勝ち負け
目を開けると、そこは僕が借りている宿の天井だった。
よく見慣れた天井。朝起きると、この景色が映るんだ。しばらくウラと森にこもっていたから懐かしいな。
あれ! そういえばウラはどうなったんだ!
僕が飛び起きると、隣に座っていた今にも泣きそうなウラと目があった。なくなったはずの腕は生えている。
良かった。無事だったみたいだ。
「ユートぉぉぉお!」
ウラは泣きながら僕に抱きついてきた。
「全く。家来に心配させるなんて。其方は主君失格だ」
涙を浮かべ悪態をつきながら彼女の顔は嬉しそうだった。
「ごめん。そんなに心配させた?」
「三日も眠りっぱなしだったんだぞ。心配しないわけないだろ!」
僕は三日も寝てたのか。最初に試しでとっておきを使ったあとは一日寝込んだけど、流石に三日も寝込まなかった。たぶん、ライデンさんとの戦いで消耗したのが原因だろう。
ウラの腕は治っている。彼女の本体は石。石が壊れない限り疑似的に創り出した身体は再生する。
「彼女には礼を言ってやれよ。なにせ三日三晩ずっとお前が目覚めるのを待っていたのだらかな」
そう言ったのはベットを挟んでウラの反対側にいるライデンさんだった。この人も無事だったんだ。良かった。でも何で僕の部屋にいるの?
「うるさい! 家来だから心配するのは当たり前だ!」
僕の疑問をよそにウラがライデンさんを睨む。
「そう言ってさっきまでずっと友の手を握っていたな。素晴らしいヒロイン力だ」
ライデンさんは腕を組んで感心するように言う。ウラ、そんなに心配してくれたんだ。と、嬉しい気持ちになるけど、ライデンさんがなぜここにいるのか気になって感動が薄れる。
「捏造だ! そんなことしていない! 勘違いするなよ! ユート! 其方はもっと強くなれ! ……二度と私に心配させるな」
そう怒鳴って顔を真っ赤にしたままウラは部屋を出ていった。
まさか、恥ずかしがってる? いやいやそんなわけない。僕らはあくまで互いを利用し合う関係だ。そういうのはない。
「もちろん、俺も手を握ってお前の回復を願っていたぞ。友よ」
「は、はあ」
ありがたい気持ち半分、失礼だけど知らない方が良かったと思う気持ちが半分。複雑だ。
「で、何でいるんですか?」
「俺がお前の友だからだ」
答えになってない。まあ、いいか。話を変えよう。
「ライデンさん、さっきは……じゃなくて三日前でしたね。お手合わせしていただきありがとうございます。でもウラを蹴ったことはちゃんと謝ってください」
「謝ったさ」
意外だった。ライデンさんがこんな素直な人だったなんて。意地っ張りな家来とずっと一緒にいたから感覚が薄れているのかもしれない。というか、さっきからこの人、僕をライバルとライバルって呼んでくるけど、これは認められたってことでいいのかな?
「ライデンさん、あなたに負けたことが悔しいです。僕らの戦いは誇りのための戦いだった。僕はそれに敗れた。ウラの言う通りです。もっと強くならないと」
「友よ。あの勝負は戦った時点で勝ちなのだ。お前も俺も負けていない。冒険者は薄れてしまいがちだが本来拳は収めておくものだ。だが例え世界中から非難されようとも戦わなければならないときがある。それがあの戦いだ。お前のことだから分かっているだろうが、つまらぬことでその拳を使うなよ」
ライデンさんはちょっと変わっているけど、この人にはこの人の価値観があって、それを大事にしてるんだなって思う。憧れる生き方だ。
「俺たちには目を背けてはいけないことがある。辛いことだが受け止めなければならない。この依頼で出てしまった被害をな」