尽神日記~3月8日~
3月8日、曇り。
夢を見た。
『彼女』の出てくる夢だ。
あの夜と同じ。
金色の月を背に、『彼女』は僕の前に立っている。
プラチナ色の髪。
赤いルビーみたいな瞳。
透けるように白い肌。
角。
『彼女』は僕に言う。
―お返しを、受け取りにきたワ―
僕は緊張しながら、『彼女』への贈り物をそっと差し出し・・・・
―あれ?ない。ウソ?ない!!―
あんなに一生懸命作ったのに!!
焦って取り乱す僕。
冷たく見つめる『彼女』。
―期待して待っていてソンした―
僕の背筋に冷たいものが走る。
顔を上げると、意外にも『彼女』は無邪気に笑っていた。
続いて、どこかの王妃様のように言い放つ。
―お返しがないなら、魂を差し出せばいいじゃない?―
(逃げよう)
僕は後ずさった。
瞬間、『彼女』の目が赤く光る。
―どこ行くの?―
それをもろに見てしまった僕は、金縛りにあったように身動きができなくなった。
『彼女』が近づいてくる。
僕は動けない。
―最後の審判よ―
目を三日月のように細めて、『彼女』は凄惨な笑みを浮かべた。
―お前の魂を―
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「いやだああああああああ!!!!!」
日記を付けていた尽神月流は夢の続きを思い出して、恐ろしさのあまり叫び声を上げた。
昨日は悦に入って「恐怖はない」なんて言ってたが、怖いものはやっぱり怖い!
あと6日。
あと6日で『彼女』が町にやってくる!
あと6日経てば、夢の続きが再現される!!
恐ろしい。
恐ろしすぎる。
逃げたい。
しかし相手は魔族だ。
この地球上のどこに逃げたって、追いかけてくるに決まっている!
堂々巡りする思考。
そうして辿り着く結論。
「作るしかない」
そう、作るしかないのだ。
それ以外の方法はない。
思いつかない。
時間もない。
夢の通りにならないように、しっかり作ってきっちり渡す。
夢は夢。
現実ではない。
『彼女』が僕の魂を取っていくという確証はないのだ!
未来は自分の手で切り開ける!!
「そうだ!自分の手で切り開くんだ!!夢に踊らされてはいけない!!!」
尽神月流は立ち上がり、さっそうと階下のおばあさまの部屋へ向かった。
ずっと前、おばあさまに言われたことを思い出したからである。
『月流や、悪夢を見たらね、人に話してしまうといいんだよ』
『そうすると、正夢にならないからね』
†To be continued.†