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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
79/136

9-3

 三人は郊外のアーバイン邸に到着した。桂離宮風の大きな屋敷である。庭池のほとりにテーブルが並べられていて、そこで着飾った紳士淑女が会話を楽しんでいた。池の対岸には詫びた茶室が佇み、夜空には月が浮かんでいた。アシュリーは姉に尋ねた。


「おじいちゃんもピアース提督もいないね?」

「提督は腰痛。ピアースは別任務。彼、元々裏でコソコソ動くの得意だから」

「いいなあ。私、こういう場って苦手だ」


 三人は客に挨拶した。彼らはそっけなく会釈して、また会話に戻った。前や後ろを通り過ぎても、誰もいないかのように無反応だった。彼らは有力者のように権威を求めて列を成したり、ファンのように群がったりしなかった。本物の上流階級には必要のない事だった。むしろ「仲間に加えてやる」「こちらの世界にようこそ」という感すらあった。

 テリーは露骨に嫌悪感を示した。アシュリーは坊やの耳元で「早く終わらせて帰りましょうね。今日はハンバーグカレーですよ」と囁いた。

 ゆるパパは客をそつなく接待していた。彼は坊やに呼びかけた。


「伯爵様!今日はお疲れ様でした。二人は早く着替えてきなさい。そんな格好で」

「これが正装です」とテリー。

「すぐ下がります」とアシュリー。

「全く。見なさい伯爵様を。公爵家の御令息らしい、堂々たるお振る舞い」

「忘れてた。お坊ちゃまなのよね?ママは王様の妹で、ガッチガチの王族」とテリー。

「だから言い方。平民がそんな口利いたら、不敬罪で島流しですよ」


 会場に秋水の姿はなかった。執事は屋敷まで秋水を呼びに行った。


「軍師殿。始まりました。会場までお越しください」


 執事は秋水の部屋の前で呼びかけたが、反応はなかった。部屋から人気がしなかった。不審に思った執事は「失礼致します!」と戸を開けた。

 秋水の部屋はすっかり片付けられていた。何もなくなった部屋に、「今までありがとうございました」というメモが残されていた。

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