怒り
——ユートサイド——
僕とウラは魔物が暴れている村に到着した。
村の家々はほとんど壊れていて人の気配もしない。まるで、廃墟のようだった。
「ねえ、ウラ。石の気配とかわからないの?」
「わからん。取り込むまで私の石は私の石じゃない。気配なんてわかるもんか」
そんな話をしながら奥へ進んでいると壊れた家の屋根の上に寝転がっている男を見つけた。
強面で坊主頭。首には数珠のネックレスをしていて寝ころびながら本を読んでいるようだった。
あれは漫画かな? というか避難したはずの村人が、何でまだ村にいるんだ。
「すいませーん」
疑問に思いながらも僕は男に話しかける。しかし全く返事がない。
「おい貴様、何か答えろ!」
ウラの背中から黒い翼が生える。まずい。ウラが怒ってる。
宙に浮かび男を攻撃しようとするウラの足に僕は慌ててしがみつく。
「ダメだって」
「離せ。石の重要な手掛かりなんだ。何か聞き出さないと」
「でもそういうやり方は間違ってる。そんなことするなら僕は君に協力しないよ」
ウラは「ちっ」と舌打ちすると地に足をつき、翼をしまった。
「早くあいつ以外の手がかりを探すぞ」
「うん」
僕らがまた歩みだすと、突然屋根の上にいた男が飛び下り僕らの前に立ちふさがった。
「貴様ら、この先に何のようだ?」
本を読みながら僕らに尋ねてくる。こうして見るとゴリラのようなしっかりとした体つきをしている。強面の顔と相まって迫力のある男だった。
「まずその書物を読むのをやめろ。人と話すときはその人の顔を見て話す。質問に答えるのはその常識を守ってからだ」
ウラは完全に喧嘩腰だ。
「ならば聞こう。貴様は恋人との交尾中に他の人間の顔を見るか?」
「はぁ?」
大きく口を上げてウラは困惑の声を上げた。こいつ何言ってんだって感じの声だ。これ至っては僕も同意見。
本当にこの人は何を言っているんだ?
「見ないだろう? だから答えろ」
混乱をしている僕らをほったらかしにして男は話を進める。
「付き合っていられないな。ユート、無視して先に進むぞ」
ウラは呆れたようにため息をついて歩み始める。
すると男が突然、ウラを蹴り飛ばした。辛うじてガードしていたようだがウラは二、三メートルほど飛ばされた。
「ウラ!」
僕は慌ててウラに駆け寄った。
「大丈夫?」
「……貴様ぁ」
ウラの背中から再び黒い翼が生える。
「やめろ。ウラ」
「止めるな。こいつは私が……」
「いや僕がやる」
激怒するウラに僕はそう宣言した。
「其方が?」
ウラは意外そうな声を出した。
「ウラは先に進んで。この人が何者か知らないけど、きっとこの先に何かある」
「気をつけろ。奴のスキルは厄介だぞ」
ウラには他人のスキルを読み取る力がある。
「使われたらコピーするだけだよ」
「いや奴のスキルは使われたら終わりだ。コピーを過信しすぎるなよ」
ウラは空を飛び、男の頭上を通り過ぎるが……
「通さん」
と、男が跳躍しウラの上を取る。男は上空のウラを蹴り落そうとする。その間もずっと視線は本に向けたままだ。
だが僕が跳びウラと男の間に入り、男の蹴りを腕でガードする。重たい蹴りだ。
「ほう」
男はようやく僕を見た。
「頼んだぞ」
ウラが飛び去ると、僕は男のパワーに耐え切れず蹴り飛ばされ、地面に叩きつけられる。
「少し待っていてくれ」
男は呟きながら本を懐にしまい、ウラの後を追う。が、その前に僕が立ちふさがった。
「少年よ、なぜ立ちふさがる?」
「ウラを蹴った分、あなたを殴りたいだけですよ」
僕は男を冷徹な目で睨んだ。