完全復活
女の名はウラヌス。何百年も前に封印された空の神様らしい。
彼女は十個の石から生まれた生命体だ。魔物を蹴散らす前、僕の胸に入っていったのもその石らしい。しかし石はそれぞれ別の場所にあるらしく、現在彼女が所持しているのはたったの三個。
「というわけで其方には残り七個の石を探してほしい」
森を歩きながらウラヌスは僕にそう言った。
「は、はあ。いいですよ」
助けてもらった上に【並行干渉】を使えるようにしてくれたのだからお礼をするのは当然だ。石集めに協力しよう。
「ところでどうして家来に?」
「封印を解いてくれたからだ。私なりの感謝の印というわけだ。ほら、家来が困っているぞ。早く石を探せ」
「感謝してる人のセリフじゃないと思うんですけど」
どっちが家来だよ。
ちなみにシーファの【精霊】はウラヌスが復活したときに破壊したらしい。
「それにしてもさっきから魔物が襲ってこないな」
「それは私がいるからだ。今は殺気ビンビンだからな。奴らビビって襲ってこないんだ。凄いだろ?」
と、ウラヌスは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「そうだ。そういえば聞いてなかったな。其方は何で私を助けた?」
「それは……」
僕はウラヌスに今までのことを話した。すると彼女は、
「なら簡単だ。私に命令すればいい。そいつらを全員殺せと」
「ダメですよ。殺したらあいつらと同じになる」
「……」
ウラヌスはしばらく黙ると「そうか」とつまらなそうに呟いた。
「裏切られたからといって私を裏切るなよ」
「う、うん」
なぜそんなこと言うのかわからなかったが、ウラヌスはそれ以上何も言わなかった。
「それじゃあ、もう一度あの剣を出してみろ」
あの剣。たぶん【王剣】のことだろう。
「いいけど、何で?」
「私の石はどんな危険な場所にあるかわからない。だから戦い方を教えておこうと思ってな」
危険な場所にいかなきゃいけないのは嫌だけど戦い方を教えてくれるのはありがたいな。
「わかった」
僕は四次元的な空間を創り出しそこから【王剣】を取り出した。
「よし。まず其方のスキルの説明だ。さっきは一度見たスキルをコピーするスキルと分かりやすいように言ったが、実際は違う。【並行干渉】は並行世界、言い換えるならパラレルワールドの其方からスキルを借りるというものだ」
「並行世界? パラレルワールド?」
聞きなれない単語に僕は首を傾げる。
「簡単に言うと、この世界と並行して存在するこの世界とよく似た世界だ。パラレルワールドの其方は火を操るスキルを持っているかもしれないし、時間を止める力を持っているかもしれない。そのかもしれないを引き出すのが其方のスキルだ。パラレルワールドは無数に広がっている。つまり其方は使いたいスキルを自由自在に引き出せる」
「す、凄い」
「ただ二つ弱点がある。一つは私がいなくてはスキルが使えないこと。試しに、戻ってこい」
と彼女が呟くと、僕の胸辺りから黒い石が飛び出る。すると持っていた【王剣】が消えてしまった。
「私の力。そうだな……神力とでも呼ぼうか。【並行干渉】は神力と合わせて初めて効果を発揮する。其方だけでは使えない」
「……な、なるほど。じゃあ僕は君の力を使っているわけだよね? それは大丈夫なの?」
「私の心配をしているのか?」
ウラヌスは高らかに笑う。
「問題ない。石は神力を放出し、貯蓄する。貯蓄が限界になると放出をやめる。それが石の性質だ。私のエネルギー源は三個の石だ。其方には石を一個しか与えてないから、どれだけ力を使っても私のエネルギーは三分の一しか減らない。だから平気だよ」
でも僕が限界まで力を使えば彼女の体力は三分の一もなくなるのか。気を付けないとな。
「次に二つ目の弱点だ。とりあえずそうだな、力を貸してやるから火を操るスキルを使ってみろ」
再び僕の胸に黒い石が入っていく。
「了解」
そう言って火を操るスキルを使おうとした。しかし……、
「あれ? 全然うまくいかない」
「其方は実際に火を操るスキルを見たことはあるか?」
「ない」
「やはりな」
ウラヌスは少し残念そうにため息をつく。
「それが二つ目の弱点だ。其方が並行世界から借りれるのは実際に見たことがあるスキルだけ。恐らくスキルを借りるには、借りるスキルがどんなものかある程度イメージを固めなければならない。そのために見るという工程が必要なんだ。其方のスキルは理論上、使いたいスキルを自由自在に借りることができる。が、一度見なければならないという誓約がある。故に私は其方のスキルをコピーと呼んだ」
なるほど。つまり僕は一度見たスキルと同じスキルを持っている並行世界の僕からスキルを借りることができるのか。ややこしいな。
「この森の魔物で神力の力を学ぶといい。神力を身体に纏えば身体能力を強化することもできる。ビビる必要はないよ。最悪私がいるからな」
「わかった。色々お世話になります」
「礼はいい。全ては私の完全ふっか……いや、主君のためだからな」
ウラヌスは可愛らしくぺろりと舌を出す。
「そんなに復活したいんですね」