17 綺羅星堂の日常(1)
高い建物が無い町は日当たりが良く、朝の日差しが木を突くキツツキのように容赦なくまぶたを焦がす。
目を覚ますと包帯で巻かれた頭を抱る。
ズキズキと響く痛みで、昨日の出来事が現実で、それを乗り越えたのだと改めて実感した。
太陽に目をならそうと窓へ足を運び、外の光を全身で受けて活力を充電。
目が太陽になれると、2階のロフトから町を一望できた。
砂を巻いた暴風のおかげで昨日の流星による火事は、広がることなくおさまり、市場の住人は焦げた木材をどかしたり、瓦礫の中から生活用品を掘り出して運んでいる。
中には、崩れて張りぼてのようなった家を、茫然と眺める家主であろう人物の姿もあった。
もっと早くに流星の被災地に来ていれば、被害は違ってたかもしれない。
自分の頭を撫でて寝癖を直しながら歩き、パジャマのまま階段で綺羅星堂の1階へ降りると、生意気なアトムと妹のウランが、また落書きして遊んでいた。
「見て見て! ニホお兄ちゃん。ガオー!」
「何これ?」
ウランの無邪気な笑顔は太陽よりも爛々《らんらん》としてる。
落書きのキャンパスにされていたのはヘルメット。
前面に鋭い目と牙を剥き出しにした口が描かれた怪獣の顔。
最初、お店の道具かと思ったけど、この冒険用のヘルメットに見覚えがあった。
「よく見たらこれ、僕のピスヘルメットじゃん!?」
「アルミお姉ちゃんの怪獣さんと一緒ぉ!」
無邪気なウランが言っているのは、アルミが着ているピンクのTシャツ。
目と口だけ描いた怪獣のイラストのことだ。
すると、
「コラ! あんた達イタズラすんじゃない!」
姉御に怒鳴られると、幼い兄妹達はピシャリと身体を止めた。
2階からピンクの生地に怪獣のイラストが散りばめられた、ワンピースのパジャマを着たアルミが降りてきた。
僕と同じく頭に包帯を巻き足や腕、首をミイラのように巻かれていて、昨日の痛々しが伝わる。
「アルミ……もう身体は大丈夫なの?」
「これくらい平気よ! こういう仕事をしていれば、こんなケガいつものことだから」
身体が投げ捨てられた人形のように吹き飛ぶのが、いつものことなのか……。
流星の災害が去った後、近くを通りかかった大人達が、重傷の僕らを病院に担ぎ込んでくれた。
僕を見てくれたお医者さんは、見た目だけ派手で大したケガじゃないからと、即日退院させられた。
一番重傷のアルミにいたっては、3、4日、安静にしてないとケガがぶり返すと注意され、病院で入院することを薦められたが、次いつ流星が降るか解らないから寝てられないと、彼女がゴネたんで無理矢理退院してきた。
やっぱり隕石の落下よりも、彼女のほうが怖いかも?
僕が言葉に詰まると、彼女は優しく微笑みながら言う。
「まさか、こんなに早く"ニホ"に守ってもらう日が来るなんてね?」
彼女は兄弟が増えたことを喜ぶ家族のように上機嫌だ。
ん? 待って、今なんて?
「アルミ? 今僕の名前を呼んだよね? いつもアンタとかコラって呼ぶのに」
「え? あぁー……」
彼女は耳を赤くして恥ずかしそうに目を反らした。
「名前で呼び合わないと、仕事やりづらいでしょ? あんたと私は相棒なんだから」
名前をちゃんと呼ばれるだけで、こんなに気持ちが嬉しくなるもんなんだ。
仲間として認められた。
それがはっきり解り胸がいっぱいになる。