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★第11話ー3

 夜になるとゴウゴウと風の音が響き、城の中にまで冷気を伴い雪が室内に入ってくる。


「寒! しかもユラハ帰って来ないし……」

「街まで伝えに行くと言っていたが、それにしても遅すぎるな」


 外は既に真っ暗で、窓から地上を見下ろすと民家から漏れる灯りがチラチラ見えるのみで、他には何も確認出来ない。


「探しに街に降りてみない? ちょっと心配だからさ」

「あぁ。行ってみよう」


 ユラハと一緒に通った通路を歩き階段を降りて、入ってくる時に使った木製のドアから外に出る。


 城門を出て街中に行くと、夜にも関わらずぼんやりと歩く人々は相変わらずいる。


「一気に効果は出ないよね」

「この街に来た時から、ほんのり香のような匂いはしていたから、匂いが消えるまで、まだ当分かかりそうだな」

「うん。確かに青の大陸に来てから、あの香の匂いが仄かに漂っていたよね」


 実は船を降りてから、寒さ対策で目元以外は布で覆ってたし、危険な香りだとは全く思って無かったから匂いは気にしてなかった。


「ユラハのお母さんに万能薬を試してみたいけど、匂いが残っているから効果があるか不安なんだよ」

「あぁ。このままでは使っても効果があるか分からないな」

「やっぱりルデラさんの結果待ちかなぁ……」

「それしかないだろうな」


 赤の大陸の茶葉と、青の大陸のお香、どう考えても同じモノに思える。そして謎の商人も。


「それにしてもユラハいないね。街の裏通りも見た方がいいかも?」

「分かった。オレから離れるなよタキ」

「うん! あっ! ちょっと待って」


 懐中電灯は電気の存在しない、この世界では呼び出しても、ただの置物になってしまう。かと言って、蝋燭は心許無い。となると、コレだよね。


 指先に光を灯し思い描く。


『松明』


 地面に落ちる前に、木の部分を掴む。


「出来た! 良かった明るい!」

「明かりがあるのは良いな。オレが持とう」

「安心だよね。よろしくね」


 リュカに松明を持ってもらい、民家の灯りすら届かない、真っ暗な裏道に入っていく。


 裏道の雪に埋もれた所や、木箱が山のように積まれた倉庫の中や、ゴミ置き場と分かる鼻が曲がりそうな匂いの場所も探したけどユラハは見つからない。


「あとは墓地しか無いけど……」

「ここまで来たんだ行ってみよう」

「うん」


 裏道の1番奥は墓地になっていた。墓石が幾つも並び薄ら寒い雰囲気だ。雪も降っているから体感的に当然極寒ではあるんだけど、なんと言うか墓地って言うだけで心から寒いんだよね。


 なので無意識に、リュカの毛皮のコートの裾を握り締めてしまっていた。その僕の手を、リュカは優しくコートから外し握りしめてきた。安心感よりも、心臓がドキドキ騒ぎ出し鼓動も止まらない。暖かい通り越して熱いくらいだ。


 僕のドキドキに気がつく事なく、墓地の奥へと進んでいく。


「ぐぅ……ゔぅぅぅ……」


 墓地の1番奥まで来た所で、苦しそうな呻き声が聞こえはじめた。


「リュカ!」

「急ごう!!」


 声のする方へ走って行くと、墓石に身体をもたれさせ荒い息を吐いている人影を見つけ駆け寄る。


「!? ユラハ!!」

「おい! しっかりしろ!!」


 顔色は真っ青になり、肩口から腰の辺りまで鋭い何かで抉られ、内臓までやられているのか出血も酷くピクリとも動く事が出来ないユラハがいた。


「リュカ万能薬あるだけ出して!」

「分かった!!」


 リュカから10本の万能薬を受け取り「ゴメン脱がすね」と、声をかけ服を一枚ずつ脱がしていき、未だに血が止まらない傷口全体に、万能薬をかける。


「ゔぅ! ぐぁ!!」


 かなり傷に染みたのか、叫びを上げて目を見開いたかと思うとガクリと気絶してしまった。


「ゴメン我慢して直ぐ治るから……」


 けど体力も体温も失われてる。もう一本『万能薬』を召喚して、リュカに支えてもらいながらユラハにゆっくり飲ませていく。


 暫くすると、スースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。


「よ……良かったぁ〜……。助けられたぁ〜」

「本当に良かったな」

「うん! うん!!」


 もしかしたらふわふわで、まん丸になってしまうくらい厚着していたから、即死は免れたのかもしれない。


 ホッとして、地面に座りこみ泣きはじめた僕の頭を、リュカが優しくクシャリと撫でてくれた。


「このまま、ここにいては凍えてしまうな。オレの背にユラハを乗せる。手伝ってくれ」

「うん。分かった」


 脱がせた服を整えてから、リュカがユラハをおんぶするのを手伝う。力の抜けてる人は重いからね。


「帰りは僕が松明持つね」

「頼む」


 墓石に立てかけておいた松明を、持って城に向かって歩き出した。



 城に最初に訪れた時に入った、ユラハの母親の部屋に戻ると、隣の部屋から布団を勝手に拝借してユラハを寝かせる。


 ユラハの額に手のひらをあてる。寝息も穏やかだし熱も無い。と、その時、瞼がピクピク動きユラハの目が覚めた。


「……あたし……生きてる?」

「うん! ユラハ生きてるよ〜!!」


 ゆっくり身体を起こし、まだ血がべっとり付いている服をめくり、ユラハはペタペタと全身を触って確かめる。


「傷も無い。もしかして、あんたたちが助けてくれたのか?」

「凄く酷い傷だったけど丁度、薬を持っていたからね」

「本当にありがとう! あんたたち……いや、まだ名前すら聞いて無かったな……すまない。名前を教えてくれ! いや、教えてください」


 飛び起きて、布団の上で土下座をしだした。


「お礼は良いよ。顔をあげてよ! 本当に助かって良かった! 僕はアレティーシアだよ。タキって呼んで欲しい。あと胸元で寝てるこの子は天音、僕の相棒だよ」

「あぁ。無事ならばそれで良い。オレはリュカデリクだ。リュカで頼む」

「タキと天音とリュカ! 本当に助けてくれてありがとう。命の恩人だ」


 ユラハは布団から体を起こしニコッと微笑んだ。


「あと夕飯もまだだろ? 少し遅いが暖かい鍋を用意させるから食べてくれ」

「ありがと! お腹ぺこぺこだったから嬉しい」

「ありがとう。それと食事の後でいいから、何があったかも教えて欲しい」

「分かった。と言うか相談したいから聞いて欲しい!」


 食事を用意させるから少し待ってて、と言ってリュカがいるのにも関わらず、目の前で着替えてから襖をスパーン! と開け、部屋を出ていった。




 30分程して、お膳を手にしたメイドさんを5人伴って戻って来た。


「こっちに運んでくれ」


 部屋の中央に、火の魔法石の上に乗せたグツグツ煮えたぎる大きな陶製の鍋を置き、そして鍋を囲むように1人1人の前にお膳を並べる。しっかり天音の分もある。


「お米! 味噌の匂い! うわぁ! 和食だ!!」

「かなり変わった料理だな」

「にゃ?」


 僕にとっては日本を思い出す懐かしい食べ物だけど、リュカは馴染みが無いのか少し驚いている。良い匂いに誘われて目を覚まし、僕の胸元から出てきた天音も不思議そうに見つめている。


「猪の肉団子の味噌鍋はユウギリの名物なんだ。でもタキは鍋を知ってんだな」

「うん! 故郷でよく食べたよ。醤油味が多かったけどね」

「そうなんだ! じゃ。タキんとこと食文化が似てんのかもな」

「うん! 楽しみ〜!」


 盛り上がる僕たちの隣で、リュカと天音は微妙な顔をしている。


「よし! 良い感じだ。 お椀についでやるな!」


 お椀を渡すと肉団子や野菜をたっぷり入れてくれた。


 いただきますをしてから、パクリと口に放り込む。


「ハフハフ! 味噌が濃厚で肉団子も柔らかくて美味しい〜! 温まる!」


 久しぶりの白米もパクリ!


「ん〜!! 美味しすぎる!!」


 テンションの高い僕に釣られて、リュカも恐る恐る口に運ぶ。


「ん! 美味しいな!!」


 最初は遠慮がちだったのにガツガツ食べはじめた。


 天音は、一口食べてみようとして熱かったのか「ピミャ!?」と飛び上がり全身の毛を逆立てた。天音のお椀を手に取り、息を吹きかけ冷ましてから天音の前に置く。今度は慎重に食べ始めた。そして気に入ったのかカツカツと勢いよく食べ始めた。


「寒い日は鍋が一番なんだぜ!!」


 僕たちが喜ぶのを見て、ユラハも嬉しそうに得意げに笑っている。


 青の大陸の食べ物は、日本と本当に似ていて白菜や豆腐やネギといった具材も同じだ。白米と味噌には感動した。まさか異世界に来て、再び食べられるなんて思わなかったからね。


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