とっておき
——回想——
「それじゃ、そろそろとっておきの説明しておくか」
死の森での修行が始まって二ヶ月、肉体に神力を込めるのに慣れてきた頃、ウラが突然そう言いだした。
「とっておき?」
僕は首を傾げる。
「そうだ。どんな状況でも覆せる必殺技だと思ってくれ。まずは、これを受け取れ」
と、ウラはなにかを投げてきた。僕はそれをキャッチして、それが何なのか確認する。
「え? これ僕が持ってていいの?」
僕がこう言うのも無理はない。だって今、ウラが僕に投げたのは彼女が何よりも大事にしている彼女の石だったからだ。
「ああ。絶対落とすなよ」
ウラがめっちゃ睨んでくる。
「わかってるよ。で、何でこれを僕に?」
「それがとっておきを使うスイッチになるからだ。その石にはちょっとした小細工がしてある。其方が石を持って宣言。その宣言を私が了承するととっておきの発動だ。石を持っているほうに宣言する権利があるからな。私だけが宣言と了承、どちらの権利も持っていてはフェアじゃないだろ?」
なるほど。どうやらとっておきとやらの発動権限を僕にもくれるらしい。
「ありがとう。それでとっておきって何なの?」
「最強の力だ。まず発動条件はさっき言った通り其方の宣言と私の了承だ。其方が宣言しても、その宣言が私に届かなければ、そもそも了承できないため使えない。要するに宣言が伝わらないほど、其方と私の距離が離れていたら使用できない」
「なるほど。僕の宣言がウラに届くか届かないかが重要なんだね」
「ああ。……今から一度試しに使ってみる。だがこのことは忘れろ」
ウラは今まで聞いたことがない真剣な口調で言った。
「何で?」
「とっておきは強大すぎる力だ。どんな状況でも打開できる。だが絶対に最悪とっておきに頼れば勝てると思ってはいけない。とっておきはないものと思えよ。いいな?」