尽神日記~3月11日~
3月11日、晴れ。
今日、4日ぶりに外へ出た。
近所のケーキ屋さんに予約制のマシュマロを頼みにいくためだ。
予約は無事に済み、13日の金曜日に受け取れることになった。
13日の金曜日か・・・。
少し前の僕ならここで確実に叫んでいただろう。
だが、本物の魔族と出会ってしまった今の僕には、そんな不吉をにおわせる日にちくらいじゃびくともしない。
僕が最後の審判を受けるのは14日。
土曜日だ。
あとは待つだけ。
魔族が・・・、『彼女』がやってくるのを。
恐怖・・・そんな感情はおとついで超越してしまった。
もう僕が恐怖に叫ぶことはない。
明鏡止水の心。
まさにそんな感じだ。
そういえば、そのケーキ屋で神崎に会った。
僕と同じくお返しを選びにきたそうだ。
この店のマカロンを選ぶとはなかなかだ。しかも量がハンパなかった。
僕の何倍だ!?
神崎は女子なのに!!
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「フッ」
尽神月流はなぜか不敵に笑った。
やはりちょっと前の僕だったらここで叫んでいたはずだ。
そう思ったからである。
いかに魔族とはいえあれほどの美少女に大きなハートチョコをもらった今となっては、特にうらやんだり妬んだりする気持ちはない。
明鏡止水。
僕の心はどんなことにも揺るがない。
まるで止まった水のように。
鏡のように。
・・・・・。
(あれ?)
一息吐いた尽神月流は、ふと自分がどうやってケーキ屋から帰ってきたのか分からないことに気がついた。
心の湖に若干の波紋。
「神崎・・・、そういえば神崎と話したんだっけ・・・」
何を?
そして尽神月流は突然思い出す。
あの後。
ケーキ屋を出た後のことである。
神崎と会うのもひょっとしたらこれが最後だと思った尽神月流は、彼女に自分がこの世界からいなくなるかもしれないと伝えようと思った。
まさか魔族が自分の魂を狙っているなどとは言えないので、軽い調子で会話をした。
(そうだ・・・それで)
彼女が魔族をどう思っているのか何となく知りたくなった。
神崎は勇敢な人だ。
しかしさすがに魔族を見たことはないだろう。
そう思ったから。
だから、聞いた。
―神崎はさ、魔族なんて世の中にいると思う?―
神崎は実に簡潔に答えた。
―思う―
尽神月流にはそれが意外だった。
そんな空想といわれる存在を、彼女も信じているのかと。
(まあ、本当にいるんだけど・・・)
ちょっとした優越感が尽神月流を包む。
実像とどれくらいの開きがあるのか興味がわいた。
ゆえに、聞いた。
―魔族って、どんなだろうね―
と。
神崎はやはり率直に答えた。
―粗暴で、残酷で、冷酷でワガママで、ものによっては危ないわね―
そう。
―・・・・・―
僕は忘れていた。
『彼女』は確かに美少女だ。
けれど。
『他』
神崎の言う通り、ものによってはどうなんだ?
粗暴で残酷で冷酷で・・・・・危ない。
危険。
凶暴。
襲い来る魔族。
普通人な僕。
・・・・・。
僕は・・・・・
「どうなるんだアアアアアアアアアアア!!!!!?」
尽神月流は怒濤のように襲ってくる恐怖に耐えかねて、叫んだ。
†To be continued.†
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
words.
普通人(|ふつうじん)尽神月流の造語。




