ランク
ムーンちゃんにウラのことを弁解するのはほんとに大変だった。
『後は任せたぞ』
このセリフはたぶんこの女から石の情報を収集しろ、的な意味で言ったんだろうが、ウラのせいでその難易度は跳ね上がった。全く。勘弁してくれ。
数時間話してようやく誤解を解くことができた。もうくたくたである。
「それでちょっと聞きたいことがあってね」
「はい、何でしょう?」
「なんか変な石が絡んでるような仕事とかない?」
僕はどこかのわがままな家来に『私と石のことは他言するな』と言われている。だからこんな抽象的な言い方しかできない。
「石ですか……ちょっと待ってくださいね」
と、ムーンちゃんはギルドの受付に走っていった。あの子はいつもそうだ。どんな話にも耳を傾けてくれる。オウマのパーティーで雑用をやっていたときもよく僕の話し相手になってくれた。
四分ほど待つとムーンちゃんが一枚の依頼が書いてある紙を持ってやって来る。
「これはある村で暴れている魔物の討伐依頼なんですが、情報ではその魔物の額に黒い石が埋まっているらしいんです」
額に黒い石。間違えない。ウラの石だ。
「ありがとう。この依頼僕が受けたいんだけど」
「ダメですよ。この依頼はAランクの任務ですよ」
このランクというのは依頼の難易度を表している。一番簡単なのがE。一番難しいのはS……となっていてAは二番目に難易度の高い依頼だ。
依頼と同様に僕ら冒険者にもランクがあって基本的に依頼と同ランクの冒険者が、その依頼を担当することになっている。
例えばEランクの依頼はEランクの冒険者が受けるという感じだ。
額に黒い石が埋まっている魔物の討伐依頼はAランク、一方僕はEランクの冒険者。つまりこの仕事は僕に適していない。
「大丈夫だよ。お願いだ。この依頼を僕にやらしてくれ」
「ユートさんがそんなに必死になるってことはきっとなにかあるんでしょう。もしかしてあの女が絡んでます?」
「え? いやー、その、えーっと」
ムーンちゃんは勘がいい。でもウラに石集めのことは他言するな、と言われてるし、うーん。
僕がどうにか言い訳しようと脳をフル回転させていると、
「言いたくないなら詮索しません。いいでしょう。この依頼はユートさんに受けさせてあげます。その代わり二つ、私のお願いを聞いてください」
「お願い? いいよ」
「まず一つ。この仕事から帰ってきたら私とデートしてください」
「うん。もちろん。もう一つは?」
デートなんて恋人っぽく言うけど、普通に二人で遊びに行くだけだ。僕らにギルドの受付嬢と冒険者以上の関係はない。
「絶対死なないでください」