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6.公爵様の苦悩

遅くなりました。

お父様方のお話となります。

※サブタイトル変更しました

「時間を取らせて悪いね」


本日、面会を申し込んでいたオリヴァー・カルレイ侯爵は、出迎えた私に言葉を軽く声をかけてきた。


「いや、問題ない」


彼が来た用件は、大体予想がつく。私の胃に優しくない話だろう。


「メイソン、私が話をする前に、いろいろ考え過ぎだよ。また胃を痛めるよ」

ニコニコ笑いながら、さっさとソファに身を沈めるオリヴァー。その顔に笑みを浮かべてはいるが、全てを見透かすと言われる紫紺の瞳は油断がならない。

オリヴァーとは魔術学院の頃からの付き合いだ。ヤツの腹黒さは良く知っている。


オリヴァーは柔和な態度、明晰な頭脳を武器に、学院を卒業後、瞬く間に昇進を果たした強者だ。

その頭脳を見込まれ次期宰相に、との話もあったが。

オリヴァーのヤツは、妻子との時間がなくなるのは嫌だとゴネて、宰相補佐に収まりやがった。  


お陰で、現宰相は気苦労が絶えず、ハラハラと頭髪を散らしているらしい。全くもって気の毒だ。


だが。私とて対岸の火事と笑える程気楽な立場ではない。


「さっさと用件を言え」


「性急だなぁ。まぁ、いいけど。ギルバートとシュナの婚約の件だよ」


………やはり、それか。

シクシク痛む胃を宥めつつ、ヤツの真意を探る。


「先程ダングラー伯爵が、早速食い付いてきたぞ。随分早めに情報を流したな」


「ははは、あそこも随分財政難みたいだからねぇ。公爵様の御威光に縋りたかったんだろ」


「どう言うつもりだ?愛娘の不利となる情報を出すからには、何か思惑があるんだろう?」


私からの疑問に、オリヴァーはふふんと笑った。

「東が動くよ。前々から我が国の魔力の強い、貴族の庶子を狙って密輸してたみたいだけど。あの国じゃ上手く育てる事が出来なかったみたいだね」


そして。まるで幕を払ったかのように、スンっとヤツの表情が消えた。

「性懲りも無くシュナを狙い始めた」

一気に室内の気温が下がった様に感じる。


ああああ!!

大魔王、来臨‥‥……。

ウチの息子(ギルバート)も大概だが、オリヴァーはもう次元が違うんだぞ!

誰が後始末に奔走すると思っているんだっ!


東の隣国の、軽率な行動を苦々しく思っていると、オリヴァーは呪詛でも吐き出さんばかりの低い声で呟いた。


「東がシュナに手を出したのは、過去に2回かな。いずれもキッチリ報復したかったけど、我らが国王陛下が止めるからね。暴れるのも割と我慢したんだよ」


…………東の隣国側の国境付近は凄まじ勢いで破壊され、未だに麦も育たぬ荒地と化していると思うが。

アレで我慢したのか。そうか。


「前回の事件の際に、聡明なる陛下は言ったんだ。次また事を起こすようなら、その時は好きにして良いと。

シュナの誘拐を画策しているって段階で、もうダメだよねぇ」


背後に暗雲を立ち込めさせて、オリヴァーは微笑んだ。


その微笑みに、6年前のシュナの誘拐事件の時を思い出す。オリヴァーの絶対零度の微笑みと威圧を受け、冷や汗をかきながら東の隣国との交渉に当たった陛下と宰相は、その時随分生え際が後退し…げふん、げふん。


「で、その東の動向と息子達の婚約、どう繋がる?」


「シュナがさ、成長できないままの婚約者では公爵家に迷惑をかけるし申し訳ないって、解消を願ってきたんだ。

これに関しては、私はシュナの好きにさせたいと思っているよ」


いやいや、寧ろ婚約解消される事が1番の迷惑………いや、うむ………。


「それでギルバートは納得すると思うか?」

絶!対!に、納得せんと思うぞ。


言外に思いを込めて言葉を返す。


「あはは、納得しないだろうねぇ。アレはシュナ至上主義だから」


知っているなら尚のこと、婚約解消などと言わないでほしいが?

渋い顔になる私を、オリヴァーは眼を細めて眺めた。


「ギルバートはシュナが大事だから、鉄壁の守護だろ?今回は、それが少し困るんだ」

「と言うと?」

「私は東を潰したい。その為には取り敢えず、奴らに行動を起こして貰うしかないんだよ。

じゃないと、()()行動に移せない」


ゾワワっと鳥肌が立つ。

「何か?お前はシュナを囮に使うのか?」


「囮だなんて、嫌だな。まぁ、私が居るから、シュナに髪一本だって傷を付けさせる気はないけどね。

話は戻すけど。婚約解消をチラつかせて、ギルバートに少し動揺して貰いたいんだよ。そうしたら、少しはシュナの守りに隙ができると思わない?」


ね?って満面の笑みを浮かべるな!

「ギルバートに話をして協力させるのではダメなのか?」


「彼はまだ若いからねぇ。シュナが()()()()()()()()ってだけで、暴走しそうだ。

そうなると、6年前の二の舞だよ」

あの時。誘拐を知って即、東の隣国の一部を破壊し尽くした結果、一貴族の暴挙と判定され誘拐事件に関して強く出られなかった事が思い出される。


明晰な頭脳を持つオリヴァーらしくない失態だったと、今更ながらに思う。


ふ、と。

あの時のオリヴァーと共にブリザードを吹き荒らしながら暴れていた息子を思い出し、すんっと表情が抜ける。

アレが再び起こるのか…………。

どうするんだ。誰が止めるんだ、アレを!!





………………私か…………。



フっと嗤う。


「協力しよう」

私だって、自分の胃を大事にしたいからな!


「ふふ、持つべきは話が分かる友人だね。

まあ、メイソン、君にはそう苦労はかけないよ。

婚約解消の話は、シュナが自分で彼に話すと言っていたし、本人から言われた方が彼の衝撃も大きいだろう。

そして、その方が隙も出来やすいと思うしね。願わくばギルバートが復活する前に、東には事を起こして貰いたいもんだ」


「それで?事が解決したら、本気で婚約は解消する気なのか?」


「それはシュナ次第だね。だけど………」


ふと、オリヴァーは言葉を途切らせた。


「これを機に、シュナとギルバートの関係も変わるかもね」

オリヴァーの紫紺の瞳に不思議な光が灯る。

有り得ないとは思うが、時々彼には先見の力があるのではないか、と思ってしまう。


「…………そうか。ならば、私も静観することにしよう。だが!」


ビシッとオリヴァーを指差す。


「万が一にも彼奴が暴走したら、オリヴァー、お前が身体を張って止めろ」


王都を焦土にしない為には、使えるモノは使う。

オリヴァーは発案者だ。責任は取ってもらおう。


「了解した」

くつくつ笑いながらゆっくりと立ち上がり、

「だが、まぁ、そんなに心配しなくていいと思うよ」

と言葉を残して退室していった。



それから程なくして。

シュナの誘拐事件は起こり。全ては収まるべき所に収まる形で、終焉を迎えた。


その後の事後処理の精神的負荷で、陛下と宰相が盛大に頭髪を撒き散らかし、後退した生え際を嘆いていたのは別の話。



読んで頂きありがとうございます。

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