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諸君、狂いたまえ   作者: カイザーソゼ
第9章 赤き血のイチゾク
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9-2

 坊やは市役所の二階ホールで、有力者向けに撮影会を行った。スーツ姿の議員に、赤袈裟の高僧、軍服の貴族や、着ぐるみのゆるキャラ達(と自治体幹部)。そういった人々と、坊やは何度も笑顔で握手を交わした。贈られた大量の名刺や花束、地元の名産品は、秘書官役のアシュリーが捌いた。

 彼女は大人カワイイテーラードジャケットに、セクシーなタイトスカート姿。ふわふわの髪をキッチリとフルアップにまとめていた。有能な女性秘書というイメージと、本来の清純な美少女のイメージが混ざり合っていた。

 握手しても握手しても列は途切れなかった。列は二階のホールから、一階の出口まで続いていた。

 時折、メイク担当が坊やの汗を拭いたり、ドーランを塗ったりした。その間は束の間の休憩時間で、坊やも休んだり、飲み物を飲んだりした。アシュリーは「もう少しですから、頑張りましょう」と優しく微笑みかけて、彼の曲がったネクタイを直してあげた。撮影が再開すると、坊やはまた笑顔で有力者に応対した。

 窓から夕日が差し込む頃、ようやく撮影会は終わった。坊やの手は握手のしすぎで震えていた。アシュリーはスケジュール手帳を確認して、彼に言った。


「お疲れ様でした。この後十八時からはアーバイン邸で晩餐会になります。今日はこれが最後のお仕事です!」


 最後に撮影スタッフ全員で記念写真を撮った後、二人は市役所を出た。役所の前に、女性ファンの大集団が待ち構えていて、警察がそれを交通整理していた。女性ファンは揃いのピンクの半被を着ていた。

 坊や達がやってくると、女性ファンは絶叫して二人に群がった。彼女達は、プレゼントやラブレターや結婚届を渡そうと、無数の手を伸ばしてきた。警察はスクラムを組んで二人を守った。まるでゾンビ映画の一シーンのようだった。

 二人は警察の犠牲で車に乗り込むと、市役所前を出発した。ピンクゾンビが全力ダッシュで追いかけてきたが、やがてその姿はサイドミラーから消えていった。

 車の後部座席には、軍服姿のテリーが乗っていた。プリンセスアビスは運転席の妹を咎めた。


「今日学校は?まさかサボったなんて言わないでしょうね?」

「違うよ。三日間臨時休校になったから、その間お手伝いしてるだけ」

「学生の仕事は勉強でしょ?あなたがやらなきゃいけない事って何?」

「いい大学に行って、立派な仕事に就く。でも、こうやって秘書のお仕事を経験するのも、将来きっと財産になる、と思うんだ……」

「ハァ……成績下がったら、家に拉致監禁して自習させるからね」


 アシュリーは嬉しそうに何度も頷いた。テリーは仕方ないな、という顔で問題を出した。


「問題。現在、一人当たりGNPが最も高いのはアルゼンチンです。その理由と課題を五十字程度で述べなさい」

「農産物価格が高く、南半球は収穫期が逆で市場優位に立てるため。しかし人件費が高騰し、米製品とのコスト競争で不利になりつつある」

「マルかバツか。無権代理が行われた場合、善意悪意に関わらず、相手は相当の期間を定めて本人に追認を催告出来、期間内に確答がない場合、追認は拒絶されたと推定される」

「マル」

「ブー。正解は拒絶されたと『見なされる』。明日から家の図書館で勉強しなさい」

「ずーるーい!」

「国Ⅰや司法試験なんてもっとずるくて意地悪なんだから。今の内慣れておきなさい」

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