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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
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9-7

 郊外の丘に、明治生命館に似たホテルが建っていた。一行は一階カウンターで要件を告げて、山崎本人を呼び出した。その間、秋水はラウンジの方を見ていた。

 大勢の紳士淑女が、「皇女殿下ご婚約おめでとう お祝い金受付会場」のテーブルに列を作っていた。彼らはカステラほど分厚い熨斗袋や、金の延べ棒が入ったケースをスタッフに渡して、名簿に名前を書いた。「殿下万歳!」と泣き出す者や、国歌を歌う者もいた。

 スタッフは皆若く爽やかで、服装にも清潔感があり、言葉遣いも丁寧だった。一体、どこから探してきたのだろうという好青年ばかりだった。時折客にもらい泣きするような、情に厚い所も見せた。これは騙される。

 山崎がやってきた。丸顔でヒゲを生やした、藤原道長似の男である。何故かフランス軍の立派な軍服を着ていて、首から下はナポレオン三世のようだった。捜査の手が近付いてきたのを悟った彼は、最後の一稼ぎにと、自分と偽皇女の婚約を発表した。

 山崎は秋水とシルバ、その相棒の刑事を部屋に案内した。

 ホテルの中庭で、偽アリサ殿下と女官が蹴鞠に興じていた。顔に白粉を塗り、真っ赤な狩衣を着た一団が、「アリヤー、アリ」と声を出して鞠を蹴る様は、別次元の出来事のようで、シルバはしばらく見入ってしまった。

 山崎は殿下に会釈した後、シルバに言った。


「武士が嗜む技芸として、和歌、画、茶の湯、舞、笛、そして蹴鞠があります。先帝陛下は誰よりも武人らしいお方でありました。その薫陶を受けたアリサ殿下も」


 秋水は反論した。


「事件の時、アリサは生後一週間でした。父の教えを受けた?」

「お父上と同じ、猛々しい赤い血が流れておられる。体が自然と動かれるのですよ。

 ではこちらへ。靴は脱いでください」


 山崎は一行を部屋に招き入れた。最初に山崎が、次いで相棒の刑事が入った。シルバは自分の両頬を軽く叩いて、気を落ち着かせた。

 女官がコントロールを誤って、鞠を秋水の方に飛ばしてしまった。

 女官は「危ない!」と、背中を向けた秋水に叫んだ。秋水は強烈なオーバーヘッドキックで鞠を蹴り返した。鞠は殿下の頬を高速でかすめて、後ろの壁にぶち当たった。

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