催眠科学
「君には良くないし、もったいないよ」
誰かが証明していく。
世界の秘密、世界の構造。
スパ~~~
人を始めとした生物も、心ないとされる機械も、または未だに知らない何かに。
この世の全てはゆっくりと解かれていくのである。
「すかねぇな」
「”科学的な証明”って奴なんだけどね、光一」
タバコで一服中の中年ヤクザ男の山寺光一に、当然とした事を先ほど告げた、少年と言っていいほど、あどけなさと初々しい可愛さを持った外見をする、”人類の英知の結晶”の科学ロボット。ラブ・スプリングは喫煙について語った。
「肺がんになりやすいし、体力低下に繫がるよ」
「吸いたい時に吸う。飲みたい時に飲む。ま、俺のやり方。若いの最近、こーいうのしねぇからな」
「……ま、光一はヘビースモーカーってわけじゃないよね。一日に1本ぐらいで」
「気分にするだけだ。値段上げやがって」
自分の財布にも、他人にも迷惑なことくらい分かっている。ここは喫煙所でもなく、普通にラブ・スプリングのお部屋。
「面白い話、聞いたんだが。ラブ・スプリングよ」
「なに?僕の部屋に来て、速攻タバコを吸ったのにはその前振り?」
最近の技術進歩は確かに目を張るものである。日に日に進歩を遂げて、人類に与えている影響力は全てにあると言えるだろう。
「”誰かの想いはどこに繫がっている”という、世界の構造があるという前提で」
人類の全てがそれを共有する事も、知る事もない。
「”世界にいる奴等が信じれば繫がる”って、話しになるのは不思議な事じゃねぇよな?正義が正義を塗り替える社会的な事が、今や科学的な分野にまで及んでいると、俺は想像してるんだが?」
「…………難しい言葉使わないで」
「お前、俺より頭良いだろう。誤魔化せんぞ」
ストレートに言って
「科学の正しさの中に不正を突っ込んで、世界に影響を与えてんじゃねぇだろうなって事」
「それの何が悪いんだって……言ったら、君達人間の限界値を決めるなって事だろうなって、返し?」
「だな。事実は事実で良いんだがよ、実験体の検証1つで決まるもんじゃねぇだろ。世界に広まったせいで、もう変わらないものもある」
光一は壁に右手を翳して、ゆっくりとその手を下に降ろされていく。そこにある確かな壁が手の形に合わせて、握られ抉られ、消滅していく。
人間技を超えているとされる、一般動作にある。1人の人間が到達している事実もある。
光一だからできること。だと、多くが片付けられることなのかもしれない。
「1つずつ俺は検証する気、ねぇが。俺は俺なりにお前の範囲を決めさせてもらうぞ」
「あ~……怖いなぁ。鵜飼組からスカウトした方が良いって、我が国にとって良好と科学的結果が出てたけど。反旗を翻す可能性はなかったな。今は、違うのかな?」
ゆっくりとであるが、その数が非常に膨大であるが故。世界の多くにある”科学的に証明された事実”が、ラブ・スプリングの力となっているのは事実。彼にそれらの人間が到達し知ったとされる事実が、実現できる異能なる力を持ち合わせる。アメリカ最強の守護神にして、事実上の支配者の名に恥じない。
しかし、そんな今ある社会的で世界的な常識がまるで通じない、”超人”とされる人間の姿をした、新生物と言うべき、人間達も生きている。止まらない生物の進化の影響を受ける存在。
「やがて人間を僕達、ロボットが飼う。催眠科学とでも言うべき事が広まろうというのに、君達は強いねぇ」
「はははは、面白いなぁ。俺は肯定もするし、否定もするからよ。黙々と、従う信じる雑草共と違うぞ。その言葉が嘘っぱちで事実って判断もする」
その言葉を。
人間にとっては、遥か昔に忘れられた生物の生き残りを争った語り草を彷彿させるものの。意識は薄い。
共存という優しくも、薄く黒く残る影がいるもの。
許す人、許さない人。
ロボットを代表として、ラブ・スプリングが掲げたい事は今。
「付いて来てくれる?光一。君が死ぬまで、僕が終わるまで」
「そーいう覚悟なきゃ、お前のとこにいねぇよ。俺に護りたい者がありゃ、お前が護ってるもんもある」
まだまだ先の事だろう。人間という徐々に、その生命活動期間を延ばす中。
絶え間なく進歩を遂げ、追い抜き引き離していく最新技術の結晶。
心無いだなんて、決め付けられた人間の多くいる中。真正面から矛盾し、ラブ・スプリングに造られた感情は悲鳴を挙げている、不思議。光一という護るだの言葉の奥に、純粋な戦闘本能がある理由が羨ましいものだ。
「よー、は。バランスだ。根本が一致してるから協力するし、ダーリヤ達と敵対する事も構わねぇ。近いだろ?世界全土で起こる戦争。俺が生きてる内に答え出して、やんだろ?」
「……そーだね。きっと待っているだけじゃなく、仕掛ける側になるかも。嫌だなぁ。人からもらって、教えてもらい、信じてもらって」
まだまだ生まれていく、これからの人達の命。
壊さなきゃいけないのって、辛いよ。