16 HANAーBI
怖い!
怖くて目を閉じたい。
でも、ここで僕が目を閉じたら、僕もアルミも隕石で死んじゃうかもしれない。
町の人だって家やお店が壊されて生活に困る。
その家に暮らす、お父さんお母さんが隕石にあたって死んじゃったら、家族の子供は1人で生きていくかもしれない。
だから――――僕は目をつむれない。
絶対に、隕石を打ち返さないといけないんだ!
自分に言い聞かせるように、数を数えてながらハンマーを動かす。
「1!」
狙い定めて腕を振り出す。
「2!」
隕石へ当てに行く。
「3!」
振り上げて、かっ飛ばす!
両手で握るハンマーは振ると、鉄球が地面スレスレをかすめる。
ハンマーの重さに身体が振り回されそうだけど、足で踏ん張り腰の力で振り回される力を抑え込む。
そこへ、落下する隕石が飛んで来た。
狙いどおり鉄球は隕石を、まるで編みでさらうように当たった。
目の前に燃え盛る隕石が飛び込む。
顔や腕、手が火傷しそうな程の熱さを感じる。
こんなに近いと、まる焼けにされそうだ。
でも炎の熱さで焼かれる前に、ハンマーを振りかぶった勢いで、隕石を空へ押し上げる。
「う、打ち返せた……」
彼方へ飛んで行く岩石を見ると、身体から力が吸い取られて行くように抜けた。
膝が曲がって尻もちをつくと、もともとお尻と地面がくっついていたかのように、離れなくなった。
力が抜けて開いた手から、ハンマーが転がり落ちる。
呆然としていると、頭上で破裂音がし、また落下物が迫りくると思い、身体が緊張して立ち上がる。
ハンマーを持っていないのに、打ち返す構えをした。
そこで目に飛び込む光景は――――眩いばかりの花火。
打ち返した隕石が流星に当たり、ピンボールのように次々と、落ちる前の岩石を弾き飛ばす。
弾き飛ばされた岩石達は、溜め込んだエネルギーが破裂したのか、その場で火花を散らし爆発。
まるで、夜空に咲いた一面の光る花畑となった。
その綺麗な光景に見とれ心を奪われると、自然と危機が去ったのだと感じた。
眩い光に当てられて、気絶したアルミが目を覚ます。
僕達3人は姉御肌の彼女へ寄り添い、無事を確かめる。
アトムとウランが一緒に喋るので、何を言っているのかごちゃごちゃした。
「アルミィ!? 花火だ! 見てよ!」「アルミお姉ちゃん! 起きて起きて! 花火花火!」
「もぉ……ごちゃごちゃうるさい……」
アルミは横たわったまま、気だるそうに顔を背けて、幼い兄妹のわめき声を聞かないようにした。
そして彼女も、夜空を照らす流星の花畑を見て、弱々しいけど安らいだような笑顔を見せた。
けど幼児のウランには、重傷の人間に気を使うことなんて出来ない。
まだ起き上がるのが無理な相手に、構わず話かける。
「すごいの! お兄ちゃんが星を打ち返したんだよ!」
それを聞いたアルミは目線だけ僕に合わせて、呟くように一言。
「……やるじゃん」
流星打ちとして未熟な今の僕には、その言葉を聞けるだけで嬉しかった。
ここまで叱られてばかりだったからか、涙と笑いが同時に出てきて感情が渋滞しているような気分になる。
感情の涙と一緒に溢れでる鼻水をすすると、喉に詰まってむせかえる。
そんな僕へ、小さなウランが駆け寄って来た。
「お兄ちゃん!」
「どうしたの?」
「あのね……」
言いたいことはわかるよ。
お礼の言葉は、こんなに小さな3歳くらいの女子から貰っても嬉しい。
「ちぃ!」
「ちぃ?」
な、何?
舌打ち、て訳でもなさそうだけど、この町だけの特別なお礼かな?
ウランは子猫のようなまん丸の手で、僕の頭を指差す。
それでやっと気付いた。
おでこから生暖くベットリとした汗が垂れて来た。
手の平で拭って、垂れて来たものを確認する。
僕の手はペンキが付いたように汚れていた。
すぐ後に、自分の頭から赤い噴水が涌き出る。
ピスヘルメットで落下する隕石を防いでいたと思っていたけど、その衝撃はヘルメットごしに伝わっていたようで、ダメージにラグがあったみたいだ
「ち、ちち、血ぃぃぃぃぃいいいいい!!?」
驚きと痛さのあまり、僕は気を失い倒れた。