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★第9話ー2

ギィ婆さんの館に向かう途中、蜘蛛男をその辺に放置すると再び悪用される可能性がある。と言う訳で、一旦立ち止まって蜘蛛男を気絶させルルカの麻袋に入れて、とりあえずリュカのカバンに放り込んだ。天音は、僕の胸元に入って顔だけ出している。


 それからヴァレリーの後を追って、ギィ婆さんの館のドアを開け室内に入ると、冒険者たちが騒めいている。普段の賑やかな感じではなく緊迫感を伴ったものだ。


「兄さん、何かあったの?」

「ギィ婆さんを含めた20人程が毒にやられて動けないらしい」


 室内をよく見ると、机や椅子が壁側に寄せられ、床に敷布を広げ21人の冒険者たちが荒い息を吐き横たわっている。顔色は赤黒く熱もあるのか額には濡らした布が乗せてある。ギィ婆さんは奥の部屋で寝込んでいると言うから22人が毒にやられたようだ。


「おい! 何があった?」

「昨日の夕方に、いつもの行商人が持って来た酒を飲んだら次々に倒れちまったんだ」


 椅子に腰掛けている冒険者に、リュカが聞くと直ぐに教えてくれた。


「解毒薬は?」

「当然、飲ませたさ。でも一向に良くならねぇんだよ……」

「では、その行商人を捕まえて聞くしかないな」

「無駄だよ。ギィ婆さんが倒れたのを確認したら自らも毒を飲んだんだ」

「……!! 死んだのか?」

「いや。重症だが隅に転がしてある」


 冒険者が指差す方には敷布すら無い状態で、行商人は苦しそうな息をしながらも藻搔いている。


「間違いなく。情報を断つ為だろうね」

「あぁ。だかどうにかしなければな」


 リュカとヴァレリーの会話を聞いて、あの時に作った万能薬で、今度こそ人々が救えるかもしれないと思った。


「リュカ、アレが使えるかもしれないよ」


 倒木を蘇らせるほどの万能薬だから、あまり大きな声で言えないからボカして伝えると、リュカがカバンから6本のペットボトルを出した。その中の1本は使いかけだけど大丈夫だろう。

 意図を察したヴァレリーが、備え付けの食器棚から人数分のコップを出すと、ペットボトルに入った液体を少量ずつ注ぐ。


「飲ませてくるね」


 僕がコップを持ち冒険者たちの元に行くと、リュカがついて来て冒険者の体を起こして支えてくれる。


「これ薬です。飲んでください」


 声を出すことも出来ない冒険者の口に、コップを近づけゆっくりと飲ませていく。コクンと喉が鳴り飲んだのが分かる。


 再び寝かせて、暫くすると吐く息も穏やかになり顔色も戻ってきた。


「もう大丈夫そうだな」

「うん! じゃ。他の人たちにも飲ませるよ!」


 僕とリュカが動き出すと、ハルルもルルカとペアで動き出した。ヴァレリーはギィ婆さんに飲ませてくると言って奥の部屋に向かった。


 1時間後には、寝込んでいたギィ婆さんと行商人を含めた23人が、起き上がれるくらいに回復した。ただし行商人だけは事情を聞く為に、机の脚にロープで縛り付けられている。


 それから更に30分くらい経ってから、奥の部屋から杖をついてギィ婆さんが現れた。


「久しいなリュカ」

「婆さんには変装も意味がないようだな」

「ヒッヒッヒッ! ギィを欺こうなど100年早いわ。じゃが。まずは礼を言わせてもらう。皆を助けてくれて本当に助かった。ありがとう」

「いや。気にするな。それより状況を説明して欲しい」

「いつも彼奴が酒と情報を持って来るんだがの。今考えると挙動がおかしかったように思うわ」

「おかしいって?」

「言動が普段と違っておった。いつもは雑談の方が多いくらい元気過ぎて、ギャンギャンやかましいヤツなんだがの。昨日は酒の受け渡しの後は無言で部屋の隅におったな」

「なるほど」

「あのような事するような奴じゃないのだがね」

「とりあえず聞いてみる」

「あまり乱暴な事はしてやるなよ。彼奴はこの間、結婚したばかりだと言っておったからの」

「了解した」


 テーブルの脚に縛られて項垂れる青年の元に近づくと、僕たちが何か言う前に「すまねぇ! 本当にすまねぇ……」と、震えながら謝って涙をこぼし始めた。


「事情があるんだな?」

「は……はい……」

「悪いようにはしない。話してみろ」

「この……胸ポケットに入ってる……眠り薬を、酒に……混ぜて、ギィ婆さんの所に……持って行け。と言われたんだ」


 また眠り薬なんだ。間違いなくアレティーシアの命を絶った薬と同じものだろう。リュカは青年の胸ポケットから、紫色をした小瓶を取りだした。


「これは預かっても良いか?」

「はい!」

「それで、どんなヤツに頼まれたんだ?」

「く……黒いフードを……被っていて、顔は見えなかった。すまねぇ」


 青年の怯えが消えないのが不安を誘う。室内にいる冒険者たちも固唾を飲んで見守っている。


「お前。もしかして脅されてるのか?」


 リュカが聞いた瞬間、青年の体がビクッと跳ねる。


「ここは口の固い奴らばかりだ。何かあったなら力になるから話してくれ」


ガシャーーーン!!


「わ……分かっ!? グフッ……」


 青年が話そうと口を開いた瞬間、窓ガラスを突き破り矢が青年の胸を貫いていた。瞬間ヴァレリーが素早く動き、襲撃者を追いかけて走り出し館から出て行く。


 すぐに青年に駆け寄ったけど、矢には毒が塗られていて既に絶命していた。


「リュカ……これって」

「あぁ。間違いなく口封じだな」

「助けられなかった……。結婚したばかりだって言ってたのに……」


 リュカは口開いたには出さないけど、たぶん僕と同じ事を考えている気がする。青年はお嫁さんを、人質に取られてやらされたんだって事。そしてお嫁さんも、もう戻ってはこないだろうと……。


 助けられたと思ったのに目の前で命が消えた。


 涙がこぼれ始める。無力感で、どうにかなりそうだ……。


 心がイタイ。


 ジクジク痛む……。


 僕が目的だって分かるのに何も出来なかった……。


 この世界に来て初めて願う。


 強い力を! 


 自分だけじゃ無くて家族や仲間を守れる力が欲しい!! 


 想うだけじゃなく本気で強くならないといけないって心の底から思い願う!!!





 その時……変化が起こり始めた。


 

 身体のナカから熱いモノが溢れるような感覚がする。



 力の胎動を感じる……。

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