3.シュナリザーの周りの(苦労が絶えない)面々
最初の設定と、何か随分ズレてしまった、彼。
1)ダヤンの場合
魔術団のシュナリザー主任ことリザちゃんは、とてつもなく可愛い。
初めて見た時は、ビスクドール顔負けの美しさには然して興味はなく。
ただ、その身の内に秘める膨大な魔力と、それによる恩恵にのみ関心があった。
だけど、ちっこい形で何でも一生懸命に頑張るし、飲食を忘れて魔術の研究に没頭する姿は、正しく変態揃いの魔術団の一員と言っていい状態で。
あっと言う間に、リザちゃんは魔術団の愛玩動物的な地位を確立していった。
初めは礼儀に則り、『カルレイ侯爵令嬢』と呼んでいたが、団員の愛が溢れて収拾がつかなくなり、現在は『リザちゃん』呼びで固定されている。
ただこの呼び名は、彼女の婚約者であるギルバート・サウザリー様にバレると、面倒くさい事になるのは分かっている。
だから団員全員一致の意見で、魔術団の施設内でのみ『リザちゃん』と呼ぶ事にしていた。
そんな可愛いリザちゃんだが、彼女の婚約者はマジでヤバい。
彼は、リザちゃんをガラスケースに入れて大事に保管しておきたい、と願っているのが丸わかりなくらい大事にしている。要するに溺愛だ。
その行き過ぎた愛情の結果、俺を雇って魔術団内でのリザちゃんの情報を集めるに至っている。
愛が重いにも限度があんだろ。
まぁ俺もリザちゃんは大事だし?
幾ら雇い主と言っても、報告していい情報とそうで無いものはキッチリ吟味して、振り分けて対応させて貰っている。
今日も密かにリザちゃんを見守り、危ない事はないか注意を払っていた。
しかし、そうは言っても俺も魔術団の一員なので、急に仕事が振られる事がある。
その仕事を秒殺で片付け、リザちゃんを探した。
漸く探し出した彼女は、どっかの御令嬢達に絡まれている最中だった。
あの位だったら実害はないし、リザちゃんも自分で片を着けれる。
なので、廊下の角で気配を消して、そっと見守っていた。
案の定、さっくり御令嬢達に引導を渡し、リザちゃんはスタスタこちらに歩いて来た。
少しイライラしている様にみえるが、それも可愛い。
ふふっと笑い、角を曲がって初めて俺に気付いたリザちゃんに声をかける。
「シュナリザー主任、お疲れ様です」
途端に嫌そうな顔をして、容赦なく俺の脛を蹴飛ばしてくる。
「煩い」
ブスくれて、ぷっくり膨らんだ頬は思わず突きたくなる程愛らしい。
恐らく仕事が中断されて苛立っている彼女に、報告する事があった事を思い出す。
「噂のサウザリー家からのお迎えが来てますよ。何かお約束があったのでは?」
「ああ、もうそんな時間?仕事捗らなかったなー」
リザちゃんの嘆息。マジ、天使。可愛いーな〜。
うっかり美辞麗句で褒め称えそうになる自分を律していたが、その後のリザちゃんの爆弾発言に腰を抜かしそうになった。
ちょっと婚約解消してくるって、何だ!?
アイツの暑苦しい愛情に愛想が尽きたのか!?
いや、待て待て!
アイツに婚約解消を伝えて、それでリザちゃんは無事に帰って来れるのか?
監禁くらい軽くやらかしそうな、サウザリー公爵令息を思い浮かべて、思わず険しい顔になってしまった。
ヤバいな。
これは魔術団団員に情報提供して、リザちゃんを魔の手から守らないと!
本日の最重要事案勃発に、俺は踵を返して魔術団団長の部屋に急ぐのだった。
2)サウザリー公爵の場合
もともと私は仕事は卒なく熟すが、決して愛想が良いタイプではなく。私を嫌厭する貴族も、少なからず存在する。
正直、そんな小物を相手にする程の暇もないため、実害がなければ放置している。
……放置しているのだが。今日は流石に放置できない案件であり、絡んできた男を冷ややかに眺めた。
確か、北に領地を持つダングラー伯爵だったか。
「いや、カルレイ侯爵殿の御令嬢は、とうとう最終通告を受けた様ですな」
ニヤニヤと笑う顔の品の無さに、思わず眉間に皺が寄る。
「最終通告とは?」
淡々と返すと、ダングラー伯爵は我が意を得たりとばかりに話し始めた。
「神殿も、侯爵令嬢がこれ以上成長が出来ないと認めたそうではありませんか!
これを機に、ギルバート殿との婚約も解消しては如何ですかな?
丁度我が家には、ギルバート殿と変わらない年頃の娘がおります。我が娘ながら、中々の美人でして………」
唾を撒き散らかしながら話す男に、殺意が湧く。
シュナの優しさ、愛らしさ、天使の如き尊さを理解出来ぬ、貴族と称するのも烏滸がましい程の知能しか無いお前に、何が分かる!
いいかっ!!
大きな声で言えるものでは無いが。
ウチの息子はヤバ過ぎるんだぞ!!!!
今、シュナとの婚約を解消してみろ!
ギルバートは間違いなく暴走する!悲しいが、確信しかない!!
お前の北の領地が、永遠焦土と化しても思う事はないが。
王都で暴走してみろ、国が滅ぶわ!
彼奴は今でこそ騎士として王に仕えているが、シュナ程ではないにしても、魔力量は多いのだぞ!
何度、彼奴の子供の頃、制御しきれない魔力のせいで屋敷が半壊した事かっ。
成長して知恵が回る様になった分、更に質が悪い。
シュナを取り上げたら、確実に彼奴はヤる。
私も其れなりに政に関わり、無表情も板に付いていると自負している。
それでも息子の暴走を思うと、顔が引き攣り無表情を保つのが難しくなる。
「ダングラー伯爵、貴方の提案にはさして興味はありませんな。
そんな事より、大丈夫ですかな?話では随分北は納税が遅れているようだか?」
鼻で笑うと、ダングラー伯爵はやや怯み後ずさる。
小物は小物らしく、大人しくしていれば良いものを。
口を噤んでしまったヤツを捨て置き、私は歩き出した。
これからカルレイ侯爵との面会予定がある。
何となく想像がつく話に、痛む胃を押さえつつこれからの対策に頭を悩ませるのだった。
読んで頂きありがとうございました。
もしかしたら、その内後日談を書くかもしれません。
※5/18日間ランキングが34位になっていて、びっくりです。本当にありがとうございます。