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★第10話ー4

「タキ大丈夫か? 気分はどうだ?」


 それまで黙って見守っていたリュカが、心配そうに駆け寄ってきた。


「うん! 痛みも無いし、気分も良いよ」

「にゃん!」

「そうか。良かった」

「心配してくれてありがと!」

「にゃにゃん!」


 リュカがホッと肩をなでおろし、僕と天音の頭をクシャリと撫でる。

 

「無事、契約が終わったようですな。1日も経てば、お互いの血と魔力が混じり合い、アレティーシア様の、魔力が暴走する事も命の危機も無いだろう」

「クルガさんありがと! 最初疑ってしまってごめんなさい」

「気にする必要はない。ルルカの友であるならば我の友でもある。今日はこの魔獣契約研究所の5階に部屋を用意した。ナリアに案内させるから、ゆっくり休むといい」

「わぁ! ここに泊まっていいの? 嬉しい楽しみ!!」


 喜びのあまり思わず敬語を忘れた。だって絶壁の中に泊まるって、なかなか無い経験だからさ。興奮もするよね。


「ハッハッハッ! 子供はそれで良いのだ。1番眺めの素晴らしい部屋だから楽しんでくれたまえ」

「はい! ありがとうございます!」


 今度こそ、しっかりお礼を言ったら、クルガさんはニカッと豪快に笑んだ。


「明日また色々話をしよう。ナリアこの者たちを部屋に案内してくれ」

「はい。分かりました。それで明日の朝は何時にこちらにご案内すればよろしいですか?」

「そうだな。旅の疲れもあるだろうから10時に頼む」

「分かりました」


 契約の時に僕たちを担当してくれた、猫の獣人のお姉さんが案内してくれる事になった。


「今日と明日、お世話をさせて頂くナリアと申します。よろしくお願いします」

「こちらこそ今日はありがと! ナリアさん」

「世話になる」

「みゃん!」

「それではお部屋にまいりましょう」


 クルガさんに会釈をして部屋を出る。この建物に入って最初に見た受付を通りすぎ、人々で賑わう待合室を進むと階段が現れた。


 うん。そうだよね。5階の部屋って事は、僕の敵である階段があるんだよ。久しぶりすぎて階段の事をすっかり忘れてた。


 絶壁を掘って作ったと言うだけあって、段差も普通より一段一段が高く、壁の様な階段を見て「うぅぅぅ……」と唸っていたら、フワリと体が浮く感覚がして、リュカにお姫様抱っこされてしまった。


 顔が近い。


 リュカはイケメンの部類に入るので、ドアップで目の前に”かっこいいがある”と照れくさくなる。


 以前までの僕なら照れるだけで終わった。


 けど今は、少し前に”リュカの事が好き”な気持ちを、自覚したからかもしれないけど、ドキドキするし顔が火照るし何だかリュカの手が体が触れている部分が熱く感じる。


 そんな気持ちを、まだちょっと知られたくなくて、5階に到着するまでリュカの胸に顔をうずめた。



「見てみろ!」


 5階まで階段を上がると、僕を床に下ろして壁の燭台を指差す。


「わぁ! なにこれ可愛い!!」


 燭台のある壁一面に、猫、犬、鳥など色々な魔獣が彫り込まれて賑やかだ。しかも燭台の揺れる光の加減で、表情まで変わるから面白いし見てるだけでも楽しい。


「これ! むーちゃんと天音みたいだ!」

「確かに似てるな」


 廊下を歩き出して目を引いたのは、大きな翼のある黒豹の様な猫が座る姿と、小さな翼を精一杯広げて飛び回る沢山の黒猫たちが彫り込まれた壁だ。


「にゃ〜ん!!」


 天音も仲間だと分かるのか嬉しそうな声をあげる。


「美しいでしょ。実はこの壁画は5階部分にしか描かれて無いのですよ」

「うん! 本当に綺麗だね!」

「迫力もある」

「にゃん!」


 長い廊下を壁画を見ながら、のんびりと歩いて行く。

 ナリアさんが、廊下のなかほどまで進んだ辺りで立ち止まり、角の生えたウサギが彫り込まれた木製のドアを開ける。


「お部屋はこちらになります。明日の朝10時にお迎えにまいります。夕食もご用意いたしましたので、ごゆっくりお過ごしくださいね」


 お辞儀をしてナリアさんは仕事に戻って行った。


 部屋に入ると、この部屋の壁にも魔獣が描かれている。床の緑色の絨毯には、とても葉っぱの一枚一枚まで細かくウルの大樹が刺繍されて美しい。ベッドが2つ並び、テーブルもあってなかなかの広さだ。


 そして1番楽しみにしていた、5階からの眺めを見る為に窓に駆けよる。


「うわぁ! 綺麗!!」

「本当に美しいな」

「にゃ!」


 丁度、日が沈む時刻だったみたいで、森の木々に暮れゆく太陽の光があたり、風に騒めく葉がオレンジ色に輝いてなんとも言えない幻想的な雰囲気を醸し出している。


くぅぅぅ……


きゅるるるぅ〜!


 日が沈み外が真っ暗になるまで見ていたら、僕と天音のお腹の虫が盛大に鳴いた。


「あはは! お腹空いちゃった」

「では。夕ごはんにしよう」


 部屋の中央のテーブルには、カゴに入ったパンと、石の上に魔法石が乗せてあり、なんとその上に鍋が保温状態で置いてあるのだ。


 蓋を開けると湯気がホワッと出てきて、部屋中に食欲をそそる香りが広がる。鍋の中を覗くと肉と野菜がたっぷり入ったミルクベースのシチューがクツクツ音を立てている。


「すっごく美味しそう!」

「皿に、よそうから椅子に座っててくれ」

「うん!」

「にゃん!」


 コトン、コトン、コトンと、リュカが自分の分と、僕と天音の前に木皿を置く。


 いただきますをしてから、木皿に入ったシチューを木製スプーンで掬ってパクリ!


「ん〜ッ! なにこれ! 暖かくてクリーミーで肉と野菜もトロトロで美味しすぎる!」

「本当に美味いな!」

「うみゃん!」


 この世界のスープって言うと、殆どが塩だけの味付けだったから、ミルクベースの優しい味わいのシチューは感動してしまう。しかも保温されてるから温かい。


 次にカゴに山盛りになってる、茶色の丸いパンを手に取りパクリ!


「ふわっふわっ!」

「このようなパンな初めてだな」

「うみゃい!」


 黒パン以外の、パンは久しぶり過ぎて何個でも食べられそうなくらい美味しい。


 結果、ミルクシチュー2杯、ふわっふわっパン3つも夢中で食べてしまった。リュカと天音も、いつもより沢山食べていた。


「お腹パンパンだよー」

「オレも食べすぎた」

「にゃん!」


 その後は寝るだけだったんだけど、ベッドがまた凄かった。


「フカフカのモッフモフ〜!」

「あぁ。埋もれそうな柔らかさだな」

「にゃ〜ん! にゃ〜ん!」


 思わずベッドにダイブしてしまった。天音なんかトランポリンのようにポンポン跳ね回って楽しんでる。リュカは大の字で寝転がって枕の感触を確かめたりしてた。




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