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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
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9-14-A

 A 坊やは秋水を探して、ホテル内をあちこち歩いた。

 大浴場に向かう廊下で、坊やは秋水に出会った。彼女は銀髪をざっくり片結びにして、ぶかぶかの浴衣に羽織を羽織っていた。「似合うサイズがなくて」と秋水は困った顔で笑った。

 大浴場の前に、「貸し切り 千代浜伯爵御一行様」と注意書きが張り出されていた。久しぶりに一緒に入ろうか、と坊やは冗談っぽく言った。

 秋水は恥ずかしそうに頷いた。坊やは引いている。「先、入っててください」と秋水は彼の背中を押して、大浴場の暖簾をくぐらせた。

 バタフライで泳げるほど広いヒノキ風呂だった。正面の大きな窓から、夜の太平洋が見えた。坊やは肩まで浸かって、足を大きく伸ばし、風呂の縁に後頭部を預けて、気持ちよさそうに目を閉じた。

 誰もいない脱衣場で、秋水はおずおずと浴衣を脱いだ。肌は透き通るように白く、体は華奢で全く肉が付いていなかった。下着は履いていなかった。彼女はタオルで前を隠して、戸に手をかけた。まだ男でも女でもない、中性的な背中だった。痩せた脇腹からうっすらアバラが浮き出ていて、お尻は少しだけ丸みを帯び始めていた。

 戸が開く音がした。足音がして、シャワーの音がして、それから濡れた足音が近付いてきて、目を開けようとしたら、顔にタオルを掛けられた。湯に浸かる音がして、「取っていいですよ」と秋水の声がした。

 タオルを取ると、頬を染めた秋水が隣に座っていた。湯に浸かった仄かな谷間は、もう薄紅色に染まっていた。

 坊やは気位の高い妹にやんわり注意した。

 無茶振りして、スベって、アハハ面白いねで終わる話なのに、突然負けず嫌いスイッチが入って、フルパワーで無茶振りをやり切る。スベって笑われたっていいじゃないか、馬鹿にする奴はお兄ちゃんが怒ってやる、と。


「ハァ……これ、一度しか言わないからよく聞いてください。

 負けず嫌いじゃない。お兄ちゃんの事、初めて会った時から大大大大大好きだから、何だってしてあげたいんです。大好きだから、どんな事だって辛くない、恥ずかしくない。お兄ちゃんが思ってる以上に、僕はお兄ちゃんが大好きなんだからね?」


 坊やは謝って、秋水の頭を撫でた。秋水は潤んだ目で、信頼しきった表情で尋ねた。


「今夜はお兄ちゃんのお布団で一緒に寝ていい?」


 坊やが頷くと、秋水は嬉しそうに笑いかけた。

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