6 猫ちゃん、後半を講義する(その2)
「与次郎さんに、お金を返してもらわないといけませんねー」
「そうだね。で、三四郎は与次郎に金を返してくれと言う。すると与次郎は、『美禰子さんが返してくれる』と言い出す。お金が無くて、与次郎は美禰子に相談したんだってさ。ただし条件があって、美禰子は三四郎に、直接お金を手渡しすると言ってるんだ」
仕方なく、三四郎は美禰子の家まで金を取りに行く。西洋風の家で、どうやら野々宮よりは、美禰子の兄の方が稼ぎはあるようだ。家には美禰子が居て、「兄は承知しているから」と、三四郎に金を渡そうとする。三四郎は尻込みして「実家から送ってもらうから要らない」と言い出す。
「結局、三四郎と美禰子は一緒に銀行に行って。そこで美禰子が小切手で、三十円を引き出して三四郎に渡す形になる。『みんな、お使いなさい』と美禰子が言って、これは三四郎への好意なんだろうね。野々宮の月給が五十五円だから、なかなかの額じゃないかな」
これが恐らく、美禰子の最後の反抗であった。兄の稼ぎから三十円を渡した今、彼女は自由な結婚を諦めている。自由を求めて空を眺めていた女は、不自由な地上で運命に隷属する。
こうして三四郎は家賃を払えたが、しかし美禰子には金を返したいと思う。仕方ないので、実家に「友達に金を貸して困っている」と手紙を出して、三十円を送金してもらう。
「与次郎は美禰子からの金に付いて、三四郎に『いつまでも借りておいてやれ』と勧める。三四郎の実家から三十円が来るんだけど、無駄遣いするんじゃないかと心配だったみたいで、お金は野々宮の下宿の方に送られるんだ」
「じゃあ、野々宮さんの下宿まで、お金を取りに行かないといけませんね」
「そうだね。で、下宿まで行く途中で、三四郎はデパートみたいな店に立ち寄ってみる。すると、そこでは美禰子とよし子が二人で買い物をしてて。三四郎と一緒に買い物をして、美禰子は三四郎が薦めたヘリオトロープの香水を買う。これは美禰子に取って、いい思い出になったみたいで、小説の最後の方でも会話に出てくるよ」
美禰子は家に帰るが、よし子は三四郎と一緒に、野々宮が居る下宿まで付いてくる。この妹は、兄の事が大好きなのだ。
「三四郎は、よし子と一緒に野々宮と下宿で会う。で、無事に三十円を三四郎は受け取る。その場で野々宮は、よし子に縁談の話を勧めるんだけど断られるんだね。結婚より、兄の側に居たいんだよ妹ちゃんは。野々宮は両親も健在だし、野々宮の父親は、よし子にバイオリンを買ってあげるために二十円を送ってくれる人だ。可愛がられてて、よし子は結婚を急ぐ気も無い」
ことごとく、よし子は美禰子と対照的な立ち位置のキャラクターである。
「小説は与次郎の政治運動が失敗して、広田先生に迷惑が掛かったりするんだけど、その辺りは省略するよ。三四郎は三十円を返したくて、原口さんの所で絵のモデルをしている美禰子に会いに行く。でも美禰子はお金を受け取りたがらない。原口さんの家から出て三四郎と美禰子は歩く。三四郎は思い切って『ここには、あなたに会いに来た』というような事を言うんだ」
三十円の事など、言い訳に過ぎない。三四郎は美禰子が好きだから会いに来たのだ。
「二人は歩きながら、ぽつりぽつりと思い出話をする。でも、美禰子を迎えに車が来て、会話は中断される。車に乗っていたのは三四郎が知らない男で、つまりは美禰子の結婚相手さ」
「……縁談が、あったんですね」
「そういう事だね」
龍之介くんは賢い子だ。美禰子が結婚相手を限定的にしか選べないと、理解していた。
「美禰子は車に乗って去っていく。まだ三四郎は三十円を渡せていないね」




