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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
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9-6

 秋水と刑事は、海沿いの温泉街、白浜で下りた。美しい浜辺を持つ、ローマ風の白い街である。一行が訪れた時期はちょうど秋祭りの季節で、街は大勢の観光客で賑わっていた。

 街は祭り前の高揚感に溢れていた。神社の境内には夜店が立っていた。通りには桟敷が組まれていた。駅前を浴衣の人々が行き交っていた。駅前に立っていると、どこからか、太鼓や笛の音が聞こえてきた。

 シルバ刑事はポツリと呟いた。


「街全体がふわふわしてる。騙すには最高のコンディションだ」


 一行は駅前で地元署のチームと合流した。シルバは皆に秋水を紹介した。


「王室直轄機関のエージェントの水神狩流さんです。捜査に協力してくれます」


 刑事達はクスクス笑い、秋水は少し不機嫌な顔になった。「いやすごい人だから!」とシルバは擁護した。

 一行は馬車で郊外へ移動した。シルバは車内で資料を見せて、概要を説明した。

 数年前から、西海岸一帯で皇族詐欺事件が頻発していた。犯人は前皇帝の末娘アリサを名乗り、様々な手口で被害者から金を引き出していた。

「帝王の神刀を持っている。あなただけにお譲りしたい」

「父の遺産に投資しないか。元本は保証する」

「皇帝から中小企業振興団体の総裁に命じられた。登録費を払えば融資出来る」……

 十数年前、皇帝一家は別荘にいた所を襲われ、ペットや召使に至るまで皆殺しにされた。別荘は燃やされ、一切の証拠が消された。この時唯一生き残ったとされるのが、生まれたばかりのアリサ皇女である。

 事件直後から、ある噂が囁かれていた。アリサは生きている、数名の家臣に守られて西海岸に落ち延びた―。その後も何度もこの噂が立った。その都度、皇族詐欺師が現れては闇に消えていった。西海岸で彼女の名を知らぬ者はいなかった。


「ディティールがともかく細かいんですよ。帝室の有職故実にとても詳しい。それで皆引っ掛かる。主犯はこの二人です」


 シルバは二人の写真と履歴を見せた。

 一人はアリサ記念財団総帥の山崎寿一。藤原道長に似ている。元地面師(土地取引専門の詐欺師)で、傷害と偽造で二度実刑。出所後財団を設立して、皇族詐欺に手を染めた。

 もう一人は偽皇女の猪木徳穂。紫式部に似ている。美大卒。夜の街で山崎と出会い、犯罪者に堕ちた。見た目は雅な二人なので、本物の殿下だ、と騙される人もいるかもしれない。

 秋水が言った。


「帝室には独特かつ煩雑なしきたりがあります。それを全て把握しているのは、専門の礼式官と、尊王院大学の国学教授ぐらいでしょう。皇帝さえ理解していなかった物を、皇女が把握しているとは思えない」


 シルバは「バカ殿で有名だった」と率直に意見を述べた。車内の空気が変わった。刑事の一人が、「さすがにそれは……」と口にした。


「『皇族の方だから嘘は付かない』。その思い込みがここまで被害を拡大させた。逮捕したいのなら率直に話し合うべきです。蹴鞠好きで、タージマハルみたいなのを四つも五つも建てた。これが名君なら、今川氏真は神君です」

「山崎は詐欺と土地取引しか知りません。アドバイザーがいるはずです。そちらを逮捕しないと、第二、第三の山崎に寄生して、また事件を起こすでしょう」

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