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帰ってきた猫ちゃん  作者: 転生新語
第一章 『吾輩は猫である』
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8 お白さん、愛の大切さを訴える

 以下、所々(ところどころ)、吾輩が説明すると。熱が出たと言っても、それ程ではなく、少し(のど)が痛いというくらいの症状だったそうだ。お白さんの飼い主は、病院でPCR検査を受けたという。


「PCR検査の他に、抗原検査っていうのも受けて、抗原検査の方はすぐに陰性っていう結果が出たの。つまりコロナの疑いは、ある程度は晴れたって事よね。で、PCR検査の方は一日か二日後に結果が分かるから、後で病院から自宅に電話が掛かってくるって事になって」


 そして、お白さんの飼い主は、病院で会計を()ませて。(のど)の薬を(もら)うために、処方箋(しょほうせん)()って薬局に行こうとした。すると病院から、「薬局の人間が来ますから、ここで待っててください」と言われたそうである。


「PCR検査や抗原検査って、病院の片隅(かたすみ)で行われるらしいのよ。コロナ感染を防ぐためだから仕方ないんでしょうけど、隔離(かくり)されたような状態になるのね。その状態が続いてて、お婆ちゃんは心細(こころぼそ)かったんですって」


 薬局の人間が来て、お白さんの飼い主は処方箋(しょほうせん)を渡し、薬の代金を支払おうとした。


「ところがね。『代金は後日、支払ってください。今日、受け取る訳にはいきません』って言われたんですって。コロナの疑いがあるから、現金にウィルスが付着してる恐れがある。そういう事らしいの。でも病院では、普通に現金で支払えたのよ? どうして薬局ではできないの?」


「病院には消毒液が豊富にあるでしょうから。病院のスタッフもゴム手袋をしてるでしょうし」


「それにしたって、抗原検査は陰性だったのよ? お婆ちゃんは(ほとん)ど平熱だったし。それでお婆ちゃん、自分が病原菌みたいな扱いを受けたのが悲しかったんですって。隔離(かくり)された状態が続いてて、早く家に帰りたいのに、今度は薬局から『後日、また薬局に来て(きて)(いただ)いて払うか、または銀行の口座に振り込んでください』って言われて。


 でも代金って、千円以下よ? そこに振込手数料を加えて払わなきゃいけないの? それに『後日、また来てください』って言うけど、お婆ちゃんは高齢で足が悪いの。なのに『また来てください』って簡単に言うの? もう少し思いやりがあるべきじゃない?」


 お白さんの飼い主は頭を下げて、「また後日、来るのは辛いです。今日、代金を払わせてください」と言ったそうだ。結局、薬局が折れて、その場で代金は支払えた。


「それで話が終われば良かったんだけど。薬局の人が薬を持ってきて、お婆ちゃんが受け取ろうとしたのね。そしたら薬局の人が、薬の袋をお婆ちゃんから遠ざけて。『ルールを守れない人には、今後、薬は渡せませんよ』って、(しか)りつけたんですって。お婆ちゃんの半分も生きてないような年齢の人が。お婆ちゃんは『()みません、()みません』って頭を下げて」


 お白さんの飼い主は、何とか薬は渡してもらえて。その日の出来事を、娘に話したという。


「それで、お婆ちゃんの娘さんが、怒って怒って。保健所に電話したんですって。『母から薬を取り上げようとするのは、保健所の方針なんですか! それがルールなんですか!』って。


 保健所の回答は、『代金の支払いに関するルールは、薬局が決めたもので。私たちが決めたものではないです』ですって。なら保健所に怒っても仕方ないわよね。ああ、ちなみにPCR検査の結果は陰性だったわ。今後は薬局も、もう少し優しく対応してくれる事を願うしか無いわね。ごめんなさいねー、話が長くなっちゃって」


「いいえ、いいえ」


「私ったら駄目ねー、話が愚痴(ぐち)になっちゃって。小説家には向いてないと思うわ」


 むしろ、お白さんこそ天才猫ではあるまいか。吾輩には、そう思えてならない。


「人間の言葉が分かっても、書く才能って、また別なのよ。誰もが作家には、なれないように。


 そして吾輩さんには、神様から与えられた、書く才能がある。だったら()かさなきゃ」


 そんな事はない、とは吾輩、もう言えなかった。お白さんの期待を裏切る気がしたので。


「今は『経済を動かすか、命を守るか』とか言われてるけど。そんなの、どっちも大事よ。(かり)に政府だか上だかが、私のお婆ちゃんの命や尊厳を(かろ)んじるルールを作るなら、私は反対するわ。


 愛が無いルールなんか最低よ。愛を知らないまま死にゆく、世界中の人や猫のためにも、誰かが言葉を(つむ)がなきゃ。それには愛を知って言葉を知った、吾輩さんが適任だと思うわ」


「経済が動かないと、貧しさで人が死ぬし、猫は(えさ)(もら)えないと。結局それも命の問題ですよ」


「そうそう。あんまり、お説教じみた事も言いたくないから切り上げるけど。とりあえずはね」


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