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7.カルレイ侯爵家令息の願い

初めまして、のシュナの弟が登場。

彼が一番大人なのかも‥‥‥。

「今日もシュナが可愛い過ぎてツラい………」


テーブルに肘をつき、組んだ指に額を預けてため息と共に呟いたのは公爵家令息のギルバートだ。


「僕は親友の、ちょっとおかしい発言を聞かされ続けてツラいよ」


行儀悪く頬杖をついたまま、半眼で目の前の男を眺める。


あ、どうも。

カルレイ家令息のセオドア・カルレイです。皆様には姉のシュナと、(ちょっと問題のある)父がお世話になっています。


話を戻して、と。


「最近、シュナへの愛が変な方向に行ってないかい?」


「っ!仕方ないだろう!」

ばっと顔を上げて叫んだギルは、その後何を考えたかしおしおと萎びて再び俯いた。


仕方ない、ねぇ。


嘆息し、残念すぎる親友を眺める。

1つ歳上の彼はシュナの婚約者という立場であり、幼い頃から交流があった。

基本的には文武両道を地で行く、好青年なんだけど。拗らせているせいか、シュナに関しては残念極まりない思考回路しか持ち合わせていない。


そして、その残念すぎる思考の被害に遭うのは、大抵僕だ。ちっ。


だけど、ギルの気持ちも分からなくはないな。

この国では16歳で社交界デビューを果たす。

通常ならそのデビューに際に、婚約者のギルはシュナをエスコートするはずだった。

それをカルレイ侯爵、つまり父に止められてしまったのだ。


勿論、それには訳がある。

膨大な魔力を持つシュナは、過去2回誘拐未遂に遭っている。何とか事なきを得たが、また起こらないとも限らない。

シュナはその(なり)のせいで、お茶会などの交流会には参加していないし、魔術学院でも研究室で研究に没頭しているから姿形を正しく知る人間は限られている。

だから、パッと見る限りただの(可愛い過ぎる)8歳児と認識され、カルレイ家令嬢と認識されにくい。


だけど、ギルと行動を共にした場合。

ギルの婚約者はシュナと言う事は知れ渡っている。そして、シュナが成長を止めて幼女の姿だと言う事も有名だ。

と、言うことは。

ギルと行動する事で、シュナを狙う奴らに誰が目当ての人物か丸分かりという訳。


愛娘に降りかかる火の粉を払いたい父は、互いの家での茶会以外では、できる限り距離を取って欲しいとギルに願ったのだ。


シュナの過去の誘拐事件を目の当たりにしているギルには、否やと言える筈もなかった。


ギルの気持ちも分かるから、大人しく聞き手になっていたけれど。最近は、愛情のベクトルが変態方面に傾いている気がして不安だよ。


シュナはシュナで、変にギルに遠慮しているのが丸分かり。こんなにギルが溺愛してるのに、『幼女姿で申し訳ない』フィルターがかかって全く気付かない。


困ったものだ。


「あのさ、明後日だけど1日時間取れる?」


「明後日?確認しないとはっきり言えないが、多分大丈夫だと思うが?」


「じゃ直ぐに確認して。で、時間取れるなら、明後日の朝侯爵家に集合ね」


「は?」


「はいはーい、かいさーん!」


ま、多少強引でも2人が距離を縮めれる様に、弟は頑張るよ。で、少しはギルの変態ベクトルが修正される事を願うね!(マジで!)



♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎


「………で、一体何なんだ?」

「あ、おはよー!」


苦い顔でやって来たギルに挨拶すると、更に顔を顰めた。が。

「おはようございます………」

そっとかけられた挨拶の声に、ギルは目を見開き固まった。


「セオ、サウザリー様に無理を言ったのでは?お忙しい方なのに、申し訳ないわ」

無反応のままのギルに、シュナは眉を下げ困り顔で僕に視線を向けた。


「あーギルは朝に弱いからね。頭、動いてないのかも。ま、取り敢えず馬車に乗ろう」

バシっとギルの肩を叩き再起動を促す。はっと我に返った彼は、困惑しつつも馬車へシュナをエスコートしてくれた。


「どういう事だ?」

馬車のドアを一旦閉めて、ギルは僕に詰め寄る。うわぁ怖い(棒)

「今日はシュナが作った魔法陣の実験予定なんだよ。侯爵家所有の別邸に行くんだけどさ。ちょうど見頃の花が咲いてるし、湖も近くにあるし。

実験の合間に散策とか良いんじゃない?」


「だが………」


「場所は侯爵家所有の敷地内。父には了承も得てる。偶には婚約者らしくデートでもしなよ。

実験だから付き添いとして僕も行くけど、散策の間は遠慮してあげる」


「………感謝する」

複雑な顔をしつつ、感謝の意を表すギルに苦笑いが溢れる。

また、色々小難しい事を考えているんだろうなぁ。

やれやれと肩を竦めて、ギルを馬車に促した。

時間は有限です。サクサク動くよ。



「セオに誘われて来たが、今日は何の実験なんだ?」

移動の馬車の中で、ギルはシュナに質問していた。そういえば、僕も実験の概要聞いてないや。


「今日は、水上を歩く実験なんです」

魔術の話になるとシュナは饒舌だ。今もキラッキラに瞳を輝かせて、魔法陣に組み込まれた方式を語っている。

実験への期待と興奮で笑顔も全開、可愛い事この上ない。


そんなシュナを見守るギルの瞳の優しいこと!

愛しさが溢れちゃってますよ?

こんなの見たら、どれだけ彼がシュナを大事にしているかすぐに分かるだろうに。

肝心のシュナには伝わらないんだよなぁ。


久々に会話も弾み楽しそうな2人を眺めながら移動は続き、予定通り別邸に到着したのだった。


「では、始めます」

動きやすさを重視したシンプルなワンピースで、ちょこんと湖の淵にシュナは立った。

セルリアンブルーのワンピースは、色白のシュナに良く似合い、少しだけ大人びて見える。


水の上を歩く、か。

今までの考えで行くと、氷属性で湖を凍らせるか、風属性で身体を浮かせるかになるけど。


ギルと2人で少し離れた場所から見守る。シュナは魔法陣を記した用紙に少しの魔力を流し、そっと湖に乗せた。

淡い輝きが脈打つ様に用紙から放たれた後、水面に広がる様に魔法陣が浮かび上がった。


ぱっと嬉しそうな顔をしたシュナは、ワンピースの裾を摘み湖に一歩を踏み出した。


「え、ちょっ……!」

「シュナ!?」


自ら行くとは思わなくて、慌てて湖に近付く。


シュナは水に濡れる事なく、ニコニコ笑顔で湖を渡っていく。彼女が一歩踏み出す度に、波紋が水面に立つ。

湖の丁度真ん中辺りまで歩いたところでシュナは脚を止めた。そして湖に一際大きな影を落とす木を見上げる。


どっしりとした木々に囲まれた湖の色は濃く深い。セルリアンブルーの服を纏うシュナの姿はひっそりと儚い存在に見えて、湖に溶けて消えてしまいそうだった。そんな錯覚に陥りヒヤリとする。


ふわり、と空気が動く。はっとして隣を見ると、共にシュナを見ていたギルが走り出した後だった。


「…っシュナ!!」

迷う事なく湖に脚を踏み出し、そのままシュナの元に走る。

血相を変えて近付く彼を、シュナはびっくりした顔で見上げていた。


「サウザリーさま?」


抱き上げられた後、力一杯抱きしめられシュナは困惑した顔で彼を見る。


「消えるかと思った………」


ため息の様にひっそりと呟き、ギルはシュナのシルバーブロンドの髪に顔を埋めた。


「ごめんなさい」

嘗てない様子に、シュナはそっと謝罪の言葉を送る。


顔を上げる事なく無言で首を振る彼に、シュナは少し落ち込んだ様子だった。

ギルに抱き上げられたまま湖の淵に戻ると、シュナはもう一度謝罪した。


「サウザリー様、セオ、驚かせてごめんなさい」


しょぼんと項垂れる彼女に、漸く立ち直ったギルは優しく声をかけた。


「君の実験だから、間違いはないと思うが。被験者になるのはダメだ。

君は侯爵家の令嬢だという事を忘れないで欲しい」


「確かにね!自分で行くとは思わなくて、びっくりだよ。君に何かあったら、僕とギルは父上に殺されちゃうよ」


多分、言い訳する間も無くヤられるね!ゾッとしつつ、僕もシュナに苦言を呈した。


ただでさえ小さいシュナが、青年2人に叱られてますます身体を縮こませる姿に、ちょっと笑ってしまう。


「ま、実験結果は上々だし?少し休憩しよっか」


最早、散策を促す様な雰囲気でもなく、休憩を提案した。


コクコクと紅茶で喉を潤しつつ、シュナはそっとギルを見る。

ギルはそんなシュナに気付かず、先程の湖をじっと眺めていた。

何を考えてるんだろうねぇ。


「シュナは………。本当に社交界デビューはしないつもりか?」


不意に話しかけられて、シュナはビクリと肩を揺らす。

「そ…うですね。この様な姿ですし。父の了承も得られたので、見送ろうかと思っています。

陛下にも父から話を通して頂く予定ですが…」


「では、私から一つ頼みがある」


その言葉に、シュナと顔を見合わせる。


「私にできる事なら」

頷くシュナに視線を合わせて、ギルは言葉を紡いだ。


「では君にネックレスを贈らせてほしい。シュナが装飾品を好まないのは知っているが、本来はデビューする筈の歳だ。慣例に則って、私が選んだ物を受け取って欲しい」


シュナが目を見開く。


それはそうだろう。

この国ではデビューを迎える令嬢に、親しい者からネックレスが贈られる。

婚約者からの通常のプレゼントならば、自身の髪や瞳の色の物になるが、デビューで贈るネックレスは違う。

大人の仲間入りを果たす令嬢に、これからの人生に幸多き事を願い、寿ぎの言葉に代えて贈る品物だ。


宝石や周りの飾りで、様々な意味を持つ物になる。


男性の場合はカフリンクスになる。


「ありがとうございます。では私も贈らせ頂いても良いですか?」

余程嬉しいのかそっと微笑んでシュナは答え、ギルの表情も優しいものに変わった。


あーもう、何て言うか、焦ったい!!


ちょっとイライラしてしまう僕が狭量だとは思いたくないね!

予定とは違う展開にはなったけど、ま、コレはコレで良しとするか。



♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

実験の日から、少しの時が経ち。


王城でパーティが開催される日がきた。

シュナはデビューしないから、ゆったり侯爵家で寛いでいた。

着飾ったシュナも天使の様に可愛いけど、普段着のドレスでのんびりしている彼女は、ほっこりした雰囲気で僕の癒しだ。

そこにサウザリー家からの使者がやって来て、丁寧な挨拶と共にシュナへの贈り物を渡していった。


使者を見送った後に広間に戻って、ラッピングされた箱を眺めるシュナ。


「開けないの?」


暫く様子を見ていたけど、一向にプレゼントを開けない彼女に声をかける。


ちらりと僕を見て、そしてそっと包みを開け始めた。


上質な箱に収められていたのは、ピンクオパールとダイヤモンドの、ため息が出る程に美しいネックレスだった。


愛の石言葉から、婚約者からの贈り物の定番とされるダイヤモンドを見て、シュナは何も言わなかった。


シュナ、良く見てごらんよ。

ネックレスのメインの石はピンクオパールだよ?

そして台座の周りを飾るのは蔦と、この国の国花だ。 


人との交流が少ない君は、そのネックレスの意味に気付かないのかな?

彼は必死に君の愛を乞うているんだ。


デビューで贈られるネックレスの意味を講釈するのは、無粋の極み。


だけどギルの気持ちを思うと、切なくなる。


シュナ?自分に呪縛をかけるのをやめて、そろそろ哀れな男の気持ちに気付いてあげて?



ピンクオパール: オパールは愛と神秘の宝石で愛を叶える石ですね。


読んで頂きありがとうございました。

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