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第8話 一郎のショックと尚子の覚悟

 


 殺到する野次馬と消防車でキャンパス内は大混乱していた。火に向って集まる人の波をかき分けて一郎と尚子はキャンパスの外に出た。


「とりあえず、静かな所に行きましょう。」


 尚子に引っ張られ、一郎は走った。10分も走ると駅に着いた。駅でも遠くに見える火の手に騒然としていたが、尚子と一郎は構わずに一軒のカフェに入った。カウンターでそれぞれ飲み物を買い席に着いた。


「どう?少しは落ち着いた?」


 アイスコーヒーをストローで飲みながら尚子が聞いてきた。


「うん。」


 これまたアイスコーヒーを、ストローを使わずにがぶ飲みした一郎が答えた。


「それで何から話そうかしら?」


 一郎の話したいことは一つしかない。


「尚子さんは平気なんですか?」


「嫌だなあ。さん付けなんて他人行儀はやめて、タメグチで行こうよ。わたしたちは同志なんだから。」


「じゃ、じゃあ、尚子は平気なの?」


「何が?」


「オレらが間接的とは言え、殺人をしたこと。」


「うん。わたしは一郎と違って、ずっと前から知ってたからね。もう、決心はついてるよ。いつか、こういう事もあると覚悟していたよ。」


「覚悟って、殺すって事は殺されるかもしれないんだよ。魔族のゲランと尚子はオレとアリサに殺されてたかもしれないんだよ。」


「だから、それも含めての覚悟ね。」


「尚子は強いね。」


「強くないよ。何日も眠れない夜を過ごしてやっと最近吹っ切れたんだから。」


 それでも、強い女だと一郎は思った。


 しばらくの沈黙の後。


「あと、ゲランは魔族だから魔物が暴れても無関心だから、そんなに戦闘をする事もないしね。」


「じゃあ、なんで、今日助けてくれたの?」


「それは、わたしが助けたかったからよ。」


「あ、ありがとう。」


 一郎は少し照れた。照れつつなおも質問を繰り返す。


「じゃあ、魔物が死ぬのは魔族としてどうなの?」


「うん。ゲランに聞いたけど、別にどうってことないって。まあ、飼ってる動物が死ぬ程度の事だって。」


「ふーん。魔族と魔物って密接な関係があるかと思ってたら違うんだね。」


「魔族は人間でモンスターじゃないからね。」


「じゃあ、尚子とゲランはオレ達の味方なの、敵なの?」


「うーん。今のところゲランはアリサにどうこうしようとは思ってないわ。わたし自身は一郎の味方よ。よーするにわたし達は中立な立場ね。魔物が暴れても退治はしないけど、一郎のピンチには助けるって事よ。」


「じゃあ、魔物じゃなくて魔族に取りつかれた者が暴れてたらどうするの?」


「うーん。基本的に無視ね。ていうか、一郎は魔族を暴れるだけの魔物と一緒に見ていない?何度も言ってるけど、魔族は高い知性を持った人間なのよ。むやみに暴れたりしないわよ。人間社会の深部に目立たずに入り込んでひっそりと生活しているわよ。わたし達みたいに。」


「ああ。ごめん。ごめん。ついイメージで言っちゃった。ゲームの世界でも魔族イコール悪って洗脳されてるからね。」


「ゲランに言わせると人族の方がよっぽど悪よ。大人しく暮らしていた魔族の国にいきなり侵攻してくるんだから。勇者なんて悪の親玉よ。」


 たしかにそうだよな。戦争でもどっちかが一方的に悪って事はないよな。どっちにも言い分はあるよなと、考えを改める一郎であった。お互いの携帯とラインの情報を交換すると今日は別れた。憧れの尚子の携帯とラインの情報を得て、絶望の淵にいた一郎の心が少しだけ救われた。


 尚子と別れた後、一郎はなんとか無事に家に帰りつく事ができた。尚子がいなかったら思い余って自殺したか、アリサとの契約を破棄したかもしれない。それくらい一郎のショックは大きかった。尚子に感謝する一郎であった。



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