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★第9話ー4

 いつもと違う様子に不安になりながらルルカの前に行く。


「タキ、お主、封印を解いたのじゃな?」

「封印?」

「もしや知らぬのか? 前世のお主の父ルドラが”倉田木シンの魂”に施したモノなのじゃ」

「どう言う事なの?」

「お主のいた地球だったかの? あの世界では魔法は存在しないのじゃろ?」

「うん」

「だからなのじゃ。どんな世界でも異端な力を持つ者は、あまり良い扱いをされぬのじゃ。ルドラは生まれた時から息子である、倉田木シンが莫大な魔力を持っておる事に喜びよりも不安を感じ、お主を想って魔力の封印をしたのじゃ」


 そこまで言ってからルルカは、う〜む…と腕組みをして唸りながら「しかし元々アレティーシアは魔力は殆ど持って無いと聞いておったのじゃが……なぜこれほどの魔力を?……う〜む……もしかして2つの世界の血が混じりあった倉田木シンの魂が、アレティーシアの体に入っ時に突然変異を起こして魔力量が増えたのかの? それにしても……」とつぶやいた。


「でも父さん特別な力なんて持って無かった気がするんだけど……」


 少なくとも倉田木シンの前では、周りの家族と変わらない普通の父だった。超能力があるとかも聞いた事が無いし、運動神経も飛び抜けて凄い訳でもなかった。


「それは封印に全ての力を使ってしまったからだと思うのじゃ。封印は強固で解かれるはずの無いモノなのじゃ。しかし”倉田木シンの魂は一度死んでおる”妾と出会った時には、既に封印は解けかけておったからの。そして今朝見たら完全に解けておった。何か異変は感じぬか?」


 異変? いつもと違う事だよね? あえて言うなら倒れた時に、目が覚める直前まで見てた夢かな?


「異変と言っていいか微妙なんだけど、何かの鍵が外れて熱い何かが渦巻く夢を見たよ」

「うむ。間違いなくそれなのじゃ」


 ルルカは立ち上がると僕の胸に手のひらをかざす。その瞬間、僕の中で激しく渦巻いていた”何か”が落ち着くのを感じる。


「これでどうじゃ? 楽になったじゃろ」

「うん! それでこの”渦巻くモノ”は何だったの?」

「魔力の塊なのじゃ。魔力が身体を巡ると気分は良くなるし普通は問題ないのじゃ。だがの。お主は”前世の倉田木シンの魂に蓄積された魔力”もプラスされておる。その膨大な魔力に身体が次第に耐えきれなくなるのじゃ。例えばコップの水が溢れるような感じなのじゃ」


 倉田木シンの37年分の魔力まで持ってるのかぁ。溜め込みすぎたよ。そりゃ溢れると思う。でも不思議と体の調子は凄く良いんだよ。だからルルカに、こうして危険を知らされないと気がつかなかったかもしれない。


「確かに気分も良いし、今なら何でも出来そうな気がするけど、身体が耐えきれないってマズイんじゃ無い?」

「うむ。とりあえず妾が魔力を吸い取ったから当分は大丈夫なのじゃ。だかそうだの……まずは赤の大陸を目指すが良いのじゃ」

「そこには何があるの?」

「魔力と魔法に関して1番の研究機関があるのじゃ。そこならば何か手立てが見つかるはずなのじゃ」


 全てが見えている、ルルカの言葉なら信頼出来る。きっと赤の大陸には必ず解決策があるのだろう。


 それまで僕たちの会話を聞いているだけだったリュカが立ち上がり僕の頭を撫でる。


「出発は早い方が良い。早速、港町サリュに行こう」

「うん!」

「ならば妾がサリュまで送ってやるのじゃ!」

「わっ私も! みっ見送りに……行きます」


 

 来た時と同様にアデルの森まで歩いて、ルルカが呼んだドラゴンの背に乗ってサリュの町の近くで降り立った。


「妾とハルルは、ここまでなのじゃ。あまり留守には出来ないからの」


 ルルカには守らなくてはならない大切な人々がいる。ティルティポーが、いつ何処に現れるか分からないから遠い異国に行く事は出来ないのだろう。


「まっまた! あ……会いたい……です」


 ハルルもそれを理解している。だから一緒に行きたいとは言わないのだと思う。


「うん! 絶対に帰って来るし、また会おうね!」

「では行ってくる」

「にゃん」

「うむ! 気をつけて行くのじゃ」

「まっ待って……ます」


 僕とリュカが手を天音が尻尾を振ると、ルルカはいつものようにニカッと笑い、ハルルはふにゃんと微笑み手を振った。


 ルルカとハルルがドラゴンに乗って飛び立つのを見送ると静かになってしまった。


「また2人と一匹になっちゃったね」

「さみしいか?」

「そんな事ない! リュカといると安心するし! それにさ……」


 ゴニョゴニョと言葉を濁してしまったけど、リュカには『好き』がしっかり伝わってしまったらしく、嬉しそうに優しく僕に微笑んで頭をクシャリと撫でてくれる。この力強いがっしりとした手も、気に入っているし頼り甲斐があって、いつの間にか好きになっていたのだ。





 夕闇が迫るなか港町サリュに入ると、相変わらずの賑わいで焼き魚や焼き貝の香ばしい匂いが漂い、店の灯りと民家からもれる光で割と明るい。


「うにゃにゃ〜ん!」


 魚の焼ける良い匂いに誘われ、天音は大興奮で駆け出す。僕たち走ってついていくと、前回と同じ露店の前で、ヨダレを垂らして焼き魚を目をキラキラさせ見つめる天音がいた。

 

「リュカ」

「天音は相当この店が気に入ったんだな」

「夕ごはん、ここにしない?」

「そうだな。オヤジさん焼き魚とパンを3人分頼む!」

「おや? お前さんたちは、この間の! んじゃ! スープもオマケしてやるよ」


 僕が「ありがと!」と言うとオヤジさんはニカッと笑って応えてくれた。その隣でリュカが銅貨3枚を渡すと、オヤジさんから木皿にのった焼き魚とパン、それと木製コップに注がれたスープを受け取り、店の前の丸テーブルに置いて3人で食べる。


「うま! やっぱり新鮮だからかな!」

「この貝の入ったスープも美味しいな」

「うにゃにゃん!」


 僕は食べるのが遅いけど、僕に合わせるようにリュカも天音もゆっくり食べた。


「ごちそうさま。それとオヤジさん、赤の大陸に行く船はないか?」

「あるよ。交易商人の船だがね。それでも良けりゃ。あと1時間くらいで出るとか言ってたぞ」

「充分だ。ありがとう」

「気をつけて行けよ!」

「またね! オヤジさん」

「にゃん!」


 手を振って笑った別れた。



「赤の大陸が、どの様な所か分からないから、まずは足りないものを買い足してから行こう」


 サリュは玄関口でもあるので割と何でも揃うのが助かる。水も食料も1か月分くらいは買い足した。リュカのカバンはマジックバッグなので本当に便利だと思う。


「アレは何?」


 街中を歩いていると、雑貨屋で気になるものを見つけた。見た目は望遠鏡みたいだけど何となく違う。でも見覚えのあるもの。それを子供たちがキャーキャーと大騒ぎしながら覗きこんでいる。


「万華鏡だな」

「へぇ! こっちの世界にも万華鏡ってあるんだね! 懐かしいな」


 動物や木々は多少違うけど、やっぱり日本と似てるし、物にいたっては同じものもあって面白い。


ボォー! ボォーボォー!!


 港の方で出発の汽笛が鳴り響く。


「リュカ、天音行こう!」

「あぁ」

「うにゃん!」


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