ユートvsライデン
——ユートサイド——
僕は【王剣】を握りライデンを睨む。
ライデンは強い。強靭な肉体から放たれる神力に勝る打撃。それからまだ見せていないウラが厄介だと言ったスキル。流石はSランク冒険者だ。
だが相手がどれだけ強かろうと【王剣】で斬った時点で僕の勝ちだ。
そう考えているうちにライデンがこちらに向かって突っ込んでくる。僕は【王剣】を静かに構えた。
走ってきた勢いを殺さずライデンは僕に右ストレート。僕は【王剣】の刃を立てて防御した。だが【王剣】の刃がライデンの拳に入らない。僕はそのまま吹き飛ばされる。
なんて強力な肉体だ。硬すぎる。神力での肉体強化は完璧だけど、武器強化のやり方はまだ習っていない。
やろうと思えばやれるけど、付け焼き刃にしかならない。それであの肉体に刃がとどくか……
考えた結果、僕は【王剣】を捨て肉弾戦で勝負することにした。
僕のスキルは一日五回が限度。しかもウラは今何かと戦っているらしい。体内にある彼女の石を通じて感じる。誰と戦っているんだ? とにかく合流しないとな。
「この先に例の魔物がいるんですか?」
もしやと思いライデンに尋ねる。
「ああ。奴はこの先で眠っていた。だから俺はここで奴が起きるのを待っていたんだ。」
「何で寝てる間に倒さなかったんですか?」
「そんなの主人公のやり方じゃないからだ! お前もわかるだろう?」
わからない。でもウラが何と戦っているかわかった。恐らく例の魔物だ。
【王剣】を出したからスキルを使えるのはあと四回。ウラがいれば更に石を取り込んで回数を上げれるけど今はかなわない。
かなり縛りがある状況だがライデンは構わず突っ込んでくる。
ここからは神力での身体強化を最大にする。そうなれば神力を使い切るだろう。ウラは平気だと言っていたが、彼女のエネルギーの三分の一を使い切ってしまう。
ごめん、ウラ。
心の中で謝りつつ、僕はライデンの顔面にカウンターパンチを決める。ライデンはたまらずたじろいだ。
やっぱり神力をマックスで使うと威力が違う。だが一発で倒すのは流石に無理だったようだ。
「素晴らしい!」
ライデンがニヤリと笑い、今度はラリアットを放つ。僕は彼の動きを予想し、首あたりに魔方陣を出す。それから少し離れたところにもう一つの魔法陣を設置する。
これはゴルドのスキルだ。
これでライデンが放ったラリアットは魔方陣に入り、少し離れた位置にある魔方陣から出る。ラリアットを避けれる。
スキルを使えるのはあと三回。
ライデンは魔方陣を見たのかラリアットを止め、腹部を狙った蹴りに切り替えた。この人ただの筋肉バカじゃない。ちゃんと僕を観察しながら戦っている。
だけどそれは僕も同じだ。僕は先ほど少し離れた位置に設置した魔方陣の近くに水色の塊を呼び出す。これはシーファの【精霊】だ。
シーファの【精霊】は死の森で僕を追いかけたように、なにかを追跡するのに長けたスキルだが、このスキルの真価は追跡じゃない。
【精霊】最大の武器は必ず破壊されるという条件で使用可能な体当たりだ。その威力は破壊されるという重い代償で底上げされており、Sランク冒険者にだって通じる。本来【精霊】は一度壊されるとしばらく出せなくなるというデメリットがあるが、僕は【精霊】が壊れても、また別の並行世界の僕から【精霊】を呼び出せるため、デメリットなしで【精霊】の捨て身すてみタックルが使える。
僕は魔方陣に向かって【精霊】に捨て身の体当たりをさせる。すると【精霊】は魔方陣に入り、僕の首らへんにある魔方陣から出て、僕がライデンの蹴りをくらう前に彼の腹部に直撃。ライデンは口から血を吐く。
流石の彼もいきなりの攻撃には対応できなかったようだ。同時に【精霊】は消滅し、僕も魔方陣を消す。
これでスキルを使えるのはあと二回。だがあと一回で決着をつける。
【並行干渉】は単純なコピー能力じゃない。その本質は並行世界の僕から力を借りるというややこしいものだ。
まあ、見たスキルをそのスキルを持った別の世界の僕から借りているのだと解釈してくれればいい。一度スキルを見る必要があるのは【並行干渉】を使うのに引き出すスキルのイメージを固めることが需要になるからだ。
つまりイメージさえできれば、それがスキルでなくても使うことができる。
僕はある人物の特徴をイメージする。そう、どこかの生意気な家来を。すると僕のお尻の部分から尻尾が生えた。
尻尾での攻撃は殴る蹴るより遥かに強力。そして、フィジカル強化の要領で尻尾にも神力のバフがかかっている。
「これで終わりだぁ!」
僕は尻尾を振り回し、ライデンの首を攻撃をする。ライデンは空中で縦に回転し、そのまま地面に落下した。
「なんとか倒せたか」
身体のいたるところが痛い。こんなにダメージをくらうのは初めてだ。流石はSランク冒険者。
素でここまで強いライデンに感心しながら僕はウラのもとに向かおうとする。が、なんとあれだけの攻撃を受けたライデンが立ち上がったのだ。
「う、噓……!」
「素晴らしいよ、ユート。ここまで追い詰められたのは初めてだ」
困惑する僕にライデンは称賛の拍手を贈る。
「だがこれで終わりだ。【他傷移夢】」
その瞬間僕の身体が激痛に震えた。全身から血が吹き出し、僕はその場に倒れた。
「これが俺のスキル。今まで俺が受けたダメ―ジを相手に返すことができる。一日一回しか使えないがな。このスキルは主人公らしくない。俺はこのスキルが嫌いだ。だが使わなければ俺の敗北だった。今は眠れ、友よ。お前はまだまだ強くなれる」
く、くそぉ。ウラのもとに向かうライデンを目に焼き付け、僕は意識を失ってしまう。