第3話 死にたい
電車内で一郎は考えた。
『オレはこれからどうなるんだ。そういえばジョジョのスタンドも最初は悪霊にとり憑かれたって言ってたよな。悪霊の力でオレも超人的な力を得たんじゃないか?この力でオレも時を止めたりして。あと、物を再生したりするのも悪くないな。弾丸ぐらいは掴んでほしいよな。オラオラオラァとか無駄無駄無駄無駄って言ってみたりして。』
『あのー。盛り上がってるところ悪いけど、わたしは悪霊じゃないから。あと、時なんか止めれるわけないじゃん。あんたばかなの?』
『う、うわー。な。な。おまえオレの意識の中にまで入ってくるのか?』
『あ、なんか。入ってくるって言うか。あなたの意識とわたしの意識が同調しちゃったみたい。わたしはあなたの別人格としてこれから生きていくみたいな。』
『生きていくみたいなって。オレはこうやって人格を乗っ取られて、やがて殺人鬼になるんだー。いやだー。』
『いやだーじゃないわよ。人格を乗っ取るんじゃなくて融合していくと言ってほしいな。あと、絶対にあなたを殺人鬼にさせないから。』
『うわーん。オレのプライバシーはどうなるんだ。変な女騎士に24時間監視されて、頭の中まで覗かれて。気がおかしくなるー。』
『気がおかしくなるーってのはわたしもおんなじなんだから勘弁してよ。あなたが前の女の人を見て密かに発情してた時はわたしも気まずかったんだから。パンツの中身ならわたしのを見せてあげるのに。』
『もう、死のう。お父さん。お母さん。先立つ不孝をお許しください。』
『ちょ、ちょっと待った。わたしが言うのもなんだけど、死んでも良い事はないわよ。だいいち、いざとなったら、わたしが体を乗っ取って死なせないから。』
『お、オレには死ぬ自由すらないのか。』
『まあまあそんなに悲観的にならないで前向きに行きましょうよ。これからあなたはわたしみたいな美人のお姉さんといつでもお話できるって事じゃないの。』
『美人たって見えてるわけじゃないし、だいたい自分で美人って言ってるやつはろくなもんじゃねえぞ。あと、二つの意志があったらオレの心はパンクしちゃうんじゃないのか?』
『うん。それは大丈夫みたい。あなたの副人格であるわたしはほとんど眠ってるからね。』
『ほとんど眠ってるなら、なんで今出てきてるんだよ?』
『ああ、それはあなたが興奮したときにわたしが目覚めるからよ。』
『興奮?いつ?』
『さっき、発情してたじゃん。』
『うわー。死にます。今すぐ死にます。』
『だから、それは無理だって。まあ、若いんだからしょうがないよ。わたしだってイケメンのあそこを想像したりするから。』
『おまえ。オレの体を乗っ取って変な事をするなよ。』
『たまにしかしないから安心して。』
『うわー。死にます。』
『だから冗談だって。ところで、こっちの世界の事を教えてよ。さっきからこの部屋が凄い速度で動いてるみたいなんだけど、何なの?魔法?』
『ああ、これは電車と言って部屋じゃなくて馬車のオバケみたいなものだ。魔法でなくて科学だ。』
『ありがとう。なんかよくわからんけど、こんな大きな馬車を引くなんてとんでもない化け物の馬がひっぱってるんだね。それになんか元気出てきたみたいね。』
『元気が出たんじゃなくて開き直ってるんだよ。そっちの世界の事も教えてくれよ。やっぱり魔法とかで火を出したりするんかい?』
『ああ、わたしは水の特性があるから出せないけど、火の特性がある人や魔物は火を出すよ。』
『水?なんか弱そうだな?やっぱり、火の方が派手でいいな。』
『あなた、水の凄さがわからないの。火を消すのは水よ。それに凍らせて打ち出せば、風にだって負けないんだからね。』
『なんか、魔法の事になるとむきになるんだな。おまえ。』
『そうね。魔法はわたし達のプライドだからね。』
一人で自問自答?を繰り返したのち一郎は大学に着いた。今日の一限目は英語だった。出席番号順に席が決められており、一郎は自分の席に着いた。
「おはよう。」
前の席の活発そうな美女が声をかけてきた。
「お、おはよ。」
一郎は返事を返した。
「ねえ。課題出てたのやってきた?」
「え?課題?」
「田中君。やっぱり忘れてるんだ。いいわよ。生協の喫茶店のコーヒー一杯でいいわ。」
「すまない。」
一郎はレポート用紙を受け取って写し始めた。
必死で書き写す一郎の頭の中に突然声が響く。
『ははーん。この子が一郎の思い人ね。』
『うわー。恥ずかしい。もう死にたい。』
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