誇り
「俺を殴る? つまり貴様はさっきの女のために俺と対峙しているのか?」
男は興味深そうに聞いてくる。
「いえ。自分のためですよ。恥ずかしい話、僕は彼女と離れたくない。だから彼女がどこにもいかないように他の何よりも彼女を大切にするって決めてるんです」
そうだ。僕がウラを手伝っているのは、ウラとずっと一緒にいたいからだ。だからあんなことを聞いたんだろう。
『ウラは完全復活したらどうするの?』
一体どうするのだろうか? 僕を捨ててどこかに行ってしまうのだろうか?
いや今はそんなこと考えてる場合じゃない。目の前の敵に集中しろ。この人は相当強い。恐らく今まで戦った誰よりも……
「素晴らしい。その正直なところ。お前には主人公の器がある。だが俺の方が主人公だ。たった今お前という壁を乗り越えよう。こちらも大事な時間を邪魔され、少々気がたっているのでな」
男はこちらに向かって走り出し、僕を蹴り飛ばした。僕は辛うじてガードするが受けきれず吹き飛ばされる。
死の森での修行で僕は神力を使った身体能力強化を習得した。もちろん今も使用している。なのにここまでのフィジカル差があるなんて……
「そういえば自己紹介がまだだったな。俺の名はライデン。Sランク冒険者だ」
言いながらライデンは僕を殴り飛ばす。僕はそれを辛うじて受けた。
「冒険者だったんですね。ということはこの村で暴れている魔物の討伐に?」
「そうだ。お前は?」
「僕もその魔物の討伐に来ました」
ライデンは僕のわき腹を蹴る。ガードが間に合わず僕はもろにくらってしまう。痛い。まるで鉄球をくらってるみたいだ。全身が悲鳴をあげる。
僕はそのまま蹴り飛ばされ、ボロボロの家に突っ込んだ。
かなりのダメージだが、神力のおかげでだいぶ軽減されている。なんとか身体も動くな。
「僕はユート。Eランク冒険者です」
立ち上がって会話を続ける。
「EランクでSランクの依頼に! 高見を目指すその心意気! 素晴らしい! やはりお前は主人公の器だ!」
Sランクの依頼? Aランクじゃなかったっけ? まあいい。
「ライデンさん、話があります。ひとまず今はお互い拳を収めて魔物を討伐しましょう。報酬はライデンさんに全部渡します。その代わりに魔物の額に埋まっている黒い石を譲ってください」
「……」
ライデンはしばらく黙り込んだ。
「ちっ、がう!」
ランデンが叫んだ。
「ダメだ! ダメだぞ! いいかユートよ。俺は漫画を愛している! 同様に漫画も俺を愛している! 故に我らは付き合っている!」
は? 意味がわからない。何言ってるんだ?
「つまり俺が漫画を読むということは、恋人と愛を育んでいるのと同じ。それを邪魔されたから俺はキレている! 譲れぬもの、誇りのために戦っている! 貴様はどうなんだ! 貴様の目的が黒い石なのはわかった。俺と協力すれば効率良く石が手に入ると思ったんだろう。だが効率の良し悪しで拳を収めていいのか! 貴様の誇りはその程度のものだったのか!」
最初の方は意味不明だが最後の言葉は胸に響いた。
『貴様の誇りはその程度のものだったのか!」
違う。僕は二度と仲間を失いたくない。だから、そのために、彼女を傷つけたこの男に対する怒りを抑えてはいけない。
「さっきの話撤回します」
僕は【王剣】を出す。
「誇りのために戦う。それでこそ主人公だ」
ライデンは言いながら服を脱ぎ捨て、筋骨隆々の肉体を披露した。
「ここらかは全力でいきます」
「ああ。互いに死力を尽くそう」