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★第9話ー3

 感情が爆発して、僕のナカの鍵みたいなモノが外れたような感覚がして、何だかよく分からないけど、みぞおちの辺りが暖かくて……と言うより熱くて、ぐるぐる渦を巻いてフワフワする……。


 どうしちゃったんだろ? 僕……。


 全ての音が……僕を呼ぶ声が……遠ざかっていく……




「目が覚めたか?」

「リュカ?」


 目が覚めると、ふかふかベッドに寝かされていた。寝心地が良いしまだ眠い。このまま寝ていたい気分になって瞼が閉まりそうになる。そんな僕をリュカが覗き込んでくる。あまり心配かけてもいけないので、ゆっくり起き上がると、広くてベッドが6つ並び、窓からは朝日が入って明るくて雰囲気も良い部屋にいることが分かった。中央に大きな丸テーブルと椅子が人数分並んで、床にも絨毯が敷かれているのでかなり良い宿なのだと思う。


「昨日は館で突然、倒れるから驚いた。気分はどうだ?」

「そっか。僕、倒れたんだ。でも気分はいいよ」


 気分は悪くない。それどころか力が、みなぎって体調は絶好調な気がする。けど昨日の事を思うと、まだ気持ちを消化しきれないしモヤモヤしたものが心の隅に残っている。


「朝ごはんは食べられるか?」

「うん!」


 気を失ってから僕は夕ごはんも食べずに、そのまま朝まで爆睡をしてたみたい。天音も僕の上で寝ていたけど、今は起きて毛繕いをしている。


 部屋を見回すと僕とリュカと天音しかいない。


「兄さんたちは?」

「街で情報集めと、張り紙の処分をしてる。朝食の為に、そろそろ帰ってくるはずだ」


コンコンコン!


「入ってもいいかな?」


 ノックと共にドアが少し開いてヴァレリーが顔を覗かせる。その後ろにルルカとハルルの姿もある。


「あぁ。大丈夫だ。タキも目を覚ましてる」

「アレティーシア良かった〜! 目を覚ましたんだね!」


 駆け寄ってきたヴァレリーに、ふわりと優しく抱きしめられる。


「心配かけてごめん」

「いいんだ。お前が生きて無事ならば、それだけでいいんだよ」


 今度はギュウギュウ骨が軋むくらい強い力で抱きしめられる。僕もヴァレリーに擦り寄る。


「よっ良かった……です!」


 ハルルも安心したのか、ふにゃんと微笑んでいる。けど、ルルカだけは僕を真剣な表情で観察するかのように見つめている。



 朝ごはんを部屋に運んで貰い丸テーブルで食事をした後、ヴァレリーは立ち上がり僕たちたちの方に体を向けた。


「尋ね人の張り紙といい、毒騒ぎといい、十中八九ティルティポーが絡んでると考えていいと思うよ。ただラウルとシャイナだけで、これだけの事が出来るとは思えないんだよね」

「あぁ。オレもそれは考えていた。張り紙は金さえ積めば誰にでも頼める。が、普通の解毒薬が効かない毒など今までに無かった。そして毒の出所も不明だからな」

「そうなんだよね。手がかりと言えば蜘蛛男なんだけど……正気に戻らない事には聞けないからね」


 普通の解毒薬が効かないはずの毒に、僕の作った万能薬が効いた。と言う事は、もしかしたら蜘蛛男にも万能薬は効くんじゃない?


「あのさ! 僕の万能薬を試してみない? 蜘蛛男にさ。そしたら正気に戻るかもしれないよ」

「!? 試してみる価値はありそうだね」

「だか、アデルギィではやめた方が良さそうだな」


 確かに昨日のように刺客が、何処に潜んでいるのか分からない。


「では俺が、フィラシャーリに連行するよ。あの者には王の御前で真偽を問うのが良いと思う」


 蜘蛛男の正体は、フィラシャーリの王シルヴァンスの側近グレダだって、言っていたから当然の措置なのかもしれない。


 話は決まった感じなので、万能薬を作っておきたい。ギィ婆さんの館で使い切ってしまったからね。


「リュカ、薬草10枚、貰っていいかな?」

「もちろんだ。……これで足りるか?」

「うん! ありがと!」


 カバンから、10枚の葉っぱを出して貰って左の手のひらに乗せる。


 そして万能薬をイメージして、指先に力を込めると光が灯り『万能薬』と、文字が瞬時に空中に浮かび上がり、一気に10本のペットボトルが床にボトボト落ちた。


 あれ!? 今、僕、指先を動かしてなかったし、文字も書いてなかったよね? なのに、いきなり文字がバンって現れて、しかも完成品が10本出てきた。

 ちなみに今までは1本ずつしか出来なかったし、脳内イメージだけでは無理なので、魔力を込め光を灯した指先で文字を書かないと呼び出したい『モノ』は現れなかった。


 けれど今日は思い描いた文字とイメージだけで完成品が出現した。指先が少し光っただけで終わってしまった。


 どういう事? 昨日の何だか分からない感覚と関係があるのかな? それでパワーアップしたとか?


 あと今更、気がついた。ペットボトルってカタカナだよね? 最初ケーキが食べたくて試したけど出来なかったし、更に言うならカタカナ自体に対応してなかったはずなんだけど……いつからだっけ? 初めて万能薬を作ったのは砂漠だったはずだから、その時には、もう力が変化を始めてたとか?


 僕が脳内パニック起こしている間に、リュカは何も不思議がる事なく、万能薬の入ったペットボトルを拾い上げヴァレリーに渡す。渡されたヴァレリーは「素晴らしいよアレティーシア! 確かに受け取ったよ」とか言ってペットボトルを抱きしめ感動の涙を流している。

 ハルルは「すっ凄い! です!」と頬を紅潮させ大興奮だ。

 天音も「にゃにゃ〜ん!」と室内を走り回って嬉しそうに楽しそうにしている。たぶん皆んなの喜びが伝わっているのかもしれない。

 けれど、やっぱりルルカだけは、僕を真剣な目で見つめ続けてるだけだった。


「ところで蜘蛛男はどうやって運ぶの? 兄さんはカバンは持ってないよね」

「それについては大丈夫。俺は転移魔法が使えるからね」

「え! 転移魔法!? 魔法使えるの!?」

「行った事がある所なら何処にでも行ける。俺は王族だから全属性の魔法が使えるよ。もちろん庶民も使える。基本的に草食獣一族は魔法特化で1属性しか使えない人が殆どだけど3属性くらい使える大魔導師もいるね。逆に肉食獣一族は肉体を使う武闘派が多いんだ。たまに両方とも得意だったりする人もいるけど本当に稀だね」

「へぇ〜! そうなんだ。でもアレティーシアは魔法が使えなかったって聞いたけど、そんな事もあるの?」

「ごくごく稀だけど王族でも魔力を持たない人はいたそうだから気にする事はないよ。それに今は俺たちより凄い力を持っているじゃないか!」

「あぁ。あんなにも高度な万能薬は初めてみたからな」

「わっ私も、驚き……ました!」

「にゃん!」

 

 ヴァレリーの言葉に、リュカもハルルも天音も同意して頷いている。

 僕のって、そんな凄い力なんだ。ただの召喚術みたいなものって認識しかなかったから実感が湧かない。だって魔法って言うと、派手でバトルでも大活躍なイメージだったからさ。

 

「じゃあ。一旦、俺はフィラシャーリに戻る。リュカ、蜘蛛男と、あと眠り薬を出してくれ。こっちの魔法鑑定師に見せてみるよ」

「あぁ。頼む。オレはこれから他の大陸に向かうつもりだったから助かる。タキも来るか?」


 ヴァレリーに、蜘蛛男入り麻袋と眠り薬を渡しながら聞かれて思い出した。

 そう言えば、とりあえずは兄さんを見つけるまでって約束だったような? けどリュカと、このまま別れるのはさみしいし嫌だと思ってしまった。だから答えは迷う事は無いし決まっている。


「うん! 行きたい!」

「分かった。お前の事はオレが全力で守る」

「僕もリュカを助ける!」

「決まりだな」

「うん!」


 思わずリュカに飛びつくように突進すると、力強い両腕で受け止めてくれた。やっぱりリュカの腕のナカは安心するし良い匂いもして好きなんだよなぁ。


 斜め後ろをチラ見すると、ヴァレリーが泣きそうな顔をしながら「俺のアレティーシアが……よその男に……」とか何とかブツブツ言っている。


「ごめん兄さん! 僕、この世界を色々見たいんだ!」

「分かったよ。ただし危ない時はリュカを囮にしても良いから逃げるんだよ!」

「いやいや。囮は駄目だと思う。一緒に戦うし、一緒に逃げるよ」

「アレティーシアは優しいね」


 遂にヴァレリーは泣きながら、リュカから僕を引き剥がし思いっきり抱きしめ頬擦りをはじめた。


 暫くの間、ヴァレリーは僕を堪能してから軽く咳払いをしてからハルルの方を向く。


「ハルル! また会いに行っても良いかい?」

「はっ! はい! わっ私も……会いたい! です!」

「ではまた会おう!」

「……はい」


 ヴァレリーに頭を撫でられて、ほんのり顔を赤らめモジモジするハルルはとても可愛い。この2人って、もしかして両片思いとかかな? なんて思ってしまう程には、見てるこっちがドキドキする。


「リュカ。他の大陸に行くと言っているけど協力を仰ぐつもりなのかい?」

「あぁ。このままだと世界は終わるからな。不気味な動きを見せるティルティポーに対抗するには力が足りない。青の大陸と赤の大陸にも渡って状況を説明するつもりだ」

「まぁ。味方は多い方が良いだろうが、今までは交流すら無かった大陸だ。何が起こるか分からない。アレティーシアをしっかり守れよ!」

「分かってる」

「じゃ! またね! アレティーシア!」

「またね! 兄さん」


 蜘蛛男の入った麻袋を持って、シュンッと音を立てて消えていった。賑やかな兄さんがいなくなると、やっぱりさみしく感じる。


「タキ、ちと来るのじゃ」


 それまで黙って見ていたルルカが真剣な表情で僕を呼んだ。



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