表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/34

1話 お仕事は、先輩とのデート

新作! 美少女との『お仕事デート』を軸にした甘々ラブコメ。

まずは一話、そしてよろしければ序章の三話まで読んでいただけると!

 暁原(あきはら)(かがり)の本日の『業務』は午前十時、駅前での待ち合わせから。


 業務開始の前に改めて、自分の服装を確認する。白無地のシャツに淡く色の入ったジャケット、そして黒のパンツ。ファッションについて然程詳しくはないが、最低限これからのお仕事をする上で恥ずかしくないものではあると思う。


 身だしなみも整え、プランも再度確認し、心も落ち着けた。だからあとは、今回の──と言っても前回とも前々回とも同じだし間違いなくこれからも同じなのだが──相手を待つだけ。


 唯一の懸念としては、上手く待ち合わせ出来るか。すなわちこの、休日ゆえの結構な人混みの中スムーズに合流が出来るか、ということだが……

 幸い、と言うべきか。それに関しては、全く心配がいらない。

 何故なら、先輩が待ち合わせ場所に来たかどうかは直ぐに分かる。



 だって──絶対に周りがざわつくからだ。



 そう思うと同時。彼の居る駅前の一角が、小さなどよめきに包まれる。


「誰あれ」

「かわいー」

「モデルさん? すっごいキレー」


 そんな、周りの羨望と称賛の眼差しを一身に受けて現れたのは、物語の中から飛び出してきたかのような美少女だった。

 さらさらと、光の粒を振りまくように鮮やかな白の長髪。可愛らしさと綺麗さを両取りしたかのような美貌の中でも一際目立つのは、淡い色合いの紫の瞳。儚さに加えてどこか妖しさも感じさせるようなその容貌は、一度視界に入れてしまえば目を離せないのではないかと思うような不思議な魅力を放っている。


 触れるのも躊躇われるような。別世界に迷い込んでしまったような。普段ならこういう駅前に一人や二人はいる不埒な目的の輩ですら、絶世の美少女であるにも拘わらず声をかけるのを躊躇うような。

 実際今も、彼女を一目見て声をかけようと歩き出した男性二人組が、再度その容姿を見て思わず動きを止めてしまう。彼女は、そんな可憐さを持った存在だった。


 そして、そうやって周囲の耳目を一気に持っていった妖精のような少女は、誰かを探すようにきょろきょろと首を回す。

 いくら声をかけるのも躊躇するような神秘的な美少女とは言え、そのまま放っておけば高確率で例のよろしくない目的の輩に絡まれる……実際先週そのような目に遭いかけたことも知っている燎は、少しだけ張った声を上げる。


「こっちです、先輩」

「!」


 それを聞いた瞬間、その少女がこちらを向いて──

 ──先ほどまでの神秘的な様子は何処へやら、愛らしくぱっと顔を輝かせ。


「かがり君!」


 少しだけ、トーンの上がった声を上げてでこちらに駆け寄ってきた。

 周囲の視線が驚きと、「ああ、あの子と待ち合わせか」との納得と、自分に対する少し疑念を孕んだ品定めのものに変わる。

 緊張するが、正直気持ちはすごくよく分かるので甘んじてそれは受けつつ、燎はその少女に向き直る。


「ごめんね。ほんとはもうちょっと早く来る予定だったんだけど、電車が遅れてて」

「いえ、大丈夫です。時間通りですし、それほど待ってもいませんので」


 彼女の名前は、夜波(よなみ)ほたる。

 燎の通う高校の一つ上の先輩で、学校でもトップクラスと名高い孤高の美少女と呼ばれる存在であり。


 そして──このいかにもなやり取りからも分かる通り。

 燎の本日の待ち合わせ相手……言ってしまえば、デートのお相手である。



 普通はこんな可憐な少女とデートとなれば、思春期男子としては舞い上がって然るべきなのかもしれない。

 燎も当然、年頃の少年らしく多少高揚する気持ちはあるのだが……残念ながら、それだけではいられない理由が主に二つあるのだ。


 一つ目は、これは最初にはっきりさせておくべきだろうから言うのだが、燎とほたるは所謂『お付き合い』をしている訳ではなく……多分、将来的にもそうなる予定は現時点ではないこと。


 そして二つ目、メインにして最大の理由が。最初に言った通り──


「かがり君?」

「え、ああ、すみません」


 考え事をしていたことを見抜かれてか。

 上目遣いで問いかけてくるほたるに燎は少し慌てて向き直り……改めて、彼女の今日の装いを目に捉える。


 ワンピース、である。

 所謂可愛い系ではなく、どちらかと言えばシックな白を基調としたワンピース。この手の服装はシンプルな分、着る人間に左右される──端的に言えば『素材の良し悪しがダイレクトに出る』類の装いであるはずなのだが。


 それでも尚、彼女のためにあしらえたとしか思えないほどの似合いようを魅せている……彼女の儚げな容姿とも相まって、触れれば消えそうな印象と、それ故に吸い込まれるような幻想的な可憐さを存分に引き立てていた。


 当然、そんなものを見せられた燎としては、改めて彼女に見惚れるしかないわけで。

 数瞬、意識が奪われて。けれど少年らしいささやかな意地がそこで発動。何事もなかったかのように、本日の予定を進めようとする。


「そうですね、それじゃあお店に行きましょうか。道順は分かっているので──」

「……今、何か言いかけたよね?」


 ──だが。

 その数瞬を、この少女は見逃してくれなかった。


 軽く息が詰まる燎を見て確信を深めると、ほたるは燎の行き先に回り込むようにして彼の前に立ち、楽しげに……孤高の美少女とは思えないほど親しみに満ちた、それでいてこれまでともどこか違う、少しだけ悪戯っぽい要素の入った表情で。

 この上なく可愛らしく、問いかけてくる。


「ねぇねぇ、かがり君。……『業務内容』、改めて確認しよっか」


 続けてその小さな唇から、周りに聞こえない程度の声量で紡がれたのは、デートには到底似つかわしくないお堅い言葉。


「きみの『お仕事』は、毎週一回、あたしとデートすること。時給は千二百円、業務予定は柔軟に、行き先ややることも応相談。

 ──ただし、条件が一つ」


 そのまま、燎の懐に潜り込んで美麗な顔を寄せ。とてもとても可憐に微笑んで、ぴっと彼の鼻先で指を立て。




「条件。──『デート中は(・・・・・)?』」

「……『絶対にデレること(・・・・・・・・)』」




 なんとも奇妙な『条件』。

 けれど確かに、彼らの間で交わされたその言葉を、告げてきた。


 何度かやった、このやり取り。

 条件の後半を燎が引き継いだ……自ら言ってくれたことを確認すると、ほたるは改めてにっこりと、含むところなく心から楽しみな様子を全面に出した笑顔で。


「デレること、つまり、素直になること。……ふふ。じゃあ、ちゃんと言わないとだよね?」

「……」

「君が、今あたしを見て何を思ったか。あたしの服装を見て、どんな感情を持ったか」


 じわじわと羞恥に追い詰められる燎に、追い討ちをかけるように続ける。彼に言ってもらうために、彼の素直な感情を引き出すために。

 続けてくすりと笑って、少しだけわざとらしい口調で。


「あたし、この服を選ぶのもすごく考えたんだけどなー。せっかくこんなことに付き合ってくれるきみと一緒にいるんだから、一番可愛いあたしでいたいって頑張ったんだけどなぁ」

「んぐ」

「だからさ。きみがそんなあたしを見てどう思ったか……ちゃんと言葉にしてくれると、すっごく嬉しいな?」


 そうやって、彼女の方から先に。そんな少しだけ照れた様子で、素直でまっすぐな心情を暴露されてしまえば。

 加えて仕事である以上、燎に最早逃げ場などなく。


「……とても、可愛いと思いました」

「ほんと?」

「嘘つくわけないでしょうそういう仕事なんですから。……本当ですよ、先輩割と可愛い系の服が似合うイメージありましたけど、そういう服もすごく良くて、普段との違いに思わず見惚れてしまいましたが悪いですか……」


 彼の方も、素直に告げる。言っているうちに恥ずかしさが限界突破して手のひらで顔を覆いつつ、後半の方が若干切れ気味の早口っぽくなってしまったがとりあえず告げる。

 そして、それを聞き届けたほたるが。


「……んふふ~」


 ふわりと。心の底から嬉しそうに、花がほころぶように可愛く笑うのも、なおさら彼の心臓にいろいろな意味で直撃するのである。


「うん、ありがと。良いこと聞けたよ、それじゃあ行こっか」

「それは何よりで。……ちなみに何故腕を組もうとするので?」

「え? ともちゃんから男の子はみんなこういうの好きって聞いたから」

「やっぱ姉貴の入れ知恵か。すぐに忘れてください」

「……かがり君は嫌いなの?」

「っ、……落ち着きませんが満更ではないと、言わざるを得ません」

「あれ、じゃあいいよね?」

「…………はい」


 そう会話をしつつ、駅前を離れていく燎とほたる。

 そんな彼らを見守る周りの人間は、当初は一様に「なんだあの美少女は……」という感想をほたるに対して抱いていたはずだが。

 今は皆、よく似ているようで全く別の感想を、一様に抱いていた。



 すなわち──「なんだあのバカップルは……」と。




 ……まぁ、ともあれ、こういうことだ。

 この状況に、素直に高揚するわけにはいけない二つ目の理由。これ……夜波ほたるとのデートは彼にとって『業務』であること。

 頻度は週に一回、時給は千二百円、その他内容は応相談。



 そして何より、条件──デート中は、絶対にデレること。



 今しがた示したように。このデートを『業務』にする理由と目的にも繋がるこの条件の影響で、燎は常時ほたるの求めに応じて己の心中を……例えどれほど気恥ずかしいものであろうとも赤裸々に公開せざるを得ず。

 結果、どこからどう聞いてもバカップルそのもののやり取りを、しかも正気のまま強制的にさせられてしまうという。思春期男子にとっては相当の心労になること間違いない、そんなイベントと化しているのである。


(嫌、とは、立場的にも心情的にも言えないけれど。

 ……毎度毎度心臓に悪いのは、勘弁して欲しい……)


 ほたるの隣で、そう燎は──これだけは心中で呟きつつ。


 先輩と後輩の、少し奇妙で謎に甘く、そして恥ずかしい週に一度のやり取りが、今日もスタートするのであった。

一話を読んでいただきありがとうございます!


面白い、続きが気になる、応援したいと思って下さった方、是非画面下の「☆☆☆☆☆」による評価をお願いします。

星は五つでも一つでも、素直な感想で構いません。ブックマークも頂けると嬉しいです。

画面下ワンクリックで良いので、ご協力いただけるとありがたいです……!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ