出会い
「ユート。お前をパーティーから追放する」
突然そんなことを言われ、ユートこと僕は驚いた。
現在僕ら冒険者パーティー一行は魔物討伐の依頼を受け、屈強な魔物がはびこる【死の森】という場所に来ている。
僕を追放すると言い放ったのはパーティーのリーダー、オウマだ。金髪にピアス。見た目はチャラチャラしているが頼りがいのある人物だ。
「そんな……追放だけは勘弁してください」
僕は慌てて頭を下げる。とにかく今は謝るしかない。
「ふん。ザコが。とっとと消えろ」
「そうよ。今まで外れスキル持ちのあんたを面倒見てやってただけ、ありがたく思いなさい。今まで雑用お疲れ様」
僕の謝罪に苦言を吐いたのは同じパーティーのゴルドとエルフのシーファだ。
この世界では誰もが一人に一つスキルという異能の力を持っている。しかし僕のスキル【並行干渉】は僕の周りに四次元的な空間を生み出すだけの外れスキルだった。
その空間は僕以外の全てを拒絶する。つまり物を収納することも傷ついた仲間を空間に入れて休ませることもできない。
そんな僕をパーティーのみんなは受け入れてくれた。
オウマはどんな時でも僕を守ってくれた。
ゴルドは、顔は怖いけど、必ず強くなれると僕を励ましてくれた。
シーファはいつか僕のスキルが役に立つ日がくると慰めてくれた。
そんな彼らがゴミを見るような目で僕を睨んでいる。僕は思わず一歩引いてしまう。
「てわけで最後の仕事だ」
オウマはなにもないところから金色のオーラを纏う剣を取り出した。
この剣の名は【王剣】。斬ったものに絶対の命令を下せる剣。
この相手に絶対遵守を強いる【王剣】を具現化するのがオウマのスキルだ。
「俺らの狙いは【森王】と呼ばれるこの森最強の魔物だ。だが奴を見つけられたものはいない。奴を探している間にこの森の魔物との戦いで力尽きるからだ。そこで俺は考えた」
オウマはニヤリと笑って僕を【王剣】で僕の腕を切りつけた。
「な、何を……!」
「ユート。命令だ。この森で一番強い奴のとこに行け」
震える僕にオウマが命じる。
……そういうことか。【王剣】で下した命令は死んでも解除されない。僕は今から跡形もなくなるまで森王を探し続ける。
「シーファ【精霊】をユートに」
オウマがシーファに指示する。
「わかってる」
シーファの周りに水色の塊が出現する。あれはシーファのスキル【精霊】。
死んでも森王を探し続ける僕を【精霊】で追跡する。
「こ、こんなの酷いよ」
「うるさい。早くいけ」
僕は最後の抵抗でそう言ったが【王剣】の命令には逆らえない。僕の身体は森王を探すために動き始める。僕の意思とは正反対に。
「森王が見つかるまで暇ね」
「森を抜けた先の町でレストランがあったな。飯にするか?」
「賛成」
そんな会話が最後に聞こえてきた。彼らは今から食事に行くのだろう。だが今から僕は魔物の食事になるのだ。
「くそおおおおおお!」
どれだけ叫んでも僕の身体は動き続ける。死ぬまで。いや死んでもだ。おびただしい数の獣の声が聞こえる。今にも襲ってきそうだ。
ふと後ろを見ると僕よりも何倍を大きい魔物が何十匹もいた。
「やめてくれェ! お願いだ! まだ死にたくないんだ!」
僕は走りながらなにかを拾う。僕の意志じゃない。恐らく今拾ったものが【王剣】の命令に関与しているのだ。
僕が拾ったのは霊験あらたかなお札がついている黒い箱だった。僕は足を止め、箱に付いているお札を取ろうとする。
すると僕の身体に激痛が走った。
「ぐわああああああああああああ!」
身体が焼けるようだった。これは絶対に取ってはいけないものなんだと本能でわかる。でも僕の身体は止まらない。【王剣】の命令が関与しているのだろう。
ということはこの箱が森王に関係している。
何なんだ、この箱は?
そう考えたところで僕は痛みに耐えられず意識を飛ばしてしまう。
「——は!」
僕は意識を取り戻す。最初に目に入ったのはお札が取れて開いた箱だった。
「どうなった……?」
そこで異変に気づいた。【王剣】の命令は意識が飛ぼうと反映される。つまり気絶していても僕は森王を探しに走り回っているはず。だが僕はその場で気絶していた。
「目覚めたか」
その声は僕の頭上から聞こえた。
僕が上を見ると、そこには巨大な黒い竜がいた。まさか……こいつが……
「あなたが森王?」
「違う。私の名はウラヌス。空の神だ」
ウラヌス? 空の神? わけがわからない。というかこの魔物喋ってる。
「其方、面白いスキルを持っているな」
「【並行干渉】のことですか? でも僕のスキルは変な空間を生み出すだけの外れスキルで」
「外れスキル? なるほど。其方は力を出し切れていないようだな。私の力を少し分けてやろう」
すると竜の身体から黒い球体が出る。球体は僕に向かって落下し、僕の身体に入った。なんの比喩もない。球体が僕の皮膚をすり抜け、身体の奥に入っていったのだ。痛みは全くない。
その瞬間、身体の中心から力がみなぎってきた。今まで感じたことのない感覚だ。今ならなんでもできそうな気がする。
僕は立ち上がった。周りには数十匹の魔物がいる。奴らが僕を襲わなかったのはあの黒龍がいたからだろう。
だが魔物たちは竜に怯えているわけじゃない。
鋭い瞳でこちらを睨んでいる。やる気満々だ。
「いいか、其方のスキルはコピーだ。一度見たスキルをコピーできる」
僕はスキルで四次元的な空間を創りイメージする。何度も見てきたあいつの力を。僕はその空間に腕を突っ込んで……、
「【王剣】」
そう宣言すると空間に突っ込んだ手に何かが握られたのが伝わる。僕は空間から腕を抜いた。するとその手には王の力を持つ剣、【王剣】が握られていた。
僕は魔物たちに接近し、斬り伏せる命令する。
「死ね」
すると僕に斬られた屈強な魔物たちが爆散した。
「残りは処理しよう」
言うと黒龍は黒い炎を吐き、周り魔物を一掃する。
凄い。やっぱりこいつが森王なんじゃ……
驚いていると黒龍は黒い光に包まれる。光は縮小し地に落ちると、光の中から黒いドレスを着た女が現れた。
白い肌に整った顔立ち、髪は黒いボブショート。悪魔のようだが可愛らしくもある危険な笑みを浮かべながら、女は僕の前にきた。
「其方の名が聞きたい」
「ユートだけど」
「ユート。良い名だな」
彼女は僕の前で跪いた。
「ユート。私を其方の家来にしろ」
「はい?」