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★第11話ー2

 悲しそうにツラそうに、つぶやいたユラハは体を震わせ拳を握りしめている。


「魂を吸われたって、一体何があったの?」

「あんたたちも港町と城で、何か気がつかなかったか?」

「んー……。エルフは人嫌いだって聞いてたけど、それ以上に無関心すぎる気がしたかも?」

「あぁ。それと何となくだが、生気が無いように思えたな」


 僕たちの言葉にユラハは頷き、ベッドの隣にある戸棚を開け香炉を箱から取り出し手に持つ。


「確かにエルフは人嫌いが多い。けどそれだけじゃね〜気がすんだ。たぶん原因はコレだ」


 香炉の蓋を取り、僕たちの鼻先に近づける。


「あんまり深く吸うなよ!」


 言われた通り吸い込みすぎないように、手で緩く扇ぐようにして匂いを嗅ぐ。


「爽やかな花の香り? 変な匂いじゃ無いと思う」

「女性がよく使っている香水の香りに近いな」

「そうなんだよ。良い香りだったもんだから、一気に王都で流行っちまって気がつきゃ皆んな、あんな薄らぼんやりって感じさ! クソ!」

「流行ったって事は、持ち込んだ誰かがいたんだよね?」


 ユラハは再びコクンと頷くと、香炉の中から赤い色をした葉っぱを取り出して見せる。


「最初は、海を渡って来た行商人がママにって、この”燃やしてもなかなか燃え尽きない良い香りのする赤い葉”をプレゼントしたんだ。ママは人嫌いだけど、オシャレは好きだったから喜んで受け取ってた。それからは無くなる頃合いに現れてはプレゼントを置いていった」


 なかなか燃え尽きないと言うだけで、時間がたてば無くなるから、また補充に来るって感じかな?


「もしかかして街にも、それを?」

「そうなんだ! で、後から聞いた話なんだけど胡散臭い事に、街中の女性に金も取らず配っていたって言うんだ!」

「それで、魂が吸われたとは、どういう事なんだ?」

「それがよく分かんねーんだよ。いつの間にか街中の人々が、ぼんやり歩き回ったりしてて、重症化した人はママみたいになっててさ。まるでそれが魂が無いように見えて吸われたって思っただけなんだ……」


 本当に魂を吸われてるか分からないって事らしい。


 頭を掻きむしりながら、ユラハはドカッと座り込む。


「あのさリュカ。ルデラさんの言ってた話とよく似てる気がするんだけど?」

「あぁ。オレも思った」

「なんだ? 何か知ってんのか? 手がかりになるなら何でも良い教えろ!」


 僕の前まで膝をよせて「早く聞かせろ」と迫ってきた。なので、赤の大陸で起こった騒動を話して聞かせた。


「確かに似てんなぁ……。あと忘れてたけど、このまんまだと大陸もヤバイのか! どうすっかなぁ〜……」


 ユラハが胡座をかいて、頭を抱え悩み始めてしまった。


「そう言えばお父さんはどうしているの?」

「パパは城の中を、ぼんやり歩いてる」


 なるほど。街の人々と同じ症状が出てるんだ。


「ユラハはどうやって助かったの? 正気だよね」

「あたしはさぁ……。城の中で自由が無いのが息苦しくってさ。家出してたんだ。っても港町サユラにいたんだけどな! そんでいつもなら二、三日後に、あたしを連れ戻しに口煩い乳母が来てたんだけど、いつまで経っても来ねーからさ! 何となく気になって門まで様子を見に行ったら、この有様だったって訳!」


 ユラハは、ハァーっと息を吐き出してから「もう何が起こってんだよ!」と叫びを上げた。


「思いついた事があるんだけど良いかな?」

「もちろんだ! 何でも言ってくれ!」

「商人は、城と街の女性に、香を無料で配り歩いて、それを女性たちは自宅で楽しんだんだよね?」

「あぁ。そうだ!」

「あとこの大陸は寒いから、いつも窓が閉め切られてる。密閉空間なんじゃない?」

「まぁ。あまり窓は開けねーな! しかも最近、特に寒くて精霊も山に篭って降りてこねーって聞いたな」

「やっぱり! 部屋を締め切っていると香りがその分、濃くなって重症化したんじゃないかな?」

「何故そう思ったんだ?」

「ぼったくり道具屋は態度は悪かったけど、しっかり正気だったからさ。アレって買い物客が来るたびに、ドアが開け閉めされて空気が入れ替わるからだと思うんだよね」


 僕の言葉を聞いて、ユラハが立ち上がり締め切っていたベッドのカーテンを開け、更に外に通じる窓も開け放った。


「ママ寒いかもしれねーけど我慢な!」


 部屋にある布団と着物を、座った状態で固まっている母親に巻きつけていく。寝かせられないからそうするしか無い。


「こんで良いか?」

「うん! 出来れば城全体の空気の入れ替えと、街中の民家でもやってもらった方が良いと思う」

「分かった! 正気そうな兵士たちに伝えてくる!」


 そう言って部屋を、飛び出して行ってしまった。




「ルデラさんにも手紙で伝えた方がいいよね?」

「だな。あとこの赤い葉も香りが漏れないようにして一緒に送って調べてもらうのがいいだろう」


 確か研究所もあったよね。魔獣専門っぽいけどクルガさんなら調べてくれそうだ。


 まずは、いつも通りに鴉を呼び出し、次はドキドキの”カタカナで召喚”だ。


 指先に光を灯し、日本でよく使っていた、口の部分をしっかり密封出来るビニール袋を脳内で思い描く。


『ビニール袋!』


 パァっと光を放ち、次第に収束すると見覚えのあるビニール袋が、ヒラヒラと舞いながら畳敷きの床に落ちた。


「やった! 成功!!」


 ビニール袋を拾い、赤い葉っぱを入れて、リュカが青の大陸で起きている事を羊皮紙に書いてくれたので、その手紙も一緒にビニール袋に入れ、更に紐付きの布袋の中に、ビニール袋が落ちないようにしっかりと仕舞う。


 その布袋の紐を鴉の首にかける。


「ちょっと重いけど、赤の大陸のルデラさんの所までよろしくね!」

「ガァ! ガァ!!」


 先ほどユラハが開け放った窓から、鴉は元気よく羽ばたき飛び立って行った。


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