11 大火のオリオン座7番街
流星が止んで煙に覆われた空が晴れると、日は落ちて薄暗くなる。
砂ボコリの町は夕焼けに照らされ、オレンジ色に染まった。
もう降らないとわかると、じゃじゃ馬アルミはブブゼラを鳴らして、町に安全という吉報を知らせた。
一仕事終えたアルミは伸びをして一言。
「あーあ、帰る頃には夜ね。ニホ? 店に戻ったら晩御飯の支度。よろしくね」
正直、隕石から逃げ回り、流星打ちの先輩に怒鳴られヘトヘト。
ご飯の支度をするような元気はなかったけど、ここは――――。
「はい」て、言うしかない。
ため息をつきながら、綺羅星堂があるオリオン座街の方角を見ると、異変に気付く。
遠くにある町の中心の空は、コップのオレンジジュースが沈んで、その上に青いジュースが浮いたように2層に分かれてた。
青いジュースが爪で引っかいたように光の線が入る。
「アルミ。予報じゃ、今日はもう降らないんだよね?」
「そうよ」
「降ってるよ?」
「そんなわけ――――あっ!?」
論より証拠とは言うけど、信用してなかったアルミも、綺羅星堂の方角を見て納得。
慌ててポーチから”ブースター”の効果を持つ、赤いガラ玉を取り出しながら愚痴を言う。
「もう! また流星予報がハズレた」
「予報ってハズレるの?」
「天気予報がハズレるんだから、ハズれるわよ!」
「そんなのあり?」
「落下する隕石が空の気流に流されて、落ちる場所が予想とズレる時があるのよ。ぼやぼやしてないで戻るよ!」
アルミは僕の方に赤いガラ玉を放った。
貰ったガラ玉が、おでこに当たり跳ね返ると地面に落ちた。
アルミが先に落ちたガラ玉をハンマーで砕いてロケットスタート。
置いて行かれないように僕も、慌てて落ちたガラ玉をハンマーの鉄球で砕くと、火を吹きながら飛び跳ねるハンマーにしがみつく。
***
ゾディアック・ストリート・オリオン座7番街。
町の端から中心地へ戻る頃には、もう夜になっていた。
だが、街灯よりも遥かに明るい炎が、夜空から照らし町を赤々と染め上げる。
市場を逃げ惑う町の人々の悲鳴が、あちらこちらから聞こえ夜空にこだましていた。
積み木の家へボールを投げつけるように、煙を巻いた隕石が家や建物を壊してアドベ煉瓦を吹き飛ばす。
崩れた建物は、隕石から吹き出す吐息のような炎で引火。
オレンジ色のプラズマが揺らめいて燃え上がる。
多分、地獄の大魔王が空から降りて来る時、こんなふうに世界は赤と灰色でグチャグチャになって、あっちこっちに瓦礫の山ができるのかもしれない。
綺羅星堂に着くとさっそく流星の洗礼を受けていた。
「あぁ!? お店が!」
僕の頭の中で、隕石に当たって粉々に砕け散る、綺羅星堂が浮かぶ。
でも予想だにしない結果が起きた。
弾丸のように降り注ぐ流星を、綺羅星堂の壁は雨を弾くように寄せ付けなかった。
「隕石を弾いた!?」
「あのエメラルドグリーンの塗装には、隕石を弾く鉱物が混ぜられてるのよ」
「虫除けじゃなかったの?」
「虫だって来ないわよ。でもあまり流星に当たり続けると、店の壁も保たないわ」
アルミはお店の無事がわかっていたからか、はなっから目的が違った。
燃え盛る街を見回す彼女は、その目的を見つけて目を見開く。
燃え上がるバザールの中を走る人影。
小さい身体の子供が、自分よりも小さい子の手を引いて、火事の中を必死で逃げていた。
それを見たアルミの顔が青ざめる。
「アトム! ウラン!」
流星の勢いが早く、町のあちらこちらで破砕する音が、じゃじゃ馬アルミの声をかき消した。
生意気なアトムもひな鳥のようなウランも、こっちに気付かないまま走り去って行った。
アルミは後を追って駆け出す。
「もう! いつもどこへ行っちゃうのよ?」
「わわ、待ってよアルミ!」
こんな火事の中、置いてけぼりにされたら、どうすればいいの解らない。
今はじゃじゃ馬娘に付いていくしかない。