ライバル
——ウラヌスサイド——
ウラヌスはイライラしていた。復活してから人が良すぎる主君にイライラすることは多々あったが、今はそれらと比にならないほどイライラしている。
その原因は彼女と対峙している男の青い炎だ。
火力対決で負けたウラヌスは間一髪で巨大な黒い翼を動かし空に逃げた。
男の青い炎は彼の理想そのもの。この世界のスキルには極めることでスキルを自身の理想に昇華する理想開放という極地がある。扱えるものはほんの一握りだが……
いくらウラヌスが神であるとはいえ、負けたことは恥じなくていい。理想開放とはそれほど大きな力なのだ。
が、そんな理由で彼女は納得しない。まだ完全復活には程遠いが、一方的にやらえるなんてウラヌスには許せないのだ。
だがいつまでもイライラしているわけにはいかない。需要なのは男が持っている石を回収することだ。
ウラヌスは自分を落ち着かせるように深呼吸しながら地に着く。
「認めよう。私が封印されている間に人間のレベルは上がったようだな」
「何言ってんだ、テメエ」
ウラヌスが封印されていた石の生命体であることを男は知らない。こう言うのも当然だ。
「わからなくていい。だからこちらも人間を味方に——」
と、ユートのこと言うとしたところでウラヌスは気づく。ユートの生命反応が弱りきっていることに。
「どうやらまだ石は回収できていないようだな」
ウラヌスが焦っていると後ろから、聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、そこにはユートが足止めしているはずの男、ライデンがいた。
「貴様ぁ! ユートになにをした!!」
勝負そっちのけでウラヌスはライデンの胸倉を掴む。
「ユートは俺が倒した」
「噓をつけ!」
「噓じゃない。だが一歩間違えていたら負けていたのは俺の方だっただろう。俺以外にあいつほど主人公な男は見たことがない。俺はユートを尊敬する。ここに来る途中、俺にとってユートは何なのかずっと考えていた。ようやく答えが出たよ。ユートは俺の友だ!」
「はぁ?」
大きく口を開けて疑問の声を上げるウラヌスの手を払い、ライデンは上裸になる。
「友の目的は魔物に埋まっていた石。どうやらそこの男に奪われたようだな。俺が取り返してやろう」
ライデンは男に向かって走り込み、勢いを殺さぬまま拳を握り、男を殴り飛ばす。男はガードするが少しだけ後ろに下がった。
「よくわからんが味方でいいんだな?」
ウラヌスがライデンに尋ねる。
「違う! 俺はユートの友だ!」
「はぁ?」
「お前Sランク冒険者のライデンだな?」
ウラヌスが困惑していると、男が笑いながらライデンに向かって聞く。
「そうだ。そういうお前は魔王軍最高幹部、【魔王の八柱】のアオヤだな」
「あんたに知られてるとは光栄だぜ」
そう、この男の正体は魔王軍の幹部だ。
「今のパンチ、軽かったぞ。さてはあんた相当弱ってるな」
アオヤの分析は正しかった。ライデンはユートとの戦いでいつ倒れても不思議じゃないほどのダメージをおっている。
「今ならお前を楽に始末できそうだ」
アオヤは仕返しだと言わんばかりにライデンに向かって突っ込む。
「……弱っているか。それが——」
ライデンは向かってくるアオヤをパンチ一発で沈めた。
「それが友のために命を張らない理由になるのか?」