第一話 5
今までで一番、背筋がぞわりとした。
聞き間違え、ではない。
確かに少年は自分の名前を呼んでいた。
「・・・はっ、なん、なんで、俺の名前・・・?」
瞬時にこの店が不気味に見えた。
傘立てにもたれている盾みたいな鉄板も、本棚にあるうっすら青く光る瓶も、この双子も、男も、少年も、あまりにも不気味すぎる。
自然、足が勝手に後ずさった。
「や、やっぱ俺、帰ります・・・」
振り返り、足早に扉を目指した。その辺にある道具すべてが自分を見ているかのような錯覚を覚えてしまう。震える手で扉の取っ手を掴みぐいと引っ張っり。
そこで、扉が開かないことに戦慄した。
「え・・・え?」
ぐいぐいとどんなに引っ張ってもびくともしない。まるで溶接されてしまったかのようだ。
「ちょ、おい・・・マジか!」
両手で思い切り力を込めても、もしかして押すのかと思っても、横にスライドさせようとしてもまったく動かない。ぼろそうな木材で出来てるくせに軋みもしない。
「ダメだよ、お兄さん。」
「無駄だよ、お兄さん。」
愛らしい声が、肌を粟立たせる。
首だけ振り向くと、まんまるい愛らしい瞳がこちらを見つめていた。
「それは開かないよ。」
「それは開けないよ。」
「小龍のお話聞いてからね、お兄さん。」
「そしたら開けてあげるからね、お兄さん。」
くすくすくす、と無邪気な声が陰鬱に響く。
やばい。
けれど、逃げられない。
パニックになって思考が停止した俺に、少年が一歩、歩み寄った。