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第6話 赤鬼

 


 翌日、一郎は社会学の講義を受けるために大教室の後ろの方に座っていた。この講義は出席を取らないために学生に人気があった。人気があっても出席を取らないから出席者はあまりいなかったが。おい!一郎は真面目人間ではなかったが、この講義は面白いのでかかさずに出席していた。一郎が一人で座っていたのはボッチだからというわけでなくて、一郎の数少ない友達は、講義よりも人生には大切な事があるために、欠席していた。要するにさぼっていたからだ。そんなわけで一郎が大教室に一人で座っていると、後ろの席から突然声をかけられた。


「田中一郎君。昨日はどうしたの?」


 一郎はぎくりとして振り返る。


「あ、玲子さん。こんにちは。」


「こんにちは。それでどうしたの?」


「あの、実は突然の腹痛で我慢ができなくてトイレに行ったもんだから。」


 一郎は咄嗟に苦しい言い訳を言った。


「ふーん。田中君はトイレに行くのに、わざわざ女の人と行くんだ?」


 玲子の隣に座っていた玲子の友達の由美が話に割り込んできた。


「女の人?」


「とぼけてもだめよ。尚子と仲良くお茶しているのを見たんだから。」


「え!あれは、その・・・」


 しどろもどろの一郎に由美がたたみかける。


「あんた。クラス一の美女(玲子)を振って、玲子のライバルの尚子とお茶するなんて何様なの?いい気になってんじゃないわよ!」


『まずい。人生最大のピーンチ。』


 一郎が冷や汗をかいて必死に言い訳を考えていると、突然もう一つの心の声が聞こえてくる。

『ここは平謝りしかないわよ。へんな言い訳は傷を広げるだけよ。』


『誰のせいで追いつめられてると思ってんだ。この悪霊め。しかしアリサの言う通りかもな。』


「ごめんなさい。尚子さんに大事な話があったので玲子さんをないがしろにしてしまいました。」


 心の中でアリサとデスカッション?をした一郎は謝った。


「大事な話って何よ?」


 由美が訝し気に聞いた。


「それは言えません。」


「言えないって、クラス一の美女をおっぽり出すくらいだから、よーっぽど大事な話だったんでしょうね。」


 嫌味たっぷりに由美が言う。


「まあ。まあ。由美。一郎君も謝ってくれたから、もういいよ。今度は本当にお茶してよ。」


 玲子が最初の言葉を由美に、後の言葉を一郎に言った。


「まあ。玲子が良いって言うならいいわ。以後気をつけるように。」


「はい。申し訳ありませんでした。」


 一郎は再び謝った。


 ちょうどその時に教授が入ってきたので、一郎は前を向いて座りなおした。


『おい。色男。玲子はあんたに関心を持ってるぞ。』


 一郎の頭の中でアリサの声がした。


『そうかな?』


『気が無かったら、また誘ってなんて言わないぞ。あんな目にあわされたのに。』


『あんな目にあわせたのは、アリサ。お前だけどな。でも、そうなんだ。よかった。』


 一郎はうきうきで講義を受けた。もちろん講義が終わったら玲子を誘おうと思っていた。


 それなのに講義が終わるや否や、一郎は鞄に教科書を詰め込むと速攻で教室を出ていった。


「なんか、逃げるように去って行ったけど。」


 後に残った由美が玲子に言った。


「あー。尚子だ。」


 出入り口を見ていた玲子が言った。玲子が言うように、玲子達に気づかれず大教室にいた尚子が一郎の後を追うように大教室を出て行くところだった。


「何なん?あの二人。本当に付き合ってるんじゃないの?」


 由美がため息交じりに言った。


「よし。決めた。わたし。一郎の彼女になるわ。」


 突然玲子が恋の宣言をした。


「え?玲子?」


 もともと一郎に対して心憎からず思っていた玲子だったが、ライバルの尚子に対する対抗心からか一郎をモノにすると言い出した。玲子は障害のある恋に燃えるタイプだったのだ。ライバルの尚子を負かして一郎をモノにすれば玲子は至高の満足感を得られるというわけである。


 一方で、突然のモテ期が来たことを知るよしもない一郎はサークル棟の方へと急いでいた。


『なんだよ。突然。せっかく玲子さん達をお茶に誘おうと思ってたのに。』


 一郎は心の中でもう一人の人格であるアリサに言った。危ない人のように独り言を言ってるわけじゃない。昨日のように突然体をアリサに乗っ取られたからである。


『あっちの建物に魔物の反応があるわ。』


『あっちの建物ってサークル棟か?』


『サークル棟って言うの。そこよ。』


『で、今度はなんだ?また魔人か?』


『いや。ゲランの時みたいに魔力をそんなに感じないから、そこまで上位の魔物じゃないわ。』


『じゃあ。安心だな。』


『いえ。上位の魔物だとそれなりに理性もあってこちらの世界にうまく溶け込んでると思うけど、下位の魔物だと人間の心を乗っ取ってまた見境もなく暴れまわるよ。』


『オーガタイプか。』


『オーガは魔法を使えないから良かったけど、魔法を使える魔物だったら、さらに大惨事になるわよ。』


『そうか。気を引き締めんとな。』


 一郎がサークル棟に着くとサークル棟が燃えていた。火はサークルの一室から出て他の部屋に燃え移ろうとしていた。学生たちが消火器で火を消そうとしていたが、火の勢いが強く消えなかった。


『ウオターシュート!』


 アリサが魔法で火を消しにかかった。アリサの魔法で火の勢いが弱まると、部屋の中には気絶した学生と鬼がいた。もちろんアリサと鬼の姿が見えているのは一郎だけであった。


『赤鬼?』


『そう。レッドオーガよ。こりゃまた、厄介な物が出てきたわ。』


 一郎の疑問にアリサが答えた。


『レッドオーガはどいつに取りついてんだ?』


『そこに倒れている男についてるみたいね。』


『その男が死んじゃったらレッドオーガも消滅するんじゃないか?』


『うん。死なないように結界を張って火から守ってるわね。それより、来たわ。』


 レッドオーガが燃える部屋を出てこちらに向って来た。



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