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★第10話ー3

 ギィぃぃ〜ッと、音を立ててドアを開けて入ると、天井には小さなシャンデリアがあり蝋燭が灯り、壁をくり抜いた燭台に魔法石が白く光を放ち昼間と同じくらい明るい。壁は思った通りの土壁だけどツヤツヤに磨かれている。床は板張りになっているから歩くと靴の音がコツコツ鳴る。


 室内はかなりの広さだと思うけど、獣人がそこかしこで談笑してるし、色々な種類の魔獣がウロウロ歩き回っているから狭く感じる。


「なんか凄い」

「あぁ」


 この赤の大陸に来てから”何か凄い”しか言って無い気がするけど、初めて見るものばかりだし気になってしまうモノばかりだから仕方ないと思う。


「あそこが受付かな?」

「そのようだな」


 部屋の1番奥にカウンターがあり狼の獣人と狸の獣人が、にこやかに人々の相手をしているのが見える。


「行ってみるか?」

「うん! 説明だけでも聞きたいかも」

「だな」


 リュカも楽しそうに声を弾ませているし、僕もワクワクが隠せない。天音も僕の胸元から顔を出してキョロキョロ見回してソワソワ落ち着かない。


 受付のカウンターに行くと、狸の獣人のお姉さんがニコニコ顔で「こちらへどうぞ」と言って手招きした。


「まずはこの羊皮紙にお名前と用件を書いてくださいね」

「は〜い!」


 背伸びをして羊皮紙を受け取り、リュカの袖を引っ張って、しゃがんでもらう。そして小さな声で「アレティーシアって書いても大丈夫だよね?」と聞くと、リュカは頷きで答えてくれた。この大陸に僕を知っている人は滅多にいないと思うからね。


 あとは用件かぁ……。ここはやっぱり!


「魔獣を見てみたい」


 この一言に尽きるよね。


 書き込んだ羊皮紙を、再び背伸びしてお姉さんに渡すと「お預かりします。少々お待ちくださいね」と受け取り、慌てたようにそそくさと奥の部屋に持って行った。


 暫くして、先ほどとは違う猫の獣人のお姉さんが奥の部屋から出てきた。


「お待たせしました! こちらへどうぞ」

「は〜い!」


 リュカと一緒に奥の部屋に入ると、重厚感たっぷりの木製のテーブルと、革張りの3人掛けソファがあり、1番奥中央のひときわ立派なソファには、眼光鋭い白髪混じりのグレーヘアが美しいライオンの獣人のナイスミドルが座っていた。その肩には相棒だろう鷹がとまっている。様になるイケオジってこんな感じだと思う。


「緊張しなくていい。座りたまえ」

「はい」

「オレはここでいい」


 僕は座ったけど、リュカは警戒してるみたいでドアの前で立ったままだ。


「貴女はもしやフィラシャーリのアレティーシア様ではありませんか?」


 僕は変身術で姿を少し変えてるのに、何故分かったのかと不安になり、振り返ってリュカを見る。リュカも更に警戒を高め、いつ何が起きても行動が出来るように腰を低くしてかまえる。


「いや。すまない。我はクルガと申す。このウルの街を任されている者だ。我ら獣人族はオーラと匂いで分かるのだ。ティルティポーの夜会には我も参加しておったのでな」


 まさかあの場にいたなんて驚きしかない。けど……


「僕はほんの少ししか夜会にいなかったのに?」

「貴女のオーラと匂いは特別過ぎる。どんな姿をしていようとも分かる者には分かってしまうのだ」

「そうなの?」


 もしかして赤の大陸だとバレバレって事? 隠せないのは困る。


「えぇ。今も溢れそうな程の、かなり強い魔力を感じますな。受付の彼女が驚いて我に報告にきおったくらいにはな」

「あぁ〜……。そう言う事なんだ……」


 だから受付の狸の獣人のお姉さんは走るようにして奥の部屋に行ったんだ。やっぱり正体を隠す事は無理なんだ。


「我から提案がある。獣人を見てみたいとの事だが、見るだけではなく契約をしてみてはどうだ?」

「う〜ん……その提案は嬉しいけど、僕にはもう天音がいるので、本当に魔獣を見るだけで充分なのです」


 胸元で寝ていた天音を、優しく起こして膝の上に乗せる。


「ほぅ! これは素晴らしい魔獣ですな!」


 天音を見た途端に立ち上がり僕の前まで歩いてくると、腰を屈めてじっくりと天音を見つめる。


「フシャァ!!!」


 僕を守るかのように、全身の毛を逆立て尻尾を立てて翼まで広げ最大級の威嚇をする。


「ハッハッハッ! 小さくとも最上級種の魔獣ですな。一人前に主を守っております」

「えぇ! 天音って魔獣だったの!?」


 確かに普通の猫には見えないし、親のむーちゃんは身体も大きくて強かった。


「はい。しかもレア中のレアですな。魔獣と言うよりは神獣に近い。この目で見る事が出来て我は嬉しく思っております」


 この言葉には、さすがのリュカも驚いたのか僕の後ろまで来て天音を見つめている。


「驚いたけど、やっぱり僕の相棒は天音しかいないよ!」

「であれば、尚のこと契約するのを薦めたい。信頼関係は充分とみた。そして魔獣契約をすれば2人で1つの一心同体となる。貴女の膨大過ぎる魔力も暴走する事もないだろう」

「なんでそんな詳しいの? しかも契約させようとしてるし……」


 僕の事情に詳し過ぎるし親切過ぎる気がして怖い。疑いの目で、ジトッと見つめてしまう。


「ハッハッハッ! それはこれだ」


 立ち上がり部屋に一つだけあった窓を開ける。すると手乗りサイズの小さな緑色のドラゴンが入って来てソファの背もたれにとまった。


「キュィ! キュィ!!」

「もしかしてルルカのドラゴン?」

「そうだ。だから警戒を解いてくれたまえ」

 

 クルガさんが頷き、部屋の隅にある書類戸棚から一枚の羊皮紙を出して見せてくれた。

 そこには僕の事と天音の事を、細かく説明して契約を頼むとまで書かれていた。ルルカの印もあるから本物だ。


「我が友、魔王ルルカからの頼みでは断れないからな」


 ルルカとハルルは別れる間際まで、僕の事を心から心配してくれていた。だからきっと一緒に赤の大陸に渡れない代わりに”僕が必ずウルの街に来る”と分かっていて、クルガさんに手紙を出し話を通してくれていたに違いない。


「でもまず天音に聞いてみる。天音、僕と魔獣契約して欲しいんだけど良いかな?」

「うにゃ〜ん!」

「本当に良いの?」

「にゃん!」


 僕を見つめ返事をする天音を抱きしめる。するとゴロゴロ喉を鳴らしてすりよってくる。


「クルガさん! お願いします」

「にゃにゃん!!」

「よし! では今から行こうか」


 部屋の奥の棚の、更に奥の方にあるドアを開けて、クルガさんが「ついて来い」と顎でしゃくる。


 ドアの向こう側には、見上げてもテッペンが見えない程の巨木が生えていた。苔むした木の根元も、とても太く力強さを感じる。そして周りには契約の為に訪れた人々で賑わっている。中には付き添いの人や、観光客も混ざってそうだけどね。


「これは”ウルの大樹”と言って、この赤の大陸とも深く繋がっているのだ。まずはウルの大樹の樹液を2人に飲んでもらう。こちらへ」


 クルガさんと、ウルの大樹の根元の前までくると、先ほどの猫の獣人のお姉さんが、僕には木製のコップを、天音には飲みやすいように木製の皿を持って来た。そして木の根元に取り付けてある蛇口のようなモノがある場所に案内された。


「それではコップと皿に注ぎますね」


 コックを捻ると、ちょろちょろとコップに樹液が溜まっていく。やっぱり蛇口だったみたいだ。コップが満タンになったら、天音の皿にも注ぐ。


「ウルの大樹の樹液は親和性を高める大切なものです。一気に飲み干してくださいね」


 茶色のドロドロした液体は青臭い匂いがする。あまり美味しそうには思えないけど飲むしかなさそうだ。


「よし! 天音飲もう!」

「にゃ!」


 ゴクゴクゴクゴクゴクゴク!!


 ピチャピチャピチャピチャピチャ!!!


「プハァ〜!」

「ケフッ!」


 飲み切った。匂いと色に反して、甘い蜂蜜のような味で思ったよりも美味しかった。


「次は、お2人とも手のひらを出して頂けますか?」

「はい!」

「にゃん!」


 お姉さんは腰の布袋から、小さなナイフを取り出た。


「少し痛いですが我慢してくださいね」


 手のひらの中央を十字型にナイフで切る。少しどころか、思わず顔をしかめてしまうくらい痛い。天音も毛を逆立てているから痛かったようだ。ズキズキするしタラタラ血も流れるし本当に大丈夫なのコレ?


「それでは傷と傷を合わせる様に、お互いの手をしっかり握って繋いでくださいね」


 天音を抱きあげて、お互いの手のひらの傷同士が合わさるように繋ぐ。


「あとはお互いの事を想いあってください」


 いつでも一緒にいてくれる、少し食いしん坊な大切な相棒の天音の事を思う。


 暫くすると手のひらから何かが入ってくるような感覚と、ホワンッと全身が温かく包まれるような優しい感じがした。


「おめでとうございます! 契約は無事に完了しました。手を出してください。直します」


 お姉さんが、傷薬を塗ってくれた途端、スゥと傷も痛みも消えた。



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