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C 坊やは夕食を取ろうと、ホテルのレストラン街に向かった。
店の入り口を見ただけで、どんな店かは大体分かった。赤い柱の中華。ヒノキ造りの和食に、石造りのフランス。お腹を空かせた客が、どの店にしようかとレストランフロアを行ったり来たりしていた。
浴衣姿のテリーが、赤レンガのイタリア料理店の前に立っていた。いつもしっかりと軍服を着込み、眉間に皺を寄せている戦場の彼女しか知らなかったが、オフの彼女は、誰にも見せた事のない柔らかい表情をしていた。お風呂上りで髪は濡れていて、浴衣の裾も少しはだけていた。
テリーは坊やを見かけると、無防備な優しい表情で話しかけてきた。
「こんばんは。ご飯はもう食べた?」
坊やは首を振った。
「よかったらだけど、夕飯一緒にしませんか?」
坊やは頷いて、辺りを見回した。
ドス黒いオーラを放っている一角があった。入り口は堅穴式住居のようだった。他の店からは焼ける音とか揚げる音が聞こえるが、この店からは猿の叫び声がした。腹を空かせた客も、この一角だけには寄り付こうとしなかった。
坊やはこの堅穴式住居を指差した。テリーは少しがっかりした顔になった。普通に、一緒に美味しい料理を食べて、楽しくお話したかったのに。
坊やは真顔で頼んだ。まずかったら全力で踏んだり蹴ったりして欲しい、五十万までは出す、と。テリーは頭を抱えた。
二人は堅穴式住居の店に入った。内装は壁画古墳をイメージしていて、テーブルは石、椅子は丸太だった。店員は港川人似だった。メニューには「猩唇(オラウータンの唇)」、「獅鞭」、「虎乳(虎のおっぱい)」といった、初めて見る漢字がずらりと並んでいた。
メニューの中に、「北印流辛味汁」という料理があった。これはおそらく、北インドのカレーだろう。テリーは救われた思いになった。彼女はすぐに港川人を呼んで、この料理を注文した。
しばらくして、港川人が猿の頭の丸焼きを持ってきた。毛は焼け落ち、顔は苦悶に満ちていて、落ち武者の生首のようだった。頭部は輪切りにされていて、脳みそが露出していた。頭の皿はカレースープ状の液体に満たされていた。
「全然カレーじゃないよ!」
坊やはスプーンで一気に行った。テリーは気分が悪くなってきた。坊やは皿を回して、猿の顔をテリーに向けた。テリーは光の速さで皿を坊やに向けた。
「外では恋人同士がハート型のストローでパイナップルジュース飲んでるのに、何なのこれ。大体一緒だろって、全然一緒じゃない」
坊やは交換条件を申し出た。食べたらご褒美にキスしてあげる、と。テリーはしばらく悩んでから、「これは前払い」と坊やの手を握って、頬にキスした。
彼女は意を決して一口食べた。「あれ?」とテリーは眉間を抑えて、それからもう一口食べた。「……普通に美味しい」と彼女は可笑しそうに笑い、坊やも嬉しそうに笑った。
二人は外の恋人同士のように、メニューを眺めて作戦会議を開いた。
「次こちち(虎乳)にするの?あなたって、本当におっぱいだったら何でもいいんだね。獣のだよ?」
笑いの絶えないテーブルだった。祭りの夜は陽気に過ぎていった。




