえずママが元に戻んねーとダメなヤツじゃん!!」
「そういや。青の大陸は女王だったな」
「あぁ。その後ろのベッドで固まってる」
「見ても大丈夫か?」
「それは良いけど、まずあんたたちの名前を聞いていいか?」
ユラハが名前の事を口にした瞬間、ルデラさんとフィンは驚いた顔をした。
「ん? どうしたんだよ?」
「エルフは相手に無関心だから名前も聞いたりしないと思っておったのだが?」
「ま! エルフは他種族に興味無いから、普通は聞かねーけど、これからの事を考えるとさ。お互い知っといた方が良い気がしたんだ。ダメだったか?」
「いや。すまない。聞いてくれてかまわない。ワシは赤の大陸の前王ルデラだ。この先、色々と協力する事になるだろう。よろしく頼む」
「私はルデラ様の近衛フィンと申します。よろしくお願いします」
「あたしは、ユラハだ。よろしくな!」
3人が握手を交わすのを見て、エルフにとって相手の名前を聞く行為が、特別だと言う事を初めて知った。
ユラハが立ち上がり、ベッドのカーテンを開けて見せる。お客が来ると言う事で一時的に閉めておいたのだ。
「こ……これは予想したより深刻だな」
「えぇ。早急に対処した方がよろしいかと思います」
ルデラさんは声音に焦りを滲ませ、僕を振り返ると真剣な表情で。
「ルルカのドラゴンの力を借りるべきだ」
と、言った。




