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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
88/136

9-12

 財団メンバーは全員逮捕されて、護送車で連行されていった。山崎と長谷川は観念して大人しくなったが、殿下は「放せよ非国民!」「帝都の叔父様に言い付けんぞ!」とまだ喚き散らしていた。

 ホテルの玄関前で、シルバは秋水に礼を述べた。


「ありがとうございました。これで何とかローンも払えそうです」


 秋水は微笑み、ある事を頼んだ。


「取調べの方お願いします。特に、あの絵の事」

「はい。何かあればまた一緒に捜査しましょう。それでは、アリサ殿下」


 シルバは丁寧に頭を下げて、馬車に乗り込んだ。

 後ろから、客の声がした。彼らは何事もなかったかのように、坊や達に群がって媚を売っていた。


「伯爵!」「伯爵お待ちください!」「ねえ待ってください!」


 坊や達がアリサの方に逃げてきた。

 ホテル前に、アシュリーの運転する車が止まった。まず先生とテリーが車に乗り込んだ。二人は車内から、秋水に手を差し伸べた。


「ほら早く!」「軍師殿!」


 アリサは立ち竦んだ。

 坊やが後ろから走ってきた。彼はアリサの手を引っ張って車に乗り込んだ。


「伯爵様!」「私機械販売業を営む田川と申します!どうかお見知りおきください!」


 叫ぶ客を置き去りにして、車はホテル前を走り去った。

 ハンドルを握ったアシュリーは、「このまま本白浜に向かいます」と告げた。後部座席のテリーは、「心配したんですよ!」と本気で怒り、先生は何も言わずに優しい表情で見つめた。

 アリサは刀を坊やに渡した。坊やはその刀を抜いた。刀身は赤く輝いていて、刃で手の平を切ってもすり抜けるだけだった。色は違うし、字も刻まれていないが、間違いなくソハヤと同じヒヒイロカネの刃だった。

 テリーは息を飲んだ。「早く仕舞って、気持ち悪い」と先生。坊やは刀を鞘に納めた。


「あの日、自分が何で生かされたのか、どうしてその剣を託されたのか、ずっと考えてきました。全てを知っていた父(田村佑国)はもう……気付いたら王宮にいて、しばらくしたら栄岡に引き取られていました。坊ちゃま、船で言った事を覚えていますか?」


 坊やは頷いた。


「僕達はいつの間にか、国を作るために戦わされていました。栄岡を追われてから一度も、田村の赤ムカデの旗を掲げた事がありませんでした。これからの事、皆とちゃんとお話したかったけど、昔の嫌な記憶とか、自分の汚い気持ちが、心の奥からどんどん溢れてきて……皆と、前みたいに話せなくなって……」


 アリサの頬を、一筋の涙が伝った。彼女は小指で拭いながら告白した。


「でも……もう、一人は嫌だから……また、皆と一緒に仲良くしたい……」


 A「全部終わったら犯人を捜そう」

 B「世界一の軍師を手放すはずがない」

 C「いいから髄液が漏れるまで殴れ」

 ↓

 A、B アリサは両手を顔に押し当てて泣いた。「ありがとう、お兄ちゃん……」


 C アリサは違う意味で泣いた。「超キモい……地獄に落ちてお兄ちゃん……」


 先生は泣きじゃくるアリサを抱き締めた。テリーは手を握って、「ごめんなさい。一人でずっと苦しかったね?悲しませたね?」と声をかけた。運転中のアシュリーは大泣きして、鼻水を流しながらハンドルを握り続けた。

 テリーはティッシュを顔に当てて、アシュリーは音を立てて鼻を噛んだ。後部座席の人々は泣き顔で笑った。アシュリーは泣き顔で怒った。


「しょうがないじゃないですか!運転中ですよ!?」


 車内の人々は、またいつもの雰囲気に戻っていった。

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