乱入者
——ウラヌスサイド——
ユートがライデンを足止めしている間に村の奥へと進むウラヌスは、最深部で眠っているゴリラのような魔物を発見する。近づいて見るとその魔物の額には黒い石が埋まっている。
「見つけた。私の石だぁ!」
ハハハハハっと笑いながらウラヌスは魔物の額から石を取り出そうとする。だが石に触れたとたんびりっと黒い稲妻が走った。
ウラヌスは思わず手を引いてしまう。それと同時に魔物が目覚める。四、五メートルはある巨体を動かして魔物は立ち上り、高らかに吠える。
「なるほど。貴様を倒さなければ石を回収できないということか」
ウラヌスは当初この魔物が石に残っている神力を使い切るまで放置する予定だったが、村を一刻も早く取り戻したいと言うユートに却下され、お蔵入りとなった。
しかし今はそのユートがいない。
そのためウラヌスは魔物放置プランを考えていたが、たった今それはなくなる。ユートがライデンに苦戦しているからだ。ユートの体内にある石を通してウラヌスは彼の状況が把握できる。
この魔物を放置している間にユートがやられてしまう可能性がある。
ウラヌスは手っ取り早く石を回収して、ユートを助けるプランに切り替えることにした。
「さて私の力を返してもらおうか」
ウラヌスは空を舞い、魔物の頭上にかかと落としを決める。
魔物はたまらず数歩後ろに下がり倒れてしまう。
「この程度か?」
挑発するようにウラヌスが言うと、魔物は負けじと立ち上がった。
「ほーう。頑張れ、頑張れ」
ウラヌスは手を叩いて魔物を応援する。魔物はそれに応じるようにウラヌスに向かって右ストレートを放つ。だがウラヌスはそれをあっさり翼でいなし、手から発生させた黒い炎を魔物にぶち込む。
「ぎゃああああああ!」
魔物はそう叫びながら再び地に背をつけた。
「ははは。弱すぎる」
彼女はそう言うがこの魔物は限りなくSランクに近い冒険者を葬っている恐ろしい魔物である。
「そろそろ終わりにしようか」
ウラヌスは黒い炎で魔物にとどめを刺そうとする。が、それより先に後ろから炎が起こり、魔物を焼き尽くしてしまう。彼女の石も炎に飲み込まれる。
「まずい!」
石を回収しようとウラヌスは炎に飛び込もうとしたが、炎が激しくて近寄れない。彼女が焦っていると炎の中からマッシュヘアの男が現れる。襟足が肩まで伸びていて、目つきが鋭く、耳には痛々しいまでに色々なピアスが付いている。
「お仕事完了」
男はウラヌスの石を見ながら呟く。
「おい其方、その石は私のだ。よこせ」
「は? やだよ。こいつの回収が俺のお仕事なんだ。死ね」
男は手のひらから炎を出し、ウラヌスを攻撃する。対してウラヌスは黒い炎を放つ。オレンジの炎と黒い炎がぶつかり合う。
黒い炎は勢いを増し、オレンジの炎を焼き尽くすと、男を焼いた。
「ふん。造作もない」
「ハハハハハ! 面白れぇ!」
黒い炎を受けながら男は笑う。
「理想開放! 蒼炎自傷!」
男が宣言すると、彼を燃やしている黒い炎が青になっていく。炎の色が変わっているだけに見えるが、男が青い炎を発生させ、ウラヌスの黒い炎を中和していっているのだ。
「な!」
それに気づいたウラヌスは驚愕する。神である自身の炎がかき消されたからだ。
「くらえェ!」
男が青い炎をウラヌスに向けて放出する。ウラヌスはさっきと同じように黒い炎をぶつけるが青い炎の火力は強く、ウラヌスの炎は押し負け、青い炎が彼女を襲う。