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帰ってきた猫ちゃん  作者: 転生新語
第四章 『三四郎』
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5 猫ちゃん、後半を講義する(その1)

 吾輩の夢の中で休憩、というのも、おかしな話ではある。まあ夢にも退屈な夢などあるのだ。


 せっかく講義のために用意した黒板も、あまり使っていない。吾輩、その黒板で龍之介くんとマルバツゲームなどをして遊んだ。ちょっと体も動かしたいので、十八歳の姿になっている龍之介とバトルもしてみた。吾輩の夢の中なので、今なら彼とも互角に戦える。


「吾輩の空中殺法を回避するとは、さすがだね龍之介くん」


「吾輩さんも、僕の百裂拳を全て受け流すとは……やりますね」


 夢の中なので、吾輩は空中に浮かぶ事ができる。前足と後ろ足の四本を使って、彼の攻撃をパリィする事も可能なのだ。今なら足でピアノを演奏できるかも知れぬ。


「さあ講義を再開しようか。後半は、ざっと流していこうかね」


 龍之介くんが切り株の椅子に座る。小説は、三四郎にできる事はあまり無い。美禰子の運命は、もう(ほとん)ど決まっているようなものだ。


「ちょっと美禰子の家庭事情を説明しておこうか。既に三四郎は、野々宮の妹であるよし子から聞いているんだけど、美禰子の両親はかなり前に亡くなってるそうだ。美禰子の身寄りは兄が一人だけで、その兄が保護者となっている」


「美禰子さんのお兄さんは独身なんですか?」


「独身だね。ただ近々、結婚するという話が出ている。もし兄が結婚したら、美禰子は兄の家には居られなくなるんじゃないかな。お兄さんの経済的負担で居続ける訳にもいかないし」


 当時、大学は女子の生徒を受け付けていなかった。女が独身で働いて稼ぐのは難しい時代であったろう。美禰子とすれば、もし兄から縁談を勧められれば、断るのは難しい立場なのだ。


「美禰子は兄の家に住まわせてもらってて、そこに野々宮の妹、よし子も居候をさせてもらっている。美禰子の兄と野々宮が友達だから、というのもあるけど、美禰子とよし子の仲が良いというのも居候を受け入れた理由じゃないかな。何より、美禰子と野々宮は結婚も有り得た仲だしね」


 つまり美禰子は、兄に借りがあるのである。いっそ美禰子が、兄の事など何とも思わず、自分が好きな相手と結婚できる性格だったら幸せであっただろう。そうでは無かったから美禰子の苦悩がある。親代わりに育ててくれた兄の恩を無視できないから、美禰子は兄が望む相手としか結婚できないのだ。


「小説では東大の運動会が行われて、それを観戦しに美禰子と、よし子が来る。三四郎は客席で二人を見つけて話しかけるんだね。ちょっと美禰子は余所余所(よそよそ)しい。この時期には、美禰子は兄から縁談の話を持ち掛けられてたと思うね。それでも三四郎と話をして、楽しく別れる」


 美禰子と同い年の三四郎は、まだ仕事にも就いてないから稼ぎが無い。美禰子の結婚相手としては若すぎた。しかし同年代であるからこそ、話していて心が安らぐ男ではあったのだろう。でなければ、草の上に座って、三四郎と二人で雲を眺めて話し込むはずも無い。


「三四郎は、美禰子や広田先生との話で、原口という絵描きを知る。その原口は、美禰子の肖像画を描く事になるんだ。肖像画は小説のラストで、絵画展に飾られるのさ」


 三四郎は、広田先生と原口の会話から、美禰子の兄が「妹の結婚について、いい(くち)はないか」と原口に相談していると知る。だからといって三四郎には何もできない。母親からは三四郎に手紙が来て、「お前は子供の時から度胸がなくっていけない」と説教される。


「ある日、与次郎が馬券で損したとかで、二十円を使い切って困ってて。当時は、それなりの金額だったんだろうね。三四郎は故郷から送られてきた金で、与次郎に二十円を貸してあげるんだ。でも三四郎も金持ちじゃないから、このままだと下宿屋に家賃が払えない」

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