第5話 VSゲラン
ズキューン!
二人のスタン〇、いや異世界人が剣を構えて向かい合う。一郎の出した〇タンドは美少女剣士であったのに対して尚子の方は渋い中年の親父剣士であった。その親父も美少女と同じように革の鎧のような物を装備していた。そして魔人と言えどもその姿かたちは人間と変わらなかった。ただ少し違っているのは額に生えた小さな二本の角だけだった。町中で剣を構えてにらみ合う中年オヤジと少女。ほとんど通報物であるが、幸か不幸か二人の姿は一般の人には見えなかった。
「名前も知らずにいきなり切り合うのも寂しいな。お互いに名乗り合おうではないか。わたしの名前はゲラン。わけあってここにいる尚子の眷属になった。以後よろしくなお嬢ちゃん。」
中年魔人が名のった。魔人というからどんなに恐ろしい化け物かと想像していたが、思ったよりも紳士じゃないかと一郎は思った。しかし、漫画やドラマでも真に恐ろしいやつは礼儀正しい事を思い出して身震いした。
「ふん。魔族になんか名のる名前はないわって言いたい所だけど、名のられて名のらないのも失礼ね。わたしはアリサ。ここにいる一郎の手下でも奴隷でもないわ。友達よ。家族よ。」
続いて美少女剣士の方も名のった。美少女に友達だの家族だのって言われて一郎は少しうれしくなった。
「なんだと。なら、こっちは親子だ。」
「なら、こっちは恋人ね。」
なんか変な張り合いが始まった。アリサもそうだが異世界人って言うのは意地っ張りのお調子者なんじゃないかと一郎は思った。そう思うと目の前の魔人に少し親しみを覚えた。ただの殺戮者じゃなくて、ちょっとかわったおじさんに思えた。
そのちょっとかわったおじさんが咳払いをして場を仕切りなおす。
「まあ。とにかくなんだ。正々堂々と死合おうじゃないか勇者いちみの一人よ。」
今非常に気になる事を言ったぞ。勇者?ていう事は変な魔法を使った魔王って言うのは、RPGとかのラスボスの魔王で、ダンジョンって言うのもラストダンジョンの魔王の居城じゃないのかと一郎は思い驚愕した。
「そうよ。わたしが勇者パーティの切込み隊長アリサ様よ。さあ、かかっていらっしゃい。」
「ふん。魔王親衛隊隊長のオレの剣を受けれるかな。小娘。」
言うなりゲランはあっという間に間合いを詰めた。いわゆる縮地というやつだろうか。ゲランの動きに付いていけないアリサは一刀のもとに切り伏せられた。いや、切り伏せられたかのように見えた。こちらも残像を残して縮地で移動していた。アリサはさらに縮地を使いゲランに切りかかった。ゲランは剣で受け止めた。もはや、一郎も尚子も二人の戦いを目で追う事は出来なくなっていた。剣と剣がぶつかる音だけが聞こえた。
「さすが勇者ご一行様だ。やるじゃねえか。じゃあ、これはどうだ?」
距離を取って動きを止めたゲランが手の平から炎の球を出した。
「ウオーターシールド!」
アリサは水のバリアを張った。バリアのおかげでアリサは無傷だったがアリサの背後のビルの壁面が轟音を立てて爆発して大きなひびが入った。異世界人二人の姿は見えないが、あろうことか、その攻撃はこの世の物を破壊することができた。
このままでは一郎と尚子は爆弾犯として通報されるだろう。そう思ったのは一郎だけでなくて尚子も一緒だった。
「ゲラン。おやめなさい。一郎君逃げるよ。」
尚子は最初の言葉をゲランに言い、後の言葉を一郎に言って、一郎の手を握って走り出した。意外にもゲランとアリサの二人は戦闘を止めて付いてきた。
一郎と尚子が人気のない路地裏に駆け込むと尚子の説教が始まった。
「ゲラン。あんた。町中で魔法を使ったらどうなるかわかってるでしょ。あんたとの契約を打ち切るよ。」
意外にも魔人であるゲランが尚子の説教を小さくなって聞いていた。いや、それよりも注目すべきは契約と言う言葉だった。
「契約って何?」
一郎は聞いた。
「へ?一郎君はアリサと従魔の契約しなかったの?」
「いや。契約も何も、いきなり合体されたから、オレは。おい。説明しろ!」
一郎は最初の言葉を尚子に言い、後の言葉をアリサに怒鳴って言った。
「いや。あの。一郎が絶体絶命のピンチだったからそんな暇はないと思って。」
これではどちらが魔族かわからなかった。魔族の方がいい人じゃないかと一郎は思った。
「そんな暇なくても、後で説明ぐらいできるだろう?本当にどっちが魔族だかわからんな。」
「いや。わたし達の関係に説明はいらないかなあと思って。」
「ふん。まあこの話は置いといて。尚子さん。契約は解除できるんですよね?」
「ええ。そうよ。別れたいと強く願えば解除できるわ。でも、そうしたら、解除された異世界人は消滅してしまうから、わたしは絶対にしないけど。」
「尚子。」
ゲランが感極まって泣き出した。ゲランは案外良いやつかもしれない。
「まあ。そんな事を聞いたらオレも契約解除なんてできないけど。」
「一郎。」
アリサまで泣き出した。
「ところで、おまえら決闘はどうするんだよ?」
一郎がアリサとゲランに聞いた。
「しらけちゃったし、殺し合いするほど憎んでいるわけじゃないし、今日の所はもういいかな。」
ゲランが答えた。それに対してアリサも答えた。
「わたしも悪さしないなら、魔人は退治しないわ。」
「何が退治だ。尚子さんの話を聞いてたらお前の方が魔人に思えてきたぞ。」
一郎がそう言うとゲランが抗議をする。
「さっきから黙って聞いてたらなんだ。われら誇り高き魔人は卑怯な事はしないぞ。訂正しろ。」
「悪かった。すみません。」
ゲランのあまりの勢いに一郎が謝った。
「まあ。謝るなら許してやろう。」
ゲランが一郎を許した。それを見た尚子が異世界人の二人も仲直りさせる。
「さあ。二人も握手して仲直りして。対立してたのは前世の事でしょ。こっちじゃ関係ないじゃない。」
尚子が異世界人の二人に握手をさせた。
そして四人?は今後の事を話し合うために近くの喫茶店に入った。一郎は憧れの君の尚子と喫茶店に行けて幸福の絶頂であった。一郎のクラスのツートップである尚子は目立つ。それが男を連れているんだから喫茶店の客の注目を浴びるのは当然だった。その注目している客の中に玲子の親友がいて、次の日に玲子に報告するのも知らず、一郎は浮かれていた。
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