★第11話ー4
暖かで賑やかな夕ごはんが終わると、メイドさんたちがお膳を下げて部屋から出ていった。
ユラハは立ち上がり、入り口から外を見回して誰も周囲に人がいない事を確認してから襖を閉めた。
「じゃ。話を聞いてくれ!」
「うん」
「分かった」
僕たちの前に、ユラハが胡座をかいて座る。
「城の中で正気を保っている兵士に、城中の窓を開けるように言ってから街に出たんだ。そしてまずは、門の辺りにいた正気そうな兵士に、街の民家全体の家のドアと窓を開けるように伝えた。他にも正気を保って道を歩いていたり買い物してる人たちに声をかけた。そこまでは良かったんだ」
そう言って、ユラハは立ち上がり戸棚から急須を出して茶葉を入れ、先程のメイドたちが部屋の隅に置いていった、火の魔法石で温められた鍋から湯を急須に注ぐ。戸棚から湯呑みを出してコポポと音を立て入れる。
「話が長くなりそうだから、これ飲みながら聞いてくれ」
僕たちの前に置いてから、再び胡座をかいて座る。
「ありがと」
「ありがとう」
「あたしが城から抜け出す時に使う裏道があってさ。その道をいつものように王都ユウギリから、港町サユラへ向かって歩いてたんだ。そしたらさ! ママに香をプレゼントした商人を見かけたんだ。しかも取り引きでもしてるのか何かを受け渡してたんだ。人影は商人を入れて3人いた」
僕は、無意識に唾を飲み込み、手に汗がジワジワ滲む。
「本当はさ! 兵士を呼んだ方が良いってのは分かってたんだけど、あたしに気づいた取り引き相手が2人とも素早く逃げちまってさ。残った商人の足もまた異様に早くて街に戻ったりなんかしてたら見失いそうだったからさ」
ユラハは、湯呑みを手に取り握りしめる。その手は少し震え、顔は不安と恐怖で蒼白状態だ。
「無理するな」
リュカが声をかけると、ユラハは緩く首を振ってから深く深呼吸をした。
「それで後を追って裏道の奥まで行った所で、その商人が振り返って、いきなりあたしに向かって切りかかってきてっ……」
恐怖の瞬間を思い出したのだろう。ユラハは頭を抱えてうずくまって震えはじめてしまった。僕は部屋の隅にあった毛皮を手に持って、ハクハクと荒い息を繰り返すユラハにかけ背中をさする。
「ご……ごめん……」
「無理しなくていい」
「いや。大丈夫。早く……知らせたいからさ」
再び深呼吸を繰り返し、毛皮を握りしめる。
「暗がりだったけど顔はバッチリ見た」
「商人と一緒にいた2人の事?」
「あぁ! エルフは人間より全ての感覚が鋭いから暗くても分かるからな」
「どんなヤツだったんだ?」
「2人とも赤い外套を纏っていた。顔つきからすると人間族だ。もう一度、顔を見れば分かる」
コツン! コツン! コツン!
とその時、開いたままの窓ガラスを突きながら、ルデラさんの鴉が戻って来た。
「わわ! なんだこの鳥!?」
「この子は僕の鴉だから大丈夫だよ」
「そ! そうなのか?」
「うん! 何処にいても手紙を運んでくれるんだよ」
「凄いな!」
初めて見る鴉にユラハが驚いて、のけぞってしまっている。
「ガァ! ガァ!!」
「おかえり! 今日は返事が早いね!」
早速、鴉の足に巻かれた手紙を解き開いて読む。
そこには『今すぐ調べさせる。青の大陸に直接、結果と共に行く。明日の昼頃には着く予定だ』と、一行だけ書かれていた。
「ルデラさんが直接ここに来るみたい」
「いつ来るんだ?」
「明日の昼頃」
「行動が早いな。だが助かる」
「うん」
手紙をリュカに渡す。
「おい! なんの話をしてんだ? 誰か来んのか?」
「うん。昼に話してた赤の大陸のルデラさんが来るんだよ」
「対策を練る為に出来るだけ早く、あの葉を研究所で調べて欲しいと頼んでおいたんだ」
「そっか。あっちは茶葉だって言ってたな」
「そう言う事!」
「ありがとう。あたしだけじゃ、どうにも出来なかった」
「気にするな」
ユラハは悔しそうに拳を振るわせる。でも、お父さんも、お母さんも、街中の殆どの人々が正気を失くしてる。こんな大きな事件は、1人では解決は難しいと思う。
「明日、合流するルデラさんと、ユラハの話を合わせて相談した方が良さそうだね」
「その方がいいだろう。何か新しい情報もあるかもしれないしな」
「んじゃ。今日は夜も遅いし寝るか!」
「うん」
「ユラハも、同じ部屋で寝た方がいい」
リュカの言葉を、ユラハは直ぐに理解して頷いた。取り引き相手を見てしまった、ユラハをこのまま放置するとは思えないからね。
「おやすみなさい」
「おやすみ」
「おやすみ」
「にゃん!」
隣室から人数分の布団を持ってきて、ユラハのお母さんのベッドの隣に並べて雑魚寝だ。油断出来ない状況だけど、皆んなと一緒に眠れるのは嬉しいと思ってしまった。天音も僕の胸元から出てきて布団に潜り込んだ。
次の日の昼過ぎ港に行くと、既にルデラさんとフィンさんがドラゴン3体と並んでいた。相棒の魔獣も一緒に動くのはお約束だ。
「ひととおり街を歩いて見てきたが、聞いていたより深刻なようだな」
「普通はドラゴンが3体も訪れると騒ぎになりますが、街の皆様は何事もなかったかの様にドラゴンの前を通り過ぎていきますからね」
ルデラさんとフィンさんは、手を顎に当てて「う〜む……」と唸りながら考えこんでいる。
「ルデラさん! フィンさん! こんにちは」
僕が挨拶をしてリュカが会釈をすると、こちらに気がついてルデラさんがニッと笑みを浮かべながら僕たちの前に来た。フィンさんはルデラさんの後ろで90度のお辞儀をしてる。
「来てくれて、ありがと!」
「気にするでない。ワシも伝えたい事があったのでな。フィンにドラゴンを出させて急がせたのだ」
「おい! こんな所で話す内容じゃねーだろ! あたしん家に来い」
「それもそうだな。行こうか」
話しを始めようとしたルデラさんに、ユラハがついて来いと言って歩き出す。
城に着き裏口に向かう途中、ユラハが立ち止まって振り向く。
「ドラゴンは、そこの納屋で過ごしてもらっても良いか?」
「分かった。フィン頼む」
「了解です」
ユラハの指刺す方を見ると、かなり大きな納屋がありドラゴン3体が入っても大丈夫そうだ。フィンさんが指笛で、ドラゴンを誘導して無事に入ったのを確認して、ユラハがドアを厳重に閉める。
それから少し歩いて、裏口の木製ドアから入る。
「街の民家も珍しい建物だったが、この城も一風変わってるな」
「はい。見た事が無いですね。けど美しいと思います」
「あぁ、外観も素晴らしいが、この畳は良いな」
「靴を脱いで歩くのは抵抗がありましたが、歩いてみると畳は気持ちがいいですね」
ルデラさんとフィンさんは、日本にそっくりの家々と城がとても気に入ったみたいだ。2人の反応を見て、ユラハも嬉しそうにしている。地元を褒められるって嬉しいからね。
「ここだ! 入ってくれ」
ユラハが襖を開けてルデラさんとフィンさんを部屋に招く。僕とリュカは、昨日から寝泊まりしてるから3人の後に入った。




