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深夜、鬼怒川の水面を歩いて、銀髪の女剣士が人間側の岸にやってきた。
九頭身の抜群のプロポーションだった。長い銀髪に、真っ赤な椿の花飾りを挿していた。水干と呼ばれる、天狗や牛若丸が着ているような平安時代の赤い装束を身にまとい、腰に三本の直刀と、一個の赤瓢箪を吊るしていた。
水面から、スカイツリー腕が飛び出してきた。腕は人間側の岸に坊やを置くと、また水中へ戻っていった。坊やは全身真っ黒で、四つんばいになって荒く呼吸していた。
月の明るい夜だった。青い光が岸を照らしていた。坊やは立ち上がって顔を拭った。
背後から、何かが音もなく近付いてきた。坊やは気配を察して振り返った。
「よかった、まだ殺されてなくて。君、(強運を)持ってるね」
黒い川の上に、凛然とした美少女剣士が立っていた。彫りの深い、完璧に左右正対称な顔立ち。目は紅く、肌は褐色。銀髪の前髪を揃えていた。
美少女剣士は優しげに微笑んだ。鬼側の岸からおぞましい風が吹いてきて、美しい銀髪がサラサラと揺れた。
(続く)