第4話 何様
「今日はこの後、オレ、講義が無いんだけど。さっそく喫茶店に行く?」
英語の講義が終わった後にオレは勇気を振り絞って、レポートを写させてくれた玲子をお礼に誘った。
『えー。この後もう一つ講義があるじゃない。いいの?』
オレのもう一つの人格?のアリサが聞いてくる。
『いいんだよ。どうせ出席取らないんだから。』
『あー。いけないんだー。』
『うるせえよ。人生には大学の講義よりも大切な事があるんだよ。』
「どうしたの?なんかぼーっとしてたけど。わたしも無いからオッケーよ。」
玲子がさわやかに答えた。玲子にも講義があったが大学の講義よりも・・・
『やったな。色男。頑張れよ。』
「うん。頑張る。」
『しまった。声に出してしまった。』
「え?何を頑張るの?」
玲子が訝し気に言った。
「いや。玲子さんとのデートをね。」
「えー。デートを頑張るってそんな大げさな。レポートのお礼にただ一緒にコーヒー飲むだけじゃん。気楽に行こうよ。それともわたしのような美少女と一緒だと緊張するのかな?」
「う、うん。」
「わたしの事、美少女って思ってくれてるんだ。うれしい。」
『おい。こいつずいぶんとしょってるぞ。自分で自分の事を美少女って言ってるぞ。』
『おまえもじゃないか。とにかく、喫茶店に行くぞ。』
「じゃあ。行こうか?」
「うん。」
一郎と玲子は教科書と筆記用具を鞄にしまうと一緒に歩き出した。
「お。玲子さん。どこ行くの?」
「うん。ちょっとね。」
知り合いらしき男達が声をかけてくるが玲子は軽くいなす。
美人の玲子と一緒に歩けて一郎は誇らしげであった。一郎は一生懸命に話題を考えて話をふった。アリサが時折ちゃちを入れてきたが無視した。
英語の講義のあった3号館から喫茶店のある学生会館まで少し距離があったが、一郎にとってはうれしい距離だった。しばらく歩くと、向こうから一人の少女が歩いてきた。少女はこちらに気づくと挨拶した。
「あら、越前さんに田中さん。こんにちは。」
「「こんにちは。」」
『あなた。動揺してるじゃない。どうしたの?』
『いや。なんでもない。』
『えー。今の子が本命なの。それで玲子は控えって、あんた何様?自分の顔を見たことある?』
『心の中で思ってるだけだから、いいだろ。オレの自由だ。お前なんかに指図される覚えはねえ。活発美人の玲子もいいけど、オレは正統派美人でおしとやかな尚子さんも好きなんだよ。』
『あ、あの子。』
一郎の意志に反して体は今すれ違った尚子振り返って目で追う。
「どうしたの?田中君。」
一郎の不審な行動に玲子が声をかけるが。
「ごめん。」
と言ってついには一郎は走り出してしまった。
一人残された玲子はしばらくぽかんとしていたが、
「へんな人。」
と言って怒って一人で喫茶店に向った。
『おい。アリサどうしたんだよ。オレの体を突然乗っ取って、玲子に変な奴と思われるじゃないか。ああ。もうだめだ。嫌われた。青春のささやかな幸せも悪霊に邪魔されていく。』
『ちょっとうるさいよ。黙って。今の子を付けるよ。』
『女の子を置き去りにして、その上ストーカー。オレの人生積んだ。』
『だから、うるさい。今の子、あんたと同じよ。』
『オレと同じ?』
『そう。異世界の魔物と合体した異能力者よ。』
『え。別に狂ってる風には見えなかったけど。』
『魔物に意識を乗っ取られなければ狂う事もないわ。わたし達みたいに共存も可能みたいよ。』
『じゃあ。さっきみたいにちゃっちゃとやっつけて尚子さんを救ってくれよ。』
『それが同じ魔物でもどうやら高位の魔人みたいなの。わたしで勝てるかどうかわからないわ。』
『そんな。』
『あ、角を曲がるよ。』
一郎は角を曲がって追ったが、角を曲がった先には誰もいなかった。
「何か用?田中さん。あなたにストーカーされる覚えはないわ。」
突然後ろから声をかけられた一郎は振り返った。
「ああ。あんたに覚えはなくてもこっちにはあるんだよ。尚子さん。悪いけどちょっと痛い目を見てもらうよ。」
「ふん。どっちが痛い目を見るかしら。」
二人は同時に体内の異世界人を解放した。