9-12
財団メンバーは全員逮捕されて、護送車で連行されていった。山崎と長谷川は観念して大人しくなったが、殿下は「放せよ非国民!」「帝都の叔父様に言い付けんぞ!」とまだ喚き散らしていた。
ホテルの玄関前で、シルバは秋水に礼を述べた。
「ありがとうございました。これで何とかローンも払えそうです」
秋水は微笑み、ある事を頼んだ。
「取調べの方お願いします。特に、あの絵の事」
「はい。何かあればまた一緒に捜査しましょう。それでは、アリサ殿下」
シルバは丁寧に頭を下げて、馬車に乗り込んだ。
後ろから、客の声がした。彼らは何事もなかったかのように、坊や達に群がって媚を売っていた。
「伯爵!」「伯爵お待ちください!」「ねえ待ってください!」
坊や達がアリサの方に逃げてきた。
ホテル前に、アシュリーの運転する車が止まった。まず先生とテリーが車に乗り込んだ。二人は車内から、秋水に手を差し伸べた。
「ほら早く!」「軍師殿!」
アリサは立ち竦んだ。
坊やが後ろから走ってきた。彼はアリサの手を引っ張って車に乗り込んだ。
「伯爵様!」「私機械販売業を営む田川と申します!どうかお見知りおきください!」
叫ぶ客を置き去りにして、車はホテル前を走り去った。
ハンドルを握ったアシュリーは、「このまま本白浜に向かいます」と告げた。後部座席のテリーは、「心配したんですよ!」と本気で怒り、先生は何も言わずに優しい表情で見つめた。
アリサは刀を坊やに渡した。坊やはその刀を抜いた。刀身は赤く輝いていて、刃で手の平を切ってもすり抜けるだけだった。色は違うし、字も刻まれていないが、間違いなくソハヤと同じヒヒイロカネの刃だった。
テリーは息を飲んだ。「早く仕舞って、気持ち悪い」と先生。坊やは刀を鞘に納めた。
「あの日、自分が何で生かされたのか、どうしてその剣を託されたのか、ずっと考えてきました。全てを知っていた父(田村佑国)はもう……気付いたら王宮にいて、しばらくしたら栄岡に引き取られていました。坊ちゃま、船で言った事を覚えていますか?」
坊やは頷いた。
「僕達はいつの間にか、国を作るために戦わされていました。栄岡を追われてから一度も、田村の赤ムカデの旗を掲げた事がありませんでした。これからの事、皆とちゃんとお話したかったけど、昔の嫌な記憶とか、自分の汚い気持ちが、心の奥からどんどん溢れてきて……皆と、前みたいに話せなくなって……」
アリサの頬を、一筋の涙が伝った。彼女は小指で拭いながら告白した。
「でも……もう、一人は嫌だから……また、皆と一緒に仲良くしたい……」
A「全部終わったら犯人を捜そう」
B「世界一の軍師を手放すはずがない」
C「いいから髄液が漏れるまで殴れ」
↓
A、B アリサは両手を顔に押し当てて泣いた。「ありがとう、お兄ちゃん……」
C アリサは違う意味で泣いた。「超キモい……地獄に落ちてお兄ちゃん……」
先生は泣きじゃくるアリサを抱き締めた。テリーは手を握って、「ごめんなさい。一人でずっと苦しかったね?悲しませたね?」と声をかけた。運転中のアシュリーは大泣きして、鼻水を流しながらハンドルを握り続けた。
テリーはティッシュを顔に当てて、アシュリーは音を立てて鼻を噛んだ。後部座席の人々は泣き顔で笑った。アシュリーは泣き顔で怒った。
「しょうがないじゃないですか!運転中ですよ!?」
車内の人々は、またいつもの雰囲気に戻っていった。




