第7話 VSレッドオーガ
こちらに向かって来るレッドオーガはまさに赤鬼だった。全身から発する熱気で皮膚は赤く燃え、周りの景色が歪んで見えた。まさに火のオーラを発していた。その姿に一郎は恐怖を覚えた。近づかれただけで、普通の人間の一郎は焼け死んでしまうだろう。
「アリサ。こんな化け物に触られたらオレ、死んじゃうよ。」
思わずアリサに助けを求めた。
「大丈夫。こちらも結界を張るから。ウオーターシールド!」
アリサがそう叫ぶや一郎に水の壁の結界が張られた。水はどんどん蒸発して一郎の周りを水蒸気の白煙が覆った。
「アリサ。何にも見えねえよ。」
「あー。もううるさいわね。とりあえず火とか大丈夫だからそこで大人しくしてて。」
そう言うとアリサは剣を構えて走り出した。アリサの上段斬りをレッドオーガが手に持った金棒で受けた。レッドオーガはその巨体に似合わず機敏な動きができた。そして力はアリサよりもはるかに上だった。つばぜり合いをしていたアリサを吹っ飛ばした。吹っ飛んで転がってくるアリサが白煙に囲まれた一郎にも見えた。
「アリサ。大丈夫か?」
一郎が心配して声をかけた。
しかし、アリサにはその声に答える余裕は無かった。なぜなら転がったアリサに追撃のファイアーボールが雨あられのように飛んできたからであった。必死に転がってアリサはファイアーボールを避けた。しかし避け続ける事は難しく何発か被弾してしまった。その衝撃は一郎にも伝わった。
「ぐあー!」
一郎が悲鳴をあげる。どうやら一心同体いや二心同体の一郎とアリサはどちらが攻撃を受けても両方にダメージが来るようだった。一郎とアリサ両人が火のダメージに苦しんでいると、突然声がかけられる。
「おやおや。大丈夫かい?助太刀しようか?」
一郎たちを追いかけていたゲランと尚子が現れた。
「「助太刀無用!」」
アリサと一郎が同時に答えた。
「そんな事言ってていいの一郎。もう一匹レッドオーガが現れたよ。あ、もう一匹。」
今度は尚子が忠告した。
「「え?」」
サークル棟にいたレッドオーガは一匹だけではなかった。合計三匹のレッドオーガが炎の中から現れた。
「そこに倒れている本体の人間を攻撃しろ。そうすれば簡単に倒せるぞ。」
ゲランが言った。
「そんな事したら、取りつかれた人間も死んじゃうよ。」
雨あられと飛んでくる。ファイアーボールをかわしながらアリサが答えた。
『助太刀もいらない。人間も攻撃しないじゃ、八方ふさがりじゃないか。どうするんだよ?』
一郎が心の中でアリサに聞いた。
『大丈夫。大丈夫。さっきの一郎を見てていい方法を思いついたわ。』
アリサが心の中で答えた。
「これはライバルのゲランには見せたくなかったんだけど、しかたないわ。」
アリサはゲランにも聞こえるように大声で叫ぶと走り出した。
そして魔法を発動した。
「ウオーターボール!」
「そんな魔法が当たる物か!」
ゲランが叫んだようにウオーターボールはレッドオーガにさけられた。しかし、アリサの狙ったのはレッドオーガではなかった。大きな水の球がレッドオーガ達の足元で破裂した。はじけ飛んだ水がシャワーのようにレッドオーガ達に降り注いだ。
「そして突きー!」
水が蒸発して白煙になる前にアリサは縮地で距離を詰めていた。水蒸気で目がくらんだレッドオーガはアリサの突きをまともに喉に受けた。いわゆるクリティカルヒットであった。アリサは突いた剣を素早く横にはらった。二匹目のレッドオーガも切り伏せられた。しかし、目の見えない三匹目が金棒をめちゃくちゃに振り回して襲って来た。アリサは転がってそれをかろうじて避けた。このままでは金棒で殴り殺されると思った時に、レッドオーガは崩れるように倒れた。縮地で距離を詰めたゲランが一刀両断に切り伏せていた。
「ゲラン。」
アリサが呼び掛けた。
「アリサがカッコつけてて、一郎に死なれたら、尚子が悲しむからよ。」
ゲランが渋く決めた。
ゲランのカッコよさにしびれていた一郎があることに気づいた。
「ちょっと待て。死ぬのはアリサだろ?なんでオレが死ぬんだ?」
「え?この事も一郎は知らなかったの。異世界人を憑依したわたし達は異世界人と二心同体だから、異世界人が死んだら死んでしまうのよ。」
尚子が答えた。いつの間にか一郎の事を呼び捨てにしていた。いや、そんな事は些細な事だった。
「じゃあ、あの倒れている男達も駅前の男もみんな死んじまったのか?オレが間接的に殺したって事か?う、うわー・・・」
一郎が頭をかかえてうずくまる。
バシッ!
うずくまった一郎を抱き起した尚子がその頬を平手で打った。
「しっかりしなさい。田中一郎。そして覚悟しなさい。誰かがやらないと奴らは無差別に殺人を繰り返すのよ。弱いオーガなら人間でも倒せるけど、レッドオーガみたいな憑依者に関係なく暴れる魔物はわたし達にしか倒せないのよ。」
レッドオーガは普通の人には見えてなかった、だからその攻撃はただの爆発が起きてるようにしか見えなかったわけだ。
「尚子さん・・・」
力なくうなずく一郎。
火が大きくなり人も集まり始めた。尚子は一郎の手を取る。
「逃げるよ。一郎!」
一郎は尚子に引っ張られる形で走りだした。
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