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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
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9-14-B

 B 坊やはホテルを出て、祭り真っ盛りの街を歩いた。

 ギリシャ神殿のような石造りの街並みを、ねぶたのような山車が賑やかに練り歩いていた。提灯で飾った沿道には大勢の人が集まっていたが、目抜き通りは人気もなく、観光客が冷やかしに通る程度だった。その中に、先生の姿もあった。

 彼女は長い銀髪をハーフアップにまとめて、白地に紅葉を散らした浴衣を着ていた。死に装束のような浴衣だった。これを凛とした長身の美少女が着ると、敵対組織に殴り込む極道の妻に見えた。観光客は彼女をチラチラと盗み見ているが、余りにも綺麗で怖くて、誰も声をかけられなかった。

 彼女は悩んだ顔で、ショーウィンドウ越しに冬のブーツを眺めていた。坊やは彼女に申し出た。悩みがあるなら相談に乗る、と。


「だから、私が君の心配をするのはいい。けど、その逆は絶対に許さない」


 二人は祭り会場に移動して、桟敷から山車を眺めた。周りの客はどうでもいい事を大声で話し、つまらない事で大笑いしているが、二人は全く話さなかった。

 二人の前を、様々な山車が通り過ぎていった。勇壮な義経の山車。恐ろしいオロチの山車。ユーモラスな見ざる言わざる聞かざるの山車。どよめいたり、笑ったりする客に包まれている内に、彼女の氷のような表情も綻び始めた。

 ピンク色の巨大ペニス山車が通り過ぎた。先生は吹き出した。周りも大笑いしたり、悲鳴を上げたり、子供の目を隠したりした。

 先生は明るく笑った後、「君には悩みはないの?」と笑い涙を拭いながら尋ねた。立烏帽子が悩んでいる事が悩みだ、と坊やは答えた。

 桟敷席に老人夫婦がやってきた。空き席がないか見回しているが、どこにもなく、他の客も代わってくれそうになかった。先生は立ち上がって、「使ってください」と申し出た。

 会場から少し離れた場所に、暗い丘があった。山頂には神社が建っていた。二人は麓の赤鳥居を潜って、苔生した石階段を上っていった。

 先生は少しずつ、自分の心を話し始めた。


「この戦いは冬までには終わるでしょ。そうしたら、川の向こうに帰らなきゃいけない。何もないあっちに。私は人間が好きだよ?だから……」


 夜空に花火が打ち上がった。二人は立ち止まって、夜空を見上げた。花火の鮮やかな光が、先生の美しくも悲しい横顔を照らし出した。

 ずっとこっちにいればいい、と坊やは言った。彼女は答えなかった。

 また、花火が上がった。ずっとこっちにいろ、と坊やは命じた。

 夜空に大きな花火が咲いて、様々な色の光が二人に降り注いだ。ハート型の花火や、枝垂れ落ちる花火、小玉が大量に炸裂する派手な花火。沢山の花火が打ち上がる様を、先生はじっと見ていた。隣で彼女の横顔を見つめていると、花火の涙を流しているようだった。

 坊やは先生の手をそっと握った。


「……人。人来たら、すぐ離す。OK?」


 坊やは頷いた。「グッボーイ」と微笑んで、先生は彼の手を握り返した。誰もいない夜の階段の上で、二人は互いのぬくもりを伝え合った。

 先生は夜空を見つめて、「綺麗ね、花火って」と言った。鼻にツンと来るな、と坊やは答えた。


「そんな低レベルなボケ、よくもドヤ顔で。花火と?ワサビ?ハァ?君それ面白いと思ったの?マジで?ウワウワウワウワ、ワッ、サッビィ!っておい!」


 坊やは明るく笑ったが、先生は結構なマジトーンで怒った。


「だから何で私に突っ込ませるの!私だってボケたいの!笑わせたいの!」


 花火は何度も打ち上がって、じゃれ合う二人をずっと照らし続けた。

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