第一話 4
「~~~~~!」
また声の無い悲鳴をあげる。
意識が遠のいていくのがわかる。
ああ、これ、死亡フラグなんじゃ――――
「歓迎光臨、大哥!」
「歓迎光臨、大哥!」
「・・・へっ?」
可愛らしい声が足元から聞こえた。
遠のいた意識が瞬時に戻ってくる。
改めて下を見た瞬間、えぇ? と情けない声が出た。
右足にいたのは、長い髪を頭の上でお団子上に結った、小さな男の子。
左足にいたのは、これまた長い髪をおさげにした、同じくらいの年の女の子。
二人とも大きく愛らしい目を岳人に向けて、にっこりと笑った。
「いらっしゃい、お兄さん。」
「よく来たね、お兄さん。」
驚愕と戸惑いでフリーズしてしまっている岳人の手を取ると、店の中にぐいと引っ張った。
「さあさ、お兄さん、欲しいものはなあに?」
「さあさ、お兄さん、買いたいものはなあに?」
似たような声で二人が問う。
「は、え? 欲しいもの? っていうかきみたちは?」
「僕らはここの子なの。僕は礼麒。」
「あたしらはここで働いてるの。あたしは礼麟。」
きゃっきゃと二人が笑う。
「ああ、ここのお店の・・・お孫さん?」
二人は顔を見合わせ、くすくす笑った。
「なんでもいいよ。それより、何が欲しいの?」
「なんでもいいよ。それより、どれが欲しいの?」
二人はくるくると舞うように歩きながら、奥に向かって声をかけた。
「ミスター! 電気つけて!」
「ミスター! お客さんだよ!」
その声を受けた直後。
奥から、声が聞こえた。
「あいよー。」
その答えが返ってくると同時に、部屋の電気がぱっと点いた。
そこで、再び岳人は仰天した。
色々なもの、本当にジャンルの無い色々なものがあちらこちらに積まれていた。
傘立てと思わしき物の中には傘だけではなく、剣や弓や槍など物騒なものまでささっている。
本棚には本だけでなく小瓶に入った液体をいくつも並べたり、古い木箱があちらこちらに置かれている。
店のところどころには恐ろしい顔の銅像や石像が無造作に置かれていた。こころなしか、こちらを睨んでいるようにも感じるので見ないふりをする。
外からみるよりはるかに大きな店内に、ただただ驚くことしか出来なかった。
「すっ・・・すご・・・」
二人の子どもが自慢げに言った。
「でしょう? なんでもあるんだよ?」
「でしょう? 無いものは無いんだよ。」
マンガやゲームでしかみたことない物もたくさんある。なんだここ、アニ〇イトか?
「あれぇ、まだ来ないの?」
「あれぇ、まだ来てないね?」
うーんと二人は首を傾げ、奥へと声をかけた。
「ねえ、小龍! お客さんだよ!」
「ねえ、リョー! お客さんだよ!」
ぷう、と膨れっ面になる二人の声に反応し、奥のドアがキイと開いた。
出てきたのは、二人の人物。
一人は優しいそうな柔和で綺麗な顔をした十二歳ほどの少年。
一人は筋肉質な活発そうな顔をした二十歳くらいの男。
二人とも、ゆったりした中国服を身にまとっていた。
びくりとした岳人に、少年はさらに優しく微笑んだ。
「お待たせしました。」
深々とお辞儀をした少年の向こうで男が軽く頭を下げる。
「すんませんね、片付けが終わらなくて。」
ぶっきらぼうな言い方だが、不思議と嫌な感じはしなかった。
少年は音もなく岳人に近寄り、女と見紛うような美しい顔で笑んだ。
「いらっしゃいませ。僕はこの音木箱の主、名を龍稀と申します。あちらは助手のリョウです。」
男はもう一度簡単に頭を下げた。
「あ、ども・・・あの、ここは何のお店――――がふっ!」
続きを言う前に、子ども二人が岳人に突進してきた。
「ねえねえ、何が欲しいの!?」
「ねえねえ、何を買いたいの!?」
「こら、二人とも。ぶつかるなんて失礼だろう?」
やんわりとたしなめられ、二人はしぶしぶ岳人から離れた。
「それに、この方はお客様じゃないよ。」
二人・・・いや、岳人を含めて三人が頭にはてなを浮かべる。
少年はまた頭を少しだけ下げ、両手を前にして抱えた。
昔の中国のドラマだとこーいうポーズよくあるよな、なんてぼーっと考えていたのも、少年の言葉を聞いた瞬間にどこかへ飛んでいってしまった。
「今日お引止めしましたのは他でもありません。お願いがございます――――川井岳人様。」